Destiny Lover〜檸檬の薫りのような恋〜

鳴宮鶉子

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指導医の優しさに涙する

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斎藤さんの死をきっかけに、術後の癌の転移や術後を気にかけるようになったわたし。

特に若い子の癌の進行は速い。

不必要だと思われる検査を患者に提案し、まさかの転移で早期発見で、何人かの命を救うことができた。

「天沢は、循環器内科が向いてるな」

最近は、結城先生とお昼時間を過ごしてる。
結城先生と、それなりにフレンドリーに話せるようになった。

「天沢も個人病院の跡取りなの?」

医者になる人の大半は、親が病院わ経営していてその跡を継ぐためだったりする。

「違います。父子家庭で育ててくれた父が5年半前に癌で亡くなって、医者になりたいと思いました。今は親しい身内はいなくて1人で生活してます」

孤独なのに慣れたわたし。
高校卒業直前にパパが、亡くなって、6年半経ってた。

「……苦労して、育ったんだな」

苦労をしてきた気はないけど、誰もいない家に帰る寂しさはいまだにある。

年末や盆に帰る家もない。


「天沢、高校卒業間際からずっと1人暮らしなの?風邪をひいた時とかどうしてたんだ?」

「重症化しないように早めに対処してました。常に家にはミネラルウォーターとスポーツ飲料は置いてるから、寝込んでも大丈夫なようにしてます」

1人暮らしをしてると、もしものための対策を万全に整えてないといけない。
気を引き締めて生活をしてるから、パパが亡くなってからは、風邪はひいても重症化する事は無かった。

でも病院勤めをしていると、仕事柄マスクをしていても、風邪等を貰いそうで怖かったりする。

「高熱が出て、どうしようもないときは、俺を呼べ。仕事が終わったら駆けつけるから」

わたしを心配して、結城先生が有難い申し出をしてくれた。

蒸し暑い梅雨。

慣れない病院勤務の疲れから、風邪をこじらせ、珍しく39℃の熱を出した。

さすがに出勤は無理で欠席の電話をかけ、身体のだるさから、そのままベッドに横になり眠りについた。


久しぶりに出る高熱に、寒気で震える。

立ち上がるのも無理で、ベッドに横たわる。

熱を測ると41℃を超えていてまずいと思いつつ、そのままベッドに横になってた。

地元福岡から京都の大学に行き、就職で東京に出てきたわたし。

東京には頼れる友人や親戚はいない。

身寄りの無い独り身のわたし、こういう時は本当に無力だ。

そう嘆いていたら、家のインターホンが鳴った。
なんとか立ち上がってモニターを見たら、結城先生が立っていた。

結城先生がわたしが1人暮らしだからと問診に来て下さった。

外科でも研修医時代に他の科を回ってたから、流行病の内科的な診察はできる。

「アデノウイルスっぽいな。ウイルスだから症状を緩和する薬しかない。熱が高いし、点滴を入れるか」

持ち運び医療セットから点滴機材を出し、わたしの腕に針を刺した。

12時間以上汗をかいてるのに、水分が全く取れなかったわたし。

とてもありがたかった。


次の日は土曜日で手術はなく、術後の経過を見に午前と午後に2度、病院に顔を出したけれど、それ以外はわたしの側に居てくれた。

「結城先生、ありがとうございました」

結城先生は金曜日の夕方からずっとわたしに付き添ってくれてた。

お粥や煮込みうどんを作って、食べさせてくれた。

それが、わたしはとても嬉しかった。

洗濯もして下さって、申し訳なく思う。

「明日は念のために休め、高熱が出たし。じゃ、俺、帰るから」

日曜日の夕方にやっと熱が下がった。

結城先生の貴重な休日を潰してしまい、申し訳なく思った。

結城先生に感謝した。

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