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第5話
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私がユリウス様との婚約を受け入れた翌日、私とユリウス様の二人は私の実家のバートリオン侯爵家の邸宅に来ていた。
私とユリウス様が婚約したからといって、まだ正式な婚約が決まったわけではなく、今の状態では単なる口約束にしか過ぎない。
そこで私の実父である侯爵家当主に正式な許可を貰わなければならないのだ。
今日はそのためにユリウス様を私の家に連れてきた。
「あの…ユリウス様、大丈夫ですか? 体調が良くないように見えますが…」
「だ、だ、大丈夫です!」
とても大丈夫そうに見えない。
見るからにユリウス様はとても緊張しているようだ。
まぁ、それも仕方ないのかもしれない。
なぜなら私の父は王国を代表する大貴族であるとともに、王国最強の大将軍でもあるからだ。
「階級的には王族であるユリウス様の方が格上なので緊張なさらなくても大丈夫ですよ?」
「と、とんでもない! 王国の英雄である侯爵様にそのような振る舞いなど、とても…」
口ではそう言っているが本当の理由は、不遜な物言いをしたら叩き殺されると思っているからであろう。
確かに父はとてつもなくいかつい風貌をしているが、性格は豪胆で優しく、そんな事をする人では断じて無い。
ユリウス様にもそれが分かって欲しいのだけど……
「お嬢様、当主様との会談の用意が整いました」
侯爵家のメイドの一人がそう告げてくる。
父は将軍職の他にも貴族としての職務があるから普段から忙しく、夕食の時以外にはあまり話せる時間が無いのだが、ようやく仕事が終わったのだろう。
「分かったわ。さぁユリウス様、行きましょう」
「わ、わかりました!」
▲▲▲
「それで、エリザヴェータよ、今日はどうしたのだ?」
目の前に聳える巨人。
その身長は優に二メートルを超え、服越しからでも分かる天然の鎧のごとき筋肉。
銀色の短髪に、その体に似合わない優しげな碧眼の瞳。
私の父、レオン・バートリオンである。
「お忙しい中私の為にお時間をご用意いただき感謝しますわ、お父様」
「構わんよ。愛娘の為だ、時間など惜しくは無い。それよりも私は、なぜ隣に第二王子のユリウス殿下がいるのかを聞きたいのだがね」
名前を呼ばれてビクッと身体を震わせるユリウス様。
父と会う前も十分緊張してたが、いざ対面するとさらに緊張してしまったらしい。
「はい、今回はその件を話に参りました」
私は昨日の舞踏会で起こった事を全て父に話した。
ルーカス様に無実の罪で婚約破棄された事、ルーカス様がアンナ・マリエッタ男爵令嬢にうつつを抜かしていた事、私が婚約破棄を受け入れた事、その後ユリウス様が私に婚約を申し込んだ事、私がそれを受け入れた事、今日はユリウス様との婚約を認めてもらう為に来た事など、すべてを話した。
私の話を聞き終わった父はしばらく眼を閉じて黙っていたが、やがて話し始めた。
「あの王太子はそこまで愚かだったか……!」
「お、お父様!?」
父の発言に私もユリウス様も驚く。
王族批判として不敬罪に問われる可能性だってある。
「お父様、ルーカス様は仮にも王族なのです。ユリウス様の前なのですし王家を貶めるような発言は得策とは言えませんが…」
「エリザヴェータよ、それは大きな間違いだ。誇りある王家だからこそ道を間違わないよう王国の忠臣たる私達が諫めなければならぬのだ。諫めるのを忘れたが最後、その国には君主に阿る事しか考えのない佞臣どもが蔓延り滅ぶであろう」
「それはそうですが…」
「王太子殿下は昔から御自分の行動を顧みぬ所があったが、エリザヴェータが妻として支え、諫めれば、いずれは良き王となったかも知れぬ。だがよりにもよってそのエリザヴェータを捨て、どこのどこの馬の骨とも知れない女を選ぶとは、陛下は今まで息子にどんな教育をしてきたのだ!」
父の怒りは収まるどころかますます増していった。
こんなに怒っている父を見たのは初めてだ。
そこにはルーカス様の無思慮な行為への怒りだけではなく、娘である私を蔑ろにされたことの父親としての怒りもあるように見える。
娘として愛されている事実に嬉しくなるが、このままでは延々と怒り続けている可能性があるのでそろそろ止めに入る。
「お父様の気持ちも良く分かりますが今日はその事を話しに来たのではありません。ユリウス様との婚約の件が本題なのです」
「確かそのような事も言っていたな」
「お父様、単刀直入に聞きますが私とユリウス様との婚約は認めてもらえますでしょうか?」
私の問いかけにユリウス様は不安からか私の手を握ってくる。
私も強く握り返した。
だけど父の答えは非常であった。
「それは認められんな」
私とユリウス様が婚約したからといって、まだ正式な婚約が決まったわけではなく、今の状態では単なる口約束にしか過ぎない。
そこで私の実父である侯爵家当主に正式な許可を貰わなければならないのだ。
今日はそのためにユリウス様を私の家に連れてきた。
「あの…ユリウス様、大丈夫ですか? 体調が良くないように見えますが…」
「だ、だ、大丈夫です!」
とても大丈夫そうに見えない。
見るからにユリウス様はとても緊張しているようだ。
まぁ、それも仕方ないのかもしれない。
なぜなら私の父は王国を代表する大貴族であるとともに、王国最強の大将軍でもあるからだ。
「階級的には王族であるユリウス様の方が格上なので緊張なさらなくても大丈夫ですよ?」
「と、とんでもない! 王国の英雄である侯爵様にそのような振る舞いなど、とても…」
口ではそう言っているが本当の理由は、不遜な物言いをしたら叩き殺されると思っているからであろう。
確かに父はとてつもなくいかつい風貌をしているが、性格は豪胆で優しく、そんな事をする人では断じて無い。
ユリウス様にもそれが分かって欲しいのだけど……
「お嬢様、当主様との会談の用意が整いました」
侯爵家のメイドの一人がそう告げてくる。
父は将軍職の他にも貴族としての職務があるから普段から忙しく、夕食の時以外にはあまり話せる時間が無いのだが、ようやく仕事が終わったのだろう。
「分かったわ。さぁユリウス様、行きましょう」
「わ、わかりました!」
▲▲▲
「それで、エリザヴェータよ、今日はどうしたのだ?」
目の前に聳える巨人。
その身長は優に二メートルを超え、服越しからでも分かる天然の鎧のごとき筋肉。
銀色の短髪に、その体に似合わない優しげな碧眼の瞳。
私の父、レオン・バートリオンである。
「お忙しい中私の為にお時間をご用意いただき感謝しますわ、お父様」
「構わんよ。愛娘の為だ、時間など惜しくは無い。それよりも私は、なぜ隣に第二王子のユリウス殿下がいるのかを聞きたいのだがね」
名前を呼ばれてビクッと身体を震わせるユリウス様。
父と会う前も十分緊張してたが、いざ対面するとさらに緊張してしまったらしい。
「はい、今回はその件を話に参りました」
私は昨日の舞踏会で起こった事を全て父に話した。
ルーカス様に無実の罪で婚約破棄された事、ルーカス様がアンナ・マリエッタ男爵令嬢にうつつを抜かしていた事、私が婚約破棄を受け入れた事、その後ユリウス様が私に婚約を申し込んだ事、私がそれを受け入れた事、今日はユリウス様との婚約を認めてもらう為に来た事など、すべてを話した。
私の話を聞き終わった父はしばらく眼を閉じて黙っていたが、やがて話し始めた。
「あの王太子はそこまで愚かだったか……!」
「お、お父様!?」
父の発言に私もユリウス様も驚く。
王族批判として不敬罪に問われる可能性だってある。
「お父様、ルーカス様は仮にも王族なのです。ユリウス様の前なのですし王家を貶めるような発言は得策とは言えませんが…」
「エリザヴェータよ、それは大きな間違いだ。誇りある王家だからこそ道を間違わないよう王国の忠臣たる私達が諫めなければならぬのだ。諫めるのを忘れたが最後、その国には君主に阿る事しか考えのない佞臣どもが蔓延り滅ぶであろう」
「それはそうですが…」
「王太子殿下は昔から御自分の行動を顧みぬ所があったが、エリザヴェータが妻として支え、諫めれば、いずれは良き王となったかも知れぬ。だがよりにもよってそのエリザヴェータを捨て、どこのどこの馬の骨とも知れない女を選ぶとは、陛下は今まで息子にどんな教育をしてきたのだ!」
父の怒りは収まるどころかますます増していった。
こんなに怒っている父を見たのは初めてだ。
そこにはルーカス様の無思慮な行為への怒りだけではなく、娘である私を蔑ろにされたことの父親としての怒りもあるように見える。
娘として愛されている事実に嬉しくなるが、このままでは延々と怒り続けている可能性があるのでそろそろ止めに入る。
「お父様の気持ちも良く分かりますが今日はその事を話しに来たのではありません。ユリウス様との婚約の件が本題なのです」
「確かそのような事も言っていたな」
「お父様、単刀直入に聞きますが私とユリウス様との婚約は認めてもらえますでしょうか?」
私の問いかけにユリウス様は不安からか私の手を握ってくる。
私も強く握り返した。
だけど父の答えは非常であった。
「それは認められんな」
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