社長から逃げろっ

鳴宮鶉子

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捕獲されてしまった side 美夢

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内藤はプログラムより装置よりのエンジニアで、動作確認で不具合が出ても対処できないから心配になり、落ち着かないわたし。
小樽名物の海鮮丼を食べてから、小樽運河に戻ってきた。

メンバーがパソコンにたかってなにかをやってるのが見えた。
さっきは居なかったスーツを着た男性に怒られてるようだった。
後ろ姿しか見えないから、誰かはわからない。
それに、辺りはもう暗くてよく見えない。

プログラムがわかる人が駆けつけたなら大丈夫か、と帰ろうとしたら、その男性がこっちを振り向いた。

須田社長だった

目が合い、マズイと思ったわたしは全力疾走して逃げた。

人通りが多い時間

女のわたしの方が人の間をくぐり抜けていけるから逃げれるはずと、とにかく、前に前に、と逃げた。

でも、体格差と運動能力で差があるから、須田社長に腕を掴まれ、ジ、エンド…。

須田社長は、わたしが何をしても怒らない。
わたしの頭を撫で、抱き寄せて抱きしめた。

わたしが泊まってるホテルに荷物を取りに行き、支払いをした須田社長。

わたしが逃げないよう、手は握ったまま。

そして、わたしを連れて須田社長が宿泊する高級そうなホテルのスイートルームに連れて行かれた。

「さすがに、今日は手は出さない。美夢が逃げた理由もわからないし、ただ、俺は美夢を手放す気はない。仕事が嫌なら辞めていい。家庭に入るならそれでいい」

スイートルームに入ってから、須田社長は話し出した。

社長室に閉じ込められて監視された生活は嫌だ。
そして、家庭に入って、家に閉じ込められるのは嫌だ。
閉じ込められて監視される生活が嫌なんだ。

そう伝えたくても、哀愁漂う表情をした須田社長には言えない。

社長室で毎日、大量のプログラムの仕事をひたすらさせられ、家に帰る時間も無く、奥の社長専用の休憩室で生活する日々。
そして、須田社長が時間が空いてる時にふらっとやってきて身体を求められる生活。

わたしは須田社長の都合がいい人形じゃない。

それを伝えたくても言えない。
須田社長が嫌いなわけじゃない。


その日は、逃げないよう須田社長に抱きしめられて眠った。

そして、次の日の朝一の飛行機で東京へ戻った。

会社に戻ると珍しく、理人兄がいた。
社長室でわたしの帰りを待っていた。

「美夢、心配したよ。後で父さんと母さんに連絡入れろよ」

そう言って、わたしの頭をポンっと撫でた。

「須田、美夢を見つけ出して、よく連れて帰ってきたな。まっ、付き合いも長いし、美夢もお前の事を嫌っては無く好意はあると思う」

理人兄が兄らしく、親友で社長の須田社長にわたしの代わりにビシッと言ってくれた。

「須田、お前、美夢を束縛し過ぎだ。社長室に閉じ込められて仕事させるんなら、美夢も俺も会社は辞める。もう少し、美夢を自由にして働かせてやれ。美夢が、社長の彼女だからと女子社員からいじめられて、お前と昔に別れようとしたからって、守るために社長室で仕事をさせるのは違うって、前に言ったよな。美夢を嫌らしい目で見てくる奴が許せないからって、隠すのも違う。とにかく、美夢にこれからは普通に仕事をさせろ。俺の部署で、プログラムを描く仕事をさせる。現場には行かさないから、毎日社内にいさせるし、俺が目を光らせるから、女性社員からのいじめや男性社員がいやらしい目で見ないようビシッと指導する。美夢も、それがいいだろ?」

わたしは、首を縦に振った。

理人兄の言い分だと、わたしを社長室に閉じ込めて仕事をさせていたのは、わたしが過去に須田社長の彼女だからと女性社員からいじめられて別れようとした事と、男性社員がわたしをいやらしい目で見てるのが耐えられないからとか、須田社長なりにわたしを大切に思っての行動と知り、行き過ぎた行動だと思うけど、気持ちだけは嬉しかった。

「てかさ、お前ら、付き合って長いし、いい加減、結婚しろ。そしたら、須田も異常なほどに美夢を束縛しないはずだし、美夢も逃げれなくなるしさ」

最近、須田社長の事が嫌いになったわけじゃないけど今の生活が嫌で、逃げる事しか考えてなかったから、須田社長との未来を考えてなかった。

「確かにそうだな。美夢、結婚しようか。それなら、不本意だけど、美夢を理人の部署に預ける。理人の部署のエンジニア、プログラムが弱い奴ばかりだろ。小樽のプロジェクトメンバー、あれ、酷すぎる」

「あいつら、やらかしてたか。いつもは電話で泣きついてくるのにこないからおかしいなと思ってた。俺の部署、プログラムできるやつが必要だから、妹は貰うな。と、いう事で、美夢、諦めて、須田社長と結婚しろ。逃げても逃げれないし、束縛されて閉じ込められるより、結婚して須田の物になり、逃げれない関係になって、安心させて多少なり自由になれ」

理人兄と須田社長の間で、わたしと須田社長の結婚話が進んだ。

理人兄にも説得される

「わかった、結婚する」

結婚って、こんな感じで決める事じゃない気がするけど、わたしと須賀社長は結婚する事になった。

わたしは、社長室から理人兄の、デジタルアート部門に即日から異動になった。

装置を動かすプログラムを描いた。
そして、現場で困らないように、プログラムソースの設計図を書いた説明書を作り、プログラムが苦手なエンジニアに少しずつ、プログラムを教えた。

1人で社長室にこもって仕事をしてるよりも、毎日が楽しかった。

社長室に籠らない代わりに、わたしは須賀社長のマンションに住む事になった。

須賀社長との関係も良好で、仕事も楽しくて、毎日充実した生活を送ってる。

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