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第4話 王太子視点

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王国の王宮の一室、そこには二人の男女と数人のメイド達がいた。

王太子のルーカス・カロリングとアンナ・マリエッタ男爵令嬢である。

アンナはメイド達を大変困らせていた。

「ちょっとあなた、お茶とお菓子がなくなったわ。用意してくださる?」

「は、はい、ただいま用意します!」

「まったく、王宮のメイド達も大したことないのね」

アンナはルーカスに頼み王家の金で買ってもらった豪華で華やかドレスを身につけていた。

本当なら王家の金を無断で、それも私的に利用するのは固く禁じられているはずだったが、ルーカスもそれを止める事はせずにアンナに好き放題させていた。

「王太子殿下、アンナ様の振る舞いは少々やり過ぎのように感じますが…」

そんなアンナの様子を見たメイド長が王太子にアンナのわがままを止めるように申し出る。

「問題ない。アンナも初めての王宮だ。多少のわがままぐらい許してやれ」

「ですが……」

「くどいぞメイド長、二度も言わせるな。そうだアンナ! ドレス以外にも何か欲しい物はあるか?」

「王太子殿下ぁ、私、王都で有名な高級化粧品が欲しいです」

「分かった。すぐに使いを出す」

「さすが王太子殿下! 器の大きなお方ですのね。惚れ直しちゃいました」

アンナはルーカスに抱き付き、ルーカスも満面の笑みだ。

二人の様子にメイド長は思わずため息をつく。
エリザヴェータ様はこんな事はしなかったのに、と。

エリザヴェータが王宮に行くときはいつも手作りのお菓子を持参して行き、その味は王宮のパティシエ達のお菓子とも劣らない味であった。
しかもエリザヴェータは紅茶を注ぐ技術も完璧であり何度もメイド達を驚かせた。
そして何よりメイド達のような下の者達にも優しく、気遣いを忘れなかった。

わがままばっかりのアンナとは天と地との差があったのだ。

なぜ王太子殿下はエリザヴェータ様との婚約を破棄なさったのでしょうか?
メイド長はそれが不思議でたまらなかった。
確かにアンナも十分可愛いが、エリザヴェータと比べると数段劣るし、貴族令嬢としての作法もエリザヴェータのような完璧な作法に比べてアンナのそれは実家のマリエッタ男爵家が教育を怠ってたのか基礎すらも怪しい。

「アンナ、これでエリザヴェータのような邪魔者はもういなくなった。お前と正式に婚約できるのだ」

「嬉しいです。やっと王太子殿下と一緒なれますのね。(これで次期王妃の座は私のもの。これから好き放題贅沢ができるわ!)」

ルーカスは本気でアンナの事を愛していたがアンナはルーカスの事など好きでも何でもなかった。
あるのは王妃となり、贅沢の限りを尽くすことと、生まれてきた子供を利用し王国を意のままに操り、自分の為の国家を作る事への薄汚い野望だけであった。

「しかし、少しばかり意外な事があった。あの女と愚弟が婚約するとはな」

「そんな事どはどうでもいいではありませんか殿下。あの女の事は忘れて、今は私と殿下の明るい未来に思いを馳せましょう」

「ははは! それもそうだな」

「うふふ、あ、お菓子とお茶がまたなくなったわ。おかわりを早く持ってきなさい!」

メイド長はもう一度深いため息をついた。
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