婚約破棄から始まる大恋愛

鳴宮鶉子

文字の大きさ
7 / 10

念願だった婚約破棄

しおりを挟む
「えっ、おじいちゃんが亡くなった!!」

金曜日の9時過ぎ。
母から直電がかかってきた。
金曜日の夕方に心臓を抑えた姿で倒れ、心筋梗塞でそのまま亡くなった。

通夜が土曜日で葬式が日曜日に行われる。
母との電話を切った後、所長に電話をかけ、忌引きで仕事を休み、通夜が始まるギリギリの時間に着く新幹線で実家がある福岡に向かう事にした。

“凛子、俺、お前の婚約者だから通夜と葬式出るから。明日、何時の新幹線に乗る?”

拓海からのLINEメッセージ。
婚約者だから同行するしかない。

“昼ごはんを食べて出るから13時の便に乗る”

“わかった。じゃあ、明日、11時半に迎えに行くから東京駅で一緒に昼食べてから新幹線に乗ろう”

了解ですのスタンプを送る。

父方の祖父が亡くなってもなんとも思わない。
傲慢で一族全員を思い通りに動かそうとしていた人だから。
親戚一同、清々してると思う。

「遺産相続とか揉めに揉めそう。無理やり政略結婚させられた夫婦多いから、離婚ラッシュが起きそう」

遺産相続は孫の私には関係ない。
父は3人兄弟の1番下で、政略結婚の駒として役に立たず、TATAで働いてはいるもののパッとしないから祖父から見放されていた。
だから、大した遺産は貰えないだろう。


「凛子、大丈夫か?」

「大丈夫どころか清々してる。これでTATAのショールームアドバイザー辞めても文句言われない」

祖父が亡くなったら孫は悲しむものかもしれないけど、私は束縛から解放され自由になるから嬉しくて堪らなかった。

そんな私に対して迎えにきた拓海は戸惑っていた。

東京駅構内の和食の店で海鮮御膳を食べ、新幹線に乗って葬儀場に向かう。
お通夜が始まるギリギリの時間まで時間を潰したかったけれど、30分前に会場に入った。

「凛子、来たか。拓海くん、わざわざ来てくれてありがとう」

父と母は疲れ切っているが、笑みを浮かべてる。

「こんな時に言う話ではないが、凛子と拓海くんに伝える機会がないから今、話させてくれ」

父が真剣な表情をして話だした。

「凛子と拓海くんの婚約は破棄した。世代錯誤なしかもしても意味のない政略結婚は白紙に戻した。2人が結婚する気があるならそのまま結婚すればいいば、許嫁というしがらみからは解放する。拓海くんのお父さんからも了承を得た」

私と拓海の婚約は祖父同士が強く希望して決まった。
拓海の祖父も3年前に亡くなってる。

「私は凛子さんと結婚したいと思ってます」

冷たくあしらっているのに、拓海は私との結婚を望んでいる。
理由がわからない。

「上手くいってるならいい事だ。凛子に悪いが私と佳代は離婚する。本当に大切に思える人と一緒になる」

父と母は仮面夫婦でお互い外に家庭を作り、隠し子もいた。
祖父の葬儀に、父と母の愛する人と私の義理にあたる妹と弟が4人訪れ、顔合わせをした。

「凛子、俺は凛子の事を本気で愛してるから、信じて。俺と家族になろう」

父と母は他所に家庭を作っていて、中学から県外の学校に通って家に居なかった私の事はもはや子供と思ってないようだった。

私は帰る実家を無くした。
嫌、元々無かった。

「凛子、俺が幸せにするから」

葬儀を終え、拓海と東京に戻る。
手続きに関しては祖父が生前に弁護士に頼んでいたのか速やかに行われ、財産分与なども揉める事はなさそうだ。

「凛子の事が心配だから、一緒に暮らそう」

祖父の死よりも両親が2人共、他所に家庭を作って義理の妹と弟が4人もいた事の方がショックだった。

「凛子、仕事辞めよっか」

「……うん」

ショールームアドバイザーの人数は足りてる。
私が退職しても困る事はない。
シフトが組まれてる7月分は最後まで勤務する事にした。
私がTATA創業者一族の御令嬢だという事は3代目社長の祖父の死で明るみになり、突然の退職に対し、誰も何も言わなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋色メール 元婚約者がなぜか追いかけてきました

國樹田 樹
恋愛
婚約者と別れ、支店へと異動願いを出した千尋。 しかし三か月が経った今、本社から応援として出向してきたのは―――別れたはずの、婚約者だった。

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

最強魔術師の歪んだ初恋

恋愛
伯爵家の養子であるアリスは親戚のおじさまが大好きだ。 けれどアリスに妹が産まれ、アリスは虐げれるようになる。そのまま成長したアリスは、男爵家のおじさんの元に嫁ぐことになるが、初夜で破瓜の血が流れず……?

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】

けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~ のafter storyです。 よろしくお願い致しますm(_ _)m

終わりにできなかった恋

明日葉
恋愛
「なあ、結婚するか?」  男友達から不意にそう言われて。 「そうだね、しようか」  と。  恋を自覚する前にあまりに友達として大事になりすぎて。終わるかもしれない恋よりも、終わりのない友達をとっていただけ。ふとそう自覚したら、今を逃したら次はないと気づいたら、そう答えていた。

処理中です...