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患者の死に涙する
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外科手術に関しては、手先の器用さからピカイちゃな結城先生。
毎日平均4回オペが行われる。
高度なオペばかりしてるからか、基本的に研修医のわたしは放置されている。
でも、わからないところを時間を見て聞けば、丁寧に教えてくれた。
研修医として、国立がん研究センターに勤め始めて1ヶ月後から、第2助手として結城先生のオペに立ち合うようになった。
患者のお腹を開き、的確に癌細胞を取り除いていく結城先生。
器具渡しと血液の吸引しかしてないわたし。
高度なオペばかり任されてる結城先生の事を尊敬した。
「縫合はどうやったら上手になりますか?」
午前の中に行われたオペが長引き、遅めの休憩に入る。
いつもは同期と集まってランチタイムを過ごすけど、今日は結城先生とオペ後に社員食堂へ行き、日替りランチのチキン南蛮定食を注文した。
「俺はやった事はないけど、大学時代の友人が豆腐に針と糸を通して練習をしてたな」
オペの縫合の練習を豆腐で練習という逸話がある。
実際はネタでやる人はいない。
「天沢、循環器外科専門に進むの?」
カツ丼定食にうどんをつけたガッツリランチを食べてる結城先生が箸を休め、わたしに言った。
「いえ、手先が不器用なので循環器内科に進みたいと思ってます」
不器用過ぎるわたしは、魚を三枚におろす事もできない。
だから、外科手術なんて無理だと思ってる。
「そっか、外科は器用さも求められるからな……」
残念そうに呟き、うどんをすする結城先生。
初期研修時代に希望する科を回る。
自分に合った科を見つけ、後期研修専門医になるための知識を蓄積する。
わたしは、癌治療についての専門医を目指してる。
薬物治療より早期に外科手術にかけた方が生存率は高い。
だから、わたしは研修医として外科に3ヶ月間配属された。
「癌細胞を外科的に取り除いても、それにより免疫低下や他の臓器に転移してるかもしれないから内科で薬物治療は必要だ。外科手術だけでは、患者を救えない」
神の手と、言われるぐらい、オペの成績がいい結城先生が言った。。
「結城先生は、本来はどちらの科に進む予定だったんですか!」
「癌専門医になりたいと思ってただけだがら、どこにまでは決めてなかった……」
大学の友人の6割は個人病院の跡取りで、専門が決まってた。
残り4割は、命に関わる現場をみて、怖気付け、整形外科や眼科、耳鼻科に進もうとしてた。
「結城先生、患者が亡くなった事ありますか?」
神の手と言われてる結城先生に聞いて良いか悩んだけど、思わず聞いてしまった。
「オペ後は無いけど、転移して手の施しようがなくて亡くなる患者はいたな」
結城先生が、思い出したのか悲しそうな表情を浮かべた。
医者という職業は、常に命に向き合わないといけない。
癌専門医を目指すと決めた時に、救えない命にも寄り添わないといけないという覚悟は決めてた。
でも、実際に患者の死に寄り添ってない今、わたしに耐えられるか不安だったりする。
5月の終わり。
4月の中頃に胃癌をオペで取り除いた20代の女性患者が、転移で子宮ガン末期で病院に運ばれた。
もう手の施しようがなく、飽和病棟で痛みを取り除く事しかできなくて、わたしは自分の無力さに涙した。
初めての患者で年が近いのもあり、回診で会話に花を咲かせたりしてた。
彼女は、近いうちに亡くなる。
それがわかってるから、でも彼女に亡くなるまで笑っていて欲しくて、休憩時間に足を運んだ。
大好きなアーティストの新曲やドラマの話をした。
彼女は死が近づいてても、好きな事をとことん楽しんでいた。
そんな彼女の生き方に、わたしは励まされた。
彼女は飽和病棟に入院してから、1ヶ月後、息を引き取った。
余命通りだった。
飽和病棟で送られた時点で、死は近いうちにくるとは、わかってた。
でも、年の近い、女性が亡くなった事が、悲しかった。
彼女に、
「天沢先生と会えて良かった。すごく楽しかった」
と、亡くなる2日前に言われた。
彼女は、自分の命が尽きる事をわかってた。
わたしは、久しぶりにできた友人の命を救えない自分の無力さに、涙した。
彼女が亡くなり、自宅に遺体を運ばれ、彼女と最後の別れをした。
循環器外科の医局で泣き崩れるわたしに、普段、わたしを放置してる結城先生かが、慰めてくれた。
「辛いな。天沢、斎藤さんと仲良かったから余計に……。思う存分に泣け」
わたしは、斎藤さんが亡くなった日、医局で泣き崩れ、仕事にならなかった。
そんなわたしを、そっとしてくれてた、結城先生にわたしは感謝した。
毎日平均4回オペが行われる。
高度なオペばかりしてるからか、基本的に研修医のわたしは放置されている。
でも、わからないところを時間を見て聞けば、丁寧に教えてくれた。
研修医として、国立がん研究センターに勤め始めて1ヶ月後から、第2助手として結城先生のオペに立ち合うようになった。
患者のお腹を開き、的確に癌細胞を取り除いていく結城先生。
器具渡しと血液の吸引しかしてないわたし。
高度なオペばかり任されてる結城先生の事を尊敬した。
「縫合はどうやったら上手になりますか?」
午前の中に行われたオペが長引き、遅めの休憩に入る。
いつもは同期と集まってランチタイムを過ごすけど、今日は結城先生とオペ後に社員食堂へ行き、日替りランチのチキン南蛮定食を注文した。
「俺はやった事はないけど、大学時代の友人が豆腐に針と糸を通して練習をしてたな」
オペの縫合の練習を豆腐で練習という逸話がある。
実際はネタでやる人はいない。
「天沢、循環器外科専門に進むの?」
カツ丼定食にうどんをつけたガッツリランチを食べてる結城先生が箸を休め、わたしに言った。
「いえ、手先が不器用なので循環器内科に進みたいと思ってます」
不器用過ぎるわたしは、魚を三枚におろす事もできない。
だから、外科手術なんて無理だと思ってる。
「そっか、外科は器用さも求められるからな……」
残念そうに呟き、うどんをすする結城先生。
初期研修時代に希望する科を回る。
自分に合った科を見つけ、後期研修専門医になるための知識を蓄積する。
わたしは、癌治療についての専門医を目指してる。
薬物治療より早期に外科手術にかけた方が生存率は高い。
だから、わたしは研修医として外科に3ヶ月間配属された。
「癌細胞を外科的に取り除いても、それにより免疫低下や他の臓器に転移してるかもしれないから内科で薬物治療は必要だ。外科手術だけでは、患者を救えない」
神の手と、言われるぐらい、オペの成績がいい結城先生が言った。。
「結城先生は、本来はどちらの科に進む予定だったんですか!」
「癌専門医になりたいと思ってただけだがら、どこにまでは決めてなかった……」
大学の友人の6割は個人病院の跡取りで、専門が決まってた。
残り4割は、命に関わる現場をみて、怖気付け、整形外科や眼科、耳鼻科に進もうとしてた。
「結城先生、患者が亡くなった事ありますか?」
神の手と言われてる結城先生に聞いて良いか悩んだけど、思わず聞いてしまった。
「オペ後は無いけど、転移して手の施しようがなくて亡くなる患者はいたな」
結城先生が、思い出したのか悲しそうな表情を浮かべた。
医者という職業は、常に命に向き合わないといけない。
癌専門医を目指すと決めた時に、救えない命にも寄り添わないといけないという覚悟は決めてた。
でも、実際に患者の死に寄り添ってない今、わたしに耐えられるか不安だったりする。
5月の終わり。
4月の中頃に胃癌をオペで取り除いた20代の女性患者が、転移で子宮ガン末期で病院に運ばれた。
もう手の施しようがなく、飽和病棟で痛みを取り除く事しかできなくて、わたしは自分の無力さに涙した。
初めての患者で年が近いのもあり、回診で会話に花を咲かせたりしてた。
彼女は、近いうちに亡くなる。
それがわかってるから、でも彼女に亡くなるまで笑っていて欲しくて、休憩時間に足を運んだ。
大好きなアーティストの新曲やドラマの話をした。
彼女は死が近づいてても、好きな事をとことん楽しんでいた。
そんな彼女の生き方に、わたしは励まされた。
彼女は飽和病棟に入院してから、1ヶ月後、息を引き取った。
余命通りだった。
飽和病棟で送られた時点で、死は近いうちにくるとは、わかってた。
でも、年の近い、女性が亡くなった事が、悲しかった。
彼女に、
「天沢先生と会えて良かった。すごく楽しかった」
と、亡くなる2日前に言われた。
彼女は、自分の命が尽きる事をわかってた。
わたしは、久しぶりにできた友人の命を救えない自分の無力さに、涙した。
彼女が亡くなり、自宅に遺体を運ばれ、彼女と最後の別れをした。
循環器外科の医局で泣き崩れるわたしに、普段、わたしを放置してる結城先生かが、慰めてくれた。
「辛いな。天沢、斎藤さんと仲良かったから余計に……。思う存分に泣け」
わたしは、斎藤さんが亡くなった日、医局で泣き崩れ、仕事にならなかった。
そんなわたしを、そっとしてくれてた、結城先生にわたしは感謝した。
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