鬼畜元彼と激甘今彼、結婚するならどっち？

同情からの契約結婚

波乱な修行期間になると思われたけど、蓮と結婚するつもりはないと公言したのもあり、院内の女性達からのやっかみはなくなった。

「新井先生、このままだと両親に相良先生と結婚させられちゃいますね」

父から、修行明けて新井総合病院に戻ってきたら蓮とすぐに籍を入れて結婚式を挙げると電話で言われ、頭を抱える。

「相良先生、心臓外科医としては優秀でしたからね。ですが、うちのNo.3で、大した事、ないです」

国立循環器センターは新井総合病院や葛城病院より規模が大きい。
国内だけでなく海外からも難易度が高い心臓血管手術を受けに患者が集まる。
それもあり、心臓血管外科医と手術専門の循環器内科医が何組もいて、分刻みで手術を行なっている。

「うちでNo.1は藤島大雅先生だよね。心臓血管外科医だけど循環器内科医の専門医も取得している循環器領域のエキスパート。うちの伝説の心臓外科医、有馬一族の末裔だよ」

国立循環器センターは国の機関で個人経営ではない。
だけど、優秀すぎる故に長年、夫婦で心臓外科医と循環器内科医として院長と副院長を務めてきた。

「学歴からしてヤバい。飛び級でハーバード医学大学院卒業してるんだよ。小さい頃から循環器領域の手術の動画を見て育ち、手先の器用さもあって、究極的な神の手を持っている！！」

藤島先生の手術は天才的だ。
患者さんの体に負担がかからない最善の治療法で手術を行う。
その判断力の高さに尊敬の念を抱く。

「誉めても何も出ないよ」

予定オペが終わり、スーツに着替え白衣を羽織った藤島先生が医局に入ってきた。

「新井先生、回診に行くよ」

「はい！！」

物腰柔らかで穏やかな藤島先生。
院内の女性達からモテモテだけど、華麗にスルーしている。
それ故にボーイズラブ疑惑を抱かれている。
蓮との仲を疑われていたらしい。

「新井先生、循環器内科医として専攻医期間を含めて3年だけど、手術慣れしてるね。判断力もあるしカテーテル 技術も高い」

「藤島先生にそう言って頂けると嬉しいです」

回診の後に、藤島先生のコレクションらしい循環器領域の手術動画を見ながら講義を受ける。
貴重な有馬一族が執刀した手術動画。

「新井先生は努力家なんだね。産婦人科医に小児科医、循環器内科医の専門医をこの歳で取得するのは実績もだけど論文作成とか学会発表とかかなり大変だったと思う」

両親を失望させてはいけないと、最短の専門医取得を目指し、かなり勉強した。
新井総合病院の後継者として相応しい医師にならないといけないと努力してきた。

「修行、1年間なんだよね。オペチームメンバーとしてやりやすいし、循環器内科医として育て甲斐あるし、もっと長く一緒に働きたかったな」

循環器センターにきて、半年が経った。
藤島先生のオペパートナーを務めさせて頂き、勉強になると共に、医師としてのやり甲斐を知った。

「……新井総合病院に戻ったら相良と結婚するの？」

両親から無理やりさせられる事を同僚の女医に泣きながら打ち明けた。

「もし良かったらだけど、俺と契約結婚する？あの女遊びが激しい鬼畜な男と結婚するのは嫌だろ。あいつにここの若い女の子達、遊ばれて傷ついてるの見てきた。新井先生が可哀想過ぎる」

「……いいんですか？」

藤島先生からの同情からの提案。

「いいよ。相良の非道さはこの院内で知らない人はいない。君を不幸にしたくない」

優しすぎる藤島先生に感動し、涙が溢れて出る。
そんな私を、藤島先生はぎゅっと抱きしめてくれた。
細いけど薄く筋肉がついている彼の胸板からドキドキと心音が聞こえる。

その音に、私は癒された。