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元彼との再会

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「櫻井萌那《さくらいもえな》、また短期間に商談成立させたよ」

「……見た目が極上で帰国子女だから多言語ペラペラだもんな」

「28言語が日常会話レベルで話せるから入社してすぐに欧州担当を任され、ピッチヒッターでアジアや米国の交渉に入る、才女だよな!!」

父が外務省に勤めてたのもあり、中学を卒業するまでは3年置きに海外を転々としてた。
海外は多言語取得の勉強を幼少期から行っていて、自然と語学を習得した。

「海外にパイプを持ってるのも強いよな。親が外務省に勤めていてるから人脈とかあるんだろうな……」

海外生活を送ってたから、各国に連絡を取り合う友人は何人かいる。
特に欧州には10年いたから、親友レベルの友人がたくさんいる。
仕事で絡むようになり、海外出張で、 再会し、色々助けて貰ってはいる。

「コネと親の力が大きいな!!」

違う。入社して3年目で、化学品グループで売上高トップ10入りを果たしたけど、それは海外出張の際に多くの企業に足を運び、担当者との関係を築く努力をしたから。

化学品グループは肥料や合成樹脂といったあらゆる製品の材料となる化学品の生産から、医薬品や農薬といった生活に近いライフサイエンスの分野に関わるもの海外と取引してる。
新興国での中間層の拡大と、それに伴う健康や美味しさへの関心の高まりを考えると、今後の収益拡大に期待が持てる分野だと考えられてる。

専門的知識が必要で海外でクライアントとの取引もだけど、扱う商品についても深い領域まで頭の中に入れ込んだ。


「ーー  櫻井さん。突然で申し訳ないんですが、3日後にロシア出張に同行してくれませんか?橘部長から許可はとってます」

三凛商事にとって大きな基盤になっているエネルギー事業グループのトップ仁野雅人《じんのまさと》課長が私に話しかけてきた。

「業務命令なので同行いたします。来週の終わりからフランスに10日間出張なので、2泊3日でよろしいですか?」

「あぁ、助かる。出張のスケジュールとか後でメールするから目を通して」


エネルギー事業グループは原油や石油製品の仕入れからガソリンスタンドなどに提供するまで一貫したサービスを行っている。近年、原油だけでなく、LNG(液化天然ガス)の開発、供給も力を入れている。

この分野で成果を挙げてるのが仁野課長がうちの社で1番大きな仕事をしてる人に出張の同行に声をかけられ、戸惑う。

社内報によく載る人だから、顔は知ってた。
180㎝以上ある身長に細マッチョな体、そして、こんなに綺麗な男性いるんだと思わず見惚れてしまうぐらいの容姿端麗な姿をしてる。
仕事もできて見た目もよく、コミュニケーション能力が高い才徳兼備な、人として完璧な人。

だから、社内で1番モテてる男性。
今年35歳になるから、そろそろ上司からも結婚を急かされてるらしく、そのせいか、うちの社の一般職の女性達は水面下で彼を堕とすためにあの手この手を使ってるらしい。

「……仁野課長と同行したりしたら、女性社員からのやっかみが強くなりそうだわ。フランス出張の準備も完璧じゃないのに……」

仁野課長から出張の詳細メールがきて目を通す。
パーティーのパートナーとしての役割が多く、ロシア語と英語が堪能な女性社員は私以外もいるから、その人に声をかけてくれたらよかったのにと、溜め息を吐いた。


突然の海外出張はよくある事で、すぐに海外に飛べるようスーツケースにすぐに衣類等を詰め込めるようにしてる。
今回の出張は三凛商事が出資と開発をしたLNG(液化天然ガス) プラント完成式典へとパーティーに同行で、秘書的な立ち回りをする事になってる。

だから、パーティに出席するためのフォーマルなドレスとアクセサリーなども必要で、スーツで2泊3日の出張なのに大荷物になってしまった。

午前11時に仁野課長と丸の内本社ビルの外で待ち合わせをし、タクシーで東京駅まで行き、高速バスに乗って成田空港へ向かい、成田空港からロシアのコロンビア空港に飛ぶ。
移動時間は高速バスが1時間45分で飛行機が10時間ぐらい。
ブリティッシュ・コロンビア州キティマットにLNGプラントがある。

日本時刻の午前0時に到着予定で、日本の方が17時間進んでるからコロンビアに午前7時にコロンビアに到着する事になる。

超絶にカッコいい仁野課長と移動時間の12時間隣に隣にいないといけない、飛行機の中では次の日に備えて寝ないといけないのに一睡もできなかった。


コロンビア空港に着きてから荷物受取所で預けたスーツケースを受け取ると仁野課長と共に出口へ向かう。

そこに現地駐在員が迎えにきてるそうで、落ち合ってすぐに車でLNGプラント施設に向かわないといけない。
現地時間の午前9時から完成式典が始まるため、急がないといけない。

「仁野課長、お疲れ様です」

懐かしい声が聞こえ振り向くと、仕立てのいいブラックスーツを着て、濃い青色のスプライトのネクタイを締めた、元彼の高坂暁人さんがいた。

「高坂、迎えありがとう。2時間後に式典が始まるから急ごう!!」

私を見て目を丸くさせて立ち止まってる暁人さんに仁野課長が声をかけた。

暁人さんがエネルギー事業グループにいることはパソコンで社員一覧表を検索して知っていた。
でも、海外赴任中となっていて、つい最近まではアメリカに駐在となってたから、コロンビアでバッティングするとは思ってなかった。

空港を出て、車のトランクにスーツケースを入れてもらい、仁野課長と車の後部座席に乗り込む。

仁野課長と暁人さんが式典とパーティーのスケジュールについての確認の話をしてる中、私は外の景色を眺めてた。

年間1,400万トンの生産能力を持つLNGプラント。
LNGプラントとは、液化天然ガスの生産・精製・流通を行なうための大型設備で、ガス田から算出された天然ガスから水分や不要物を除去し、冷却したものが液化天然ガスである。
LNGタンカーで輸送され、港に設置されたLNG受け入れ基地にて保管され、そこから船にのせて日本に運ばれる。

完成式典が始まる。
LNGは7割が発電用燃料として使われている。
工場のラインを動かすのにLNGを使用した自家発電が増えている。
それもあり、日本の大手企業がこのプロジェクトに出資をされいて、この式典にも社長及び幹部社員が参列をされてた。


「……萌那、5年半ぶりだな。三凛商事に就職したのは知ってた。化学品グループで売上高トップ10入りを果たしていて、大人しくて内気な萌那がうちの総合職で成果を挙げてるのに驚いた」

完成式典開始前。
式の進行と司会は仁野課長がされる事になっていて、私の役回りは特になく、ボーっと立っていたら暁人さんが話しかけてきた。

「高坂さんもエネルギー事業グループに在籍され、LNGプラント開発に関する駐在社員をなさっていらっしゃってさすがだと思いました」

エネルギー事業グループは三凛商事の主力事業で、億どころか兆単位でお金が動く取引を任されてるのもあり優秀な人材しか配属されない。

暁人は経済学に関する名高い教授のゼミで学び、教授から推薦書を貰って三凛商事に就職をした。

大学も首席で卒業をしてた。

駐在社員として海外赴任を任されるのは三凛商事でエリート街道に乗った証拠。
赴任地で顧客とビジネスのパイプを作り、人脈を広げさせるため。

化学品グループで日本の顧客から依頼された素材を海外で安く手に入れるために動くのは違う。
依頼された事に関して成果を出してるだけの私。

エネルギー事業グループの請け負っている仕事よりも成果を挙げやすく、誰でもできる仕事だ。

完成式典は滞りなく執り行われた。
下準備を暁人が完璧にしてたからもある。

久しぶりに会った暁人に今も惹かれてる私がいて、暁人を目で追いながら切ない気持ちになった。







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