追放令嬢は隣国で幸せになります。

あくび。

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第一章 平民ライフ突入編

12.彼は気づいて落ち込む。

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(side ラディンベル)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ちょっと爆弾発言が過ぎると思う。

 精霊王に始まって、持ち家発言に異次元じみた魔道具。
 そこまでだってかなりの衝撃だったのだ。
 それらを、リディは才女だから、となんとか消化したのに。
 最後にとんでもない爆弾が落ちるなんて聞いてない。

 前世とか異世界とか。
 そんな言葉すら初めて聞くくらいなのに、聞けば聞くほど未知の世界で。
 何もかもが信じがたい話だったけど、でもどこかで納得したのも事実だ。

 普通に考えたら。
 こんな設備や魔道具、すべてイチから思いつくだなんて頭の構造おかしいし。
 水の整備だなんて国家事業を十二歳の少女が提案するなんて嘘みたいな話だ。

 でも、再現されたものが目の前にある。現実なのだ。
 リディの荒唐無稽な話を信じれば、目の前の現実も奇才すぎる才能も令嬢らしくない彼女も、これまで感じた違和感が払拭できて辻褄だって合う。それに。

 意を決して話してくれているのはわかったし。
 話し終わった後は不安そうに目が揺れていた。
 そんなリディを見ていたら、信じる一択だったのだ。

 多分まだ全然理解できてないし、受け入れるのに戸惑いがないと言ったら嘘になるけど、信じようと思ったのは本当だ。
 何よりも、俺が「信じる」と言ったときの泣きそうな顔、それでいて、びっくりしたような安心したような、でもすごくうれしそうな顔を見たら、疑わなくてよかったと心から思ったんだ。

 リディの爆弾発言を聞いた後。
 俺の部屋を用意してもらって、ひとりで今日のことを思い返してみた。

 もちろんリディとは別の部屋だ。夫婦とはいえ、さすがにね、経緯が経緯だし。
 でも、ひとりでよかったと思う。きちんと受け入れる時間ができたから。

 部屋にも風呂があったから、ゆっくり浸かって。
 ――リディが湯殿とか湯あみのことをお風呂って言ってたから、俺もそう言うことにした。他にも、厠はトイレとか、覚える言葉は多そうだ。
 にしても、お風呂、いいね。すごくいい。――という話ではなくて。

 風呂に浸かりながら、リディの話を思い出してみたんだけど。
 うん。やっぱり納得できる話だ。信じられる。
 リディの話がなかったら、ずっとどこかで違和感を感じていたと思う。

 たぶん、ものすごい記憶量なんだろうな。人ふたり分の記憶なんだし。
 それを受け止めて、この世界で精いっぱい生きている。
 そんなリディを尊敬こそすれ、疑うことなんてできるわけない。

 風呂からあがってからもつらつらと考えていたら、そのまま寝てしまったようだ。思いのほか(主に頭が)疲れていたんだろうな。

 そして翌朝、一晩経ったら、妙にすっきりしていて。
 そんな気分のままリビングに行ったら、リディが朝食を用意してくれていた。
 こういうの、なんか照れるね。

「おはよう。よく眠れた?」
「おはよう。快適だったよ。ほんとすごいね、この家」
「ふふ。気に入ってくれたならうれしいわ」
「うん、最高の家だと思う。……あのさ、昨日は話してくれてありがとう」
「え?」
「できれば隠しておきたかったでしょ?でも、話してくれてうれしかった」

 朝起きて思ったんだよね。わざわざ話す必要はなかったって。
 リディが天才ってことで、納得できなくもなかったんだから。

 そう思ったから言ったんだけど、リディは目を丸くして、そして、すごく安心したような顔で笑ってくれた。

「御礼を言うのはわたしの方よ。聞いてくれて、信じてくれて本当にありがとう。こんな、何か特殊なわたしだけど、これからもよろしくね」
「こちらこそ」

 そうして、俺たちの新しい生活が始まったんだけど。

 すぐに魔道具や商売の話を進めると思いきや、そんな気配は全くなかった。
 俺は手伝う気満々だったんだけどね。

 で、何をしているかというと、町や港で買い物したり、海や森に遊びに行ったり、家でだらだらしたり、異世界料理を肴にふたりパーティーをしている。
 休むということに慣れていない俺は、最初はどうしたらいいかわからなくて戸惑ったけれど、リディに連れられて遊んでいるうちに楽しみ方がわかってきた。

 景色を楽しむことも、自分の欲しいものを買うことも、好きなものを食べることも、そんなことでさえ俺はやってこなかった。
 仕事と学園と鍛錬に明け暮れて、あとは惰性で生活していた俺って、勿体ない時間の使い方をしていたと今ならわかる。その分を取り戻すように、少しでも興味を持ったたことは挑戦するようにしているけれど。

 何日かそうやって遊んでいて気づいたことがある。
 これ、リディと一緒だから楽しいんだと思う。

 リディってものすごくいい子なんだよね。
 明るくて物知りで頭の回転が速くて、話していて楽しくて。
 しかも気遣いやさん。それでいて超美人。

 こんな子と一緒にいたら楽しいに決まっている。
 ぶっちゃければ、めっちゃくちゃタイプだし。顔も性格も。
 学園時代は、超完璧令嬢って感じで近寄りがたかったけど、実際はそんなことなくて。完璧というよりは規格外って感じだし、むしろ一緒にいたい。

 っていうか、俺、リディに惚れてるね?
 旅の道中から惹かれてる自信はあったけど、もう、完全に好きだよね?
 遊びに出かけたとき、リディに見惚れた男にむかついたしね。

 卒業パーティーの日、公爵家で結婚を了承したときは、なるようになるというか、あわよくば、くらいの気持ちだったのに。
 うわー、俺、こんなに単純だっただろうか。

 でも、まあ、好きなもんは好きだしね。うん、もう自覚した。
 ただ、夫婦だけど片思いだという現実。

 リディは仮夫婦のつもりだし、嫌われてはいないと信じているけど、たぶん、今の俺は手のかかる兄弟くらいに思われているんじゃないだろうか。
 遊びかたも知らないし、食事も栄養が偏ってるって注意されるし。

 役に立てるようになったら、ちょっとは意識してくれるかな?
 そう思ったけど、魔道具や商売はまだやらないみたいだし、家事を手伝おうにも俺ができるのは掃除と力仕事くらいだ。洗濯は各自でやってるし、料理はどうしたってリディに敵わない。

 一応、料理を手伝おうとしたことはある。
 でも、リディ、めちゃくちゃなんだよね。
 肉のミンチを作るときは風魔法で細かく切り刻むし、泡立てるときも風魔法で回転させるし、冷やすときには氷魔法使うし。
 あれ、魔法の無駄使いだと思うんだけど。

 もちろん魔法だけじゃ料理はできないから手作業も多いけど、リディの包丁さばきは見事すぎて俺の出番はないし、味付けは難しい。結局、食材を運んだり、量を測ったり、鍋をかき混ぜるくらいしかできない役立たずだった。

 そもそも、リディって基本的に何でもできるんだよ。

 確かに、専任の侍女やメイドがいなかったとは聞いていた。公爵令嬢なのに。
 前世の記憶の影響で自分のことは自分でやる感覚が抜けなくて、閣下や母君にお願いして、邸内ではできることは自分でやっていた、と言っていたけど、本当に身の回りのことは完璧なのだ。

 さすがに、料理はたまにしかやらせてもらえなかったようだけど。
 それでもあんなに上手だし、他のことだって何の戸惑いもなくやるんだよね。
 便利な道具があるとはいえ、本当に、俺の出る幕がない。

 だから、せめて護衛くらいは完璧にやろうと思っていた。
 もともとそういう約束で着いてきたわけだし。

 外出時は当然まじめに護衛してる。
 警戒は怠らないし、怪しい気配がないかも常に気にしてる。
 けど、俺たちが住む町マリンダは治安もいいし、自警団もいるから、今のところ危険を感じたことはない。だからって気を抜くことはないけど、町の人たちもいい人ばかりで、そこまで警戒する必要はなさそうだ。

 邸に至ってはリディが言っていた通り、本当に警備は万全だった。
 リディ自身も邸の設備も規格外だけど、結界ですら常識外の規格外。

 敷地をぐるっと囲むように張られている結界は、リディが許可しているか、招き入れないと出入りができないのだ。人も馬も付随する荷物も。
 こんな結界、初めてみた。
 精霊石や竜の鱗を使った結界ではあるけど、精霊王のダズル様が手を加えてくれたらしいから、たぶん何でもありなんだろう。

 これ、もしかしてレンダルの公爵邸も同じ仕様だったんじゃないかと思って聞いてみたら、あちらには結界を張っていなかったようだ。その代わり精霊がいた、と聞いて目が点になった。

 え、レンダルにも精霊いるの?
 聞けば、公爵邸の裏にある森には今でも精霊がいるらしく、公爵家によく遊びに来ていたとか。邸に居着いた精霊は公爵家を守ってくれていたという。

 ああ、そりゃ、うちの一族が侵入しようとしても無理だったはずだ。
 精霊に勝てるわけない。

 ちなみに、レンダルの公爵邸にいた精霊の何人?かはこっちに着いてきたようで、今はリディの邸にいる。俺にも姿を見せてくれるようになったから、目下仲良くなれるようにがんばっているところだ。

 あれ。なんで精霊の話になっているんだ。……まあ、いいか。

 そんなわけで、俺は護衛すらまともにやっていない状態だ。
 今、俺ができていることと言えば、リディの虫よけになるくらいだと思う。

 リディも俺も、グリーンフィールの貴族ではないから平民として暮らしているんだけど、どう見積もっても、リディの家って平民にしては大きいんだよね。
 そんな金持ちそうな家にあんな美少女が住んでいたら標的になりやすいのだ。
 俺がいることで、ある程度は牽制にはなっている、と思う。思いたい。
 まともに護衛できていない今、俺の役割は多分そんなところだ。

 ……こっちに来てからの生活を振り返れば振り返るほど落ち込むな。
 俺たち、いつか本当の夫婦になれるだろうか。
 なれるようにがんばるけども。
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