116 / 149
第五章 平民ライフ旅行編
112.彼は彼女の補佐に徹する。
しおりを挟む
(side ラディンベル)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
リディの言う通りだったね。
ゴンザ商会さんと魚屋さんのお力添えのお陰で。
リディがずっと探し求めていた『鮭』が漸く手に入った。
その翌日、リディが早速料理してくれたんだけど。
本当に美味しくて、俺も普通に感動したよね。
リディが事あるごとに『鮭が欲しい』って言ってたのがよくわかった。
塩焼きはもちろん、漬け焼やムニエルも美味しかったし。
鮭フレークっていうのもご飯が進む。
中骨が食べられることには、声が出ないくらいに驚いた。
それに、どうやら、海鮭しか生で食べられないみたいだけどね。
生鮭は酢飯にもぴったりだったな。
更には、あのスモーク!!
スモークには、いろんな方法があるんだね。
スモーク時の温度によって、あんなに仕上がりが変わるなんて吃驚だ。
しかも、どれも、それぞれの味わいがあって美味しかった。
夕食の時にリディが切り出していたけれど。
本当に鮭が輸入できるようになったら、俺もうれしいな。
自宅でも食べたいのはもちろん。
鮭のおにぎりも海鮭のスモークも、やっぱり売ってみたいよね。
売れるのであれば、冷蔵庫の割引なんて何てことはないはずだ。
そう思いながら、鮭料理や鮭商品に思いを馳せていたのだけど。
急に話が変わったと思ったら、リディが宣言をしていた。
うん。とりあえず、『餅つき大会』ってなんだろうね?
みんなも不思議そうな顔をしていたけれど。
リディの自信に溢れた顔には何も言えなかった。
そして、翌日―――――。
リディの宣言通り、餅つき大会が開催されることになったのだけど。
俺だってよくわからないから、補佐に徹するまでだ。
リディは、この餅つき大会のために。
この前購入した大きな木材を加工していたんだよね。
木材をくり抜いて物凄く大きな器みたいな形にして。
くり抜いた部分の形を整えて、長い棒を取り付けて。
リディ曰く『臼』と『杵』を作っていた。
それを中庭に運びこんで。
更には、卓上コンロも設置して、蒸篭で粘り米を蒸している。
「リディアさん、米が蒸しあがったようですよ」
「まあ!料理長さん、ありがとうございます!」
料理長さんは嬉々としてリディを手伝ってくれているけれど。
俺たちは、不思議な物体である臼と杵に興味津々だ。
一体、これをどうするんだろうか?
そう思っていると、リディは、臼の内側を濡らして。
料理長さんに蒸しあがった米をすべて投入してもらっていた。
「ラディ、杵でお米を潰してもらえる?」
え?潰しちゃうの?
とは思えど、そう言われたら、俺はやるしかないから。
水で濡らした杵の腹で米を何度か潰していたら。
米の粒が壊れて米同士がくっついて、何となくひとつに纏まってきた。
「じゃあ、餅つきを始めますね!」
そう言われて、この場に集まった皆の目が期待に輝く。
よくわからないけど、きっと美味しいものができるだろうという期待だ。
招待したゴンザ商会さんも。
隅に寄って恐縮してはいるものの、目に浮かんだ興味は隠せていない。
「このお米の塊をついたものがお餅と呼ばれるものなんですが……。ラディ、杵を持ち上げて、お餅に向かって振り落として、またすぐに杵を持ち上げて欲しいの」
どうやら、お米に杵を叩きつけろってことらしい。
これが『つく』という作業のようだ。
「そのタイミングでわたしがお餅をひっくり返すわ。そしたらまたラディに杵を振り降ろしてもらって、わたしがひっくり返して、って交互にやっていくのよ。杵は適度に濡らしてね」
なるほど。
それはわかったけど、この作業、ものすごく怖いね?
けど、やっぱり、俺はやるしかないから。
何とか、言われた通りに杵を動かしていたんだけど。
「ラディ、もっと早く、勢い付けて振り降ろしても平気よ?」
「無理」
そんなこと、できるわけがない。
と言っても、体力的な問題じゃないよ?
「リディの手を打っちゃったらどうしようって、ただでさえハラハラしながらやってるのに。ましてや、顔に当たったら、と思うと勢いなんてつけられないよ。慎重になるに決まってるでしょ?」
「えー、でも、リズムよくやりたいわ」
「そう言われてたってね……」
リズムって何だ。
リディって、時々、本当に無茶なこと言ってくれるよね。
でも、リディがそうしたいと言うならば、頑張らなければならない。
そう思って続けていたら、段々コツみたいなのが掴めてきて。
何となくだけどね、リディの言うリズムとかいうのがわかってきた。
「よいしょーっ!」
「はいっ」
更には、外野からはよくわからない掛け声がかかり始めて。
リディまで声を出していた。
途中で代わってくれるって申し出もあったんだけどね。
それは丁重にお断りしている。
杵って結構重たいから、うまくやらないと腰を痛めそうなんだよね。
護衛さんなら力もあるし、無理もしないと思うけれど。
力が強すぎて、臼を壊してしまう恐れがある。
それに、リディのほうも、お餅って、実は、物凄く熱くて。
氷魔法で手を冷やしながらやっているんだそうだ。
「きれいにひとつに纏まってきたな」
「滑らかになってきましたね」
その感想の通り。
餅つきを続けていたら、ツルっとしたひとつの塊になってきた。
元はあんなに沢山の米粒だなんて想像できないな。
「はい、完成でーす!」
「「「おおおーー!!!」」」
リディの声に、みんなからも歓声が上がったよね。
「料理長さん、すみません。テーブルの板に、粉を薄く撒いていただけませんか?お餅を載せますので」
「はい。承知しました」
あ、臼からお餅を取り出すんだね。
さすがに重たいだろうと思って、取り出すのは俺が引き受けたんだけど。
これ、本当に熱いね。リディの手、大丈夫かな?
おまけに、テーブルの上にどーん!と乗せたのはいいけれど。
これ、どうやって食べるんだろう?
「お餅は、つきたては柔らかいのでそのまま食べられます」
ああ、そうなんだ。
これをまた料理するわけじゃないんだね。
「今から千切ってお分けしますので、そちらのお醤油、甘いお醤油、大根おろし、きな粉、あんこの中からお好きなものを付けてお召し上がりくださいね」
昨日用意していたタレや粉は、そのままつけて食べるのか。
リディの一押しは、大根おろしだったかな?
「甘い醤油?」
「お砂糖を混ぜてあるんです」
「きな粉って?」
「簡単に言うと、甘い粉です」
リディ、それは、簡単に言いすぎだよ。
豆を砕いて、砂糖とかを混ぜてたよね?
「お醤油を付けたお餅は、海苔で巻いて食べてもおいしいですよ」
そんなリディの追加の説明を受けて。
この未知なるお餅を、集まったみんなで食べ始めた。
「ああ、旨いな。食べ応えもある」
「すごく伸びるんだね。……うん、もちもちで美味しいよ」
「しょっぱいのも甘いのも、両方合うな」
「元はお米だからか、海苔にもよく合いますね」
お、なかなか好評だね。
俺も、伸びることには驚いたけど、それも楽しくて。
全種類どれも美味しくて、ぱくぱく食べてしまった。
みんなも食べるのが止まらないみたいだ。
「慌てて食べて、喉に詰まらせないようにしてくださいねー!」
リディの言葉にみんなが笑ったけれど。
喉に詰まったら窒息死しかねないと言われて、顔を青くして。
ご年配の方やお子様には注意が必要だという言葉には神妙に頷いていた。
そうして、ひとしきり食べたところで。
「このお餅というのは、昨日のお弁当のご飯と同じ米を使っているんだよね?」
「はい。昨日のご飯は蒸しただけなんですが、潰してつくとお餅になるんです」
「成程ね。粘りがあるからひとつにまとまるのか」
シエル様からの問いにリディが答えていたら。
今度は、ジョージ様からも質問があがった。
「これは保存もできるのか?」
「密封して、冷蔵で二週間前後、冷凍で一ヶ月位、乾燥させれば数ヶ月は大丈夫だとは思うのですが……、今、確実なことが言えなくてすみません。乾燥して硬くなっていても、焼いたり煮たりすれば柔らかくなりますよ」
「そうなのか。ならば、乾燥させれば遠征にも持って行けそうだな」
なるほど。
腹持ちもいいし、確かに、保存食にできれば便利だよね。
「毎日食べるには重たいですし、飽きちゃうと思うんですけどね」
「餅をつくのも大変だよね」
「そうなんです。なので、新年とかお祝い事とか、何かの行事の一環なら、お餅つきも受け入れてもらえるかなって思うんですけど」
異世界ではそういう時に食べてるのかな?
だったら、同じようなことができるようになるといいな。
「成程ね。それはいいね」
「たまになら楽しいですし!」
「そうだね。やっぱり、粘り米も定期的に入手できるようにしておきたいね」
「ですね!!」
「ふたりとも、そこで私を見るのはやめてくれないか」
昨夜も見たようなやりとりに、思わず笑ってしまった。
とはいえ、いつまでも談笑している場合ではないよね。
そろそろ、リュート様たちは出仕する時間だからね。
そう思ってたら、リディが企画書を取り出した。
そうだった。
昨日、鮭貿易の話をした後、作っておいたんだったね。
実は、こっそり殿下や侯爵にも送ってある。
「リディア君。やっぱり、うちの部署に転職しないか?」
「謹んでお断り申し上げます」
リディがあっさり、というよりは、食い気味に断っているのを横目に。
俺からは、殿下からの手紙をお渡ししたら。
シエル様は一瞬遠い目をした。
そうして、出仕するお三方をお見送りしてから。
俺たちは、引き続き餅つきをしたんだけど。
お餅のストックはもちろんのこと。
リディが大福を作ってくれた時は、使用人さんも含めて大喜びで。
本当に楽しい餅つき大会になったよね。
何で『大会』なのかは、未だによくわからないけどね。
そして、夜―――――。
お餅で結構お腹を満たしてしまった俺たちは。
ジョージ様のお誘いを受けて、軽い夕食がてらお酒を戴いていた。
今日のつまみは、海鮭スモークのサンドにカナッペ。
野菜スティックにポテトサラダ、そして焼きチーズだ。
ジョージ様用に、グラタンも用意されている。
「グリーンフィールの食事は、何を食べても本当に旨いな!」
俺たちを誘ってくれたとはいえ。
ジョージ様は怪我人だし、騎士だからか、お酒は飲んでいなくて。
お酒は俺たちに勧めてばかりなんだけど、その分食べていて。
―――あんなにお餅を食べたのに、どこに入っているのか疑問だ。
口に運ぶ度に美味しいと言ってくれている。
実際は、グリーンフィールの食事ではなくて異世界料理だけどね。
喜んで食べてくれるからリディも嬉しそうだ。
それに、ジョージ様は、公爵子息なのにかなり気さくな人だから。
会話も弾んで、俺たちのお酒も進むんだよね。
そうこうしていたら、シエル様とロラン様が帰ってきて。
―――ジョージ様も別邸にいると聞いたのか、リュート様もご一緒だ。
テーブルの上の食事やお酒を見て、恨めしそうな顔をしたものの。
リディが追加の料理を作ってくれたら、一気に笑顔になった。
何を作ってくれたのかと思ったら、鮭のパスタで。
すごく美味しそうだったから、今度俺にも作って貰おうと思う。
そうして、みんなでリディの料理を囲んで。
午後の餅つき大会の様子や王宮でのことをお互いに話していたら。
シエル様が嬉しい報告をしてくれた。
「リディア君の企画書のお陰で、貿易の件も順調に話が進んでいるよ」
この言葉を待ってた!
これで、リディ念願の鮭ライフに一歩近づいたね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
リディの言う通りだったね。
ゴンザ商会さんと魚屋さんのお力添えのお陰で。
リディがずっと探し求めていた『鮭』が漸く手に入った。
その翌日、リディが早速料理してくれたんだけど。
本当に美味しくて、俺も普通に感動したよね。
リディが事あるごとに『鮭が欲しい』って言ってたのがよくわかった。
塩焼きはもちろん、漬け焼やムニエルも美味しかったし。
鮭フレークっていうのもご飯が進む。
中骨が食べられることには、声が出ないくらいに驚いた。
それに、どうやら、海鮭しか生で食べられないみたいだけどね。
生鮭は酢飯にもぴったりだったな。
更には、あのスモーク!!
スモークには、いろんな方法があるんだね。
スモーク時の温度によって、あんなに仕上がりが変わるなんて吃驚だ。
しかも、どれも、それぞれの味わいがあって美味しかった。
夕食の時にリディが切り出していたけれど。
本当に鮭が輸入できるようになったら、俺もうれしいな。
自宅でも食べたいのはもちろん。
鮭のおにぎりも海鮭のスモークも、やっぱり売ってみたいよね。
売れるのであれば、冷蔵庫の割引なんて何てことはないはずだ。
そう思いながら、鮭料理や鮭商品に思いを馳せていたのだけど。
急に話が変わったと思ったら、リディが宣言をしていた。
うん。とりあえず、『餅つき大会』ってなんだろうね?
みんなも不思議そうな顔をしていたけれど。
リディの自信に溢れた顔には何も言えなかった。
そして、翌日―――――。
リディの宣言通り、餅つき大会が開催されることになったのだけど。
俺だってよくわからないから、補佐に徹するまでだ。
リディは、この餅つき大会のために。
この前購入した大きな木材を加工していたんだよね。
木材をくり抜いて物凄く大きな器みたいな形にして。
くり抜いた部分の形を整えて、長い棒を取り付けて。
リディ曰く『臼』と『杵』を作っていた。
それを中庭に運びこんで。
更には、卓上コンロも設置して、蒸篭で粘り米を蒸している。
「リディアさん、米が蒸しあがったようですよ」
「まあ!料理長さん、ありがとうございます!」
料理長さんは嬉々としてリディを手伝ってくれているけれど。
俺たちは、不思議な物体である臼と杵に興味津々だ。
一体、これをどうするんだろうか?
そう思っていると、リディは、臼の内側を濡らして。
料理長さんに蒸しあがった米をすべて投入してもらっていた。
「ラディ、杵でお米を潰してもらえる?」
え?潰しちゃうの?
とは思えど、そう言われたら、俺はやるしかないから。
水で濡らした杵の腹で米を何度か潰していたら。
米の粒が壊れて米同士がくっついて、何となくひとつに纏まってきた。
「じゃあ、餅つきを始めますね!」
そう言われて、この場に集まった皆の目が期待に輝く。
よくわからないけど、きっと美味しいものができるだろうという期待だ。
招待したゴンザ商会さんも。
隅に寄って恐縮してはいるものの、目に浮かんだ興味は隠せていない。
「このお米の塊をついたものがお餅と呼ばれるものなんですが……。ラディ、杵を持ち上げて、お餅に向かって振り落として、またすぐに杵を持ち上げて欲しいの」
どうやら、お米に杵を叩きつけろってことらしい。
これが『つく』という作業のようだ。
「そのタイミングでわたしがお餅をひっくり返すわ。そしたらまたラディに杵を振り降ろしてもらって、わたしがひっくり返して、って交互にやっていくのよ。杵は適度に濡らしてね」
なるほど。
それはわかったけど、この作業、ものすごく怖いね?
けど、やっぱり、俺はやるしかないから。
何とか、言われた通りに杵を動かしていたんだけど。
「ラディ、もっと早く、勢い付けて振り降ろしても平気よ?」
「無理」
そんなこと、できるわけがない。
と言っても、体力的な問題じゃないよ?
「リディの手を打っちゃったらどうしようって、ただでさえハラハラしながらやってるのに。ましてや、顔に当たったら、と思うと勢いなんてつけられないよ。慎重になるに決まってるでしょ?」
「えー、でも、リズムよくやりたいわ」
「そう言われてたってね……」
リズムって何だ。
リディって、時々、本当に無茶なこと言ってくれるよね。
でも、リディがそうしたいと言うならば、頑張らなければならない。
そう思って続けていたら、段々コツみたいなのが掴めてきて。
何となくだけどね、リディの言うリズムとかいうのがわかってきた。
「よいしょーっ!」
「はいっ」
更には、外野からはよくわからない掛け声がかかり始めて。
リディまで声を出していた。
途中で代わってくれるって申し出もあったんだけどね。
それは丁重にお断りしている。
杵って結構重たいから、うまくやらないと腰を痛めそうなんだよね。
護衛さんなら力もあるし、無理もしないと思うけれど。
力が強すぎて、臼を壊してしまう恐れがある。
それに、リディのほうも、お餅って、実は、物凄く熱くて。
氷魔法で手を冷やしながらやっているんだそうだ。
「きれいにひとつに纏まってきたな」
「滑らかになってきましたね」
その感想の通り。
餅つきを続けていたら、ツルっとしたひとつの塊になってきた。
元はあんなに沢山の米粒だなんて想像できないな。
「はい、完成でーす!」
「「「おおおーー!!!」」」
リディの声に、みんなからも歓声が上がったよね。
「料理長さん、すみません。テーブルの板に、粉を薄く撒いていただけませんか?お餅を載せますので」
「はい。承知しました」
あ、臼からお餅を取り出すんだね。
さすがに重たいだろうと思って、取り出すのは俺が引き受けたんだけど。
これ、本当に熱いね。リディの手、大丈夫かな?
おまけに、テーブルの上にどーん!と乗せたのはいいけれど。
これ、どうやって食べるんだろう?
「お餅は、つきたては柔らかいのでそのまま食べられます」
ああ、そうなんだ。
これをまた料理するわけじゃないんだね。
「今から千切ってお分けしますので、そちらのお醤油、甘いお醤油、大根おろし、きな粉、あんこの中からお好きなものを付けてお召し上がりくださいね」
昨日用意していたタレや粉は、そのままつけて食べるのか。
リディの一押しは、大根おろしだったかな?
「甘い醤油?」
「お砂糖を混ぜてあるんです」
「きな粉って?」
「簡単に言うと、甘い粉です」
リディ、それは、簡単に言いすぎだよ。
豆を砕いて、砂糖とかを混ぜてたよね?
「お醤油を付けたお餅は、海苔で巻いて食べてもおいしいですよ」
そんなリディの追加の説明を受けて。
この未知なるお餅を、集まったみんなで食べ始めた。
「ああ、旨いな。食べ応えもある」
「すごく伸びるんだね。……うん、もちもちで美味しいよ」
「しょっぱいのも甘いのも、両方合うな」
「元はお米だからか、海苔にもよく合いますね」
お、なかなか好評だね。
俺も、伸びることには驚いたけど、それも楽しくて。
全種類どれも美味しくて、ぱくぱく食べてしまった。
みんなも食べるのが止まらないみたいだ。
「慌てて食べて、喉に詰まらせないようにしてくださいねー!」
リディの言葉にみんなが笑ったけれど。
喉に詰まったら窒息死しかねないと言われて、顔を青くして。
ご年配の方やお子様には注意が必要だという言葉には神妙に頷いていた。
そうして、ひとしきり食べたところで。
「このお餅というのは、昨日のお弁当のご飯と同じ米を使っているんだよね?」
「はい。昨日のご飯は蒸しただけなんですが、潰してつくとお餅になるんです」
「成程ね。粘りがあるからひとつにまとまるのか」
シエル様からの問いにリディが答えていたら。
今度は、ジョージ様からも質問があがった。
「これは保存もできるのか?」
「密封して、冷蔵で二週間前後、冷凍で一ヶ月位、乾燥させれば数ヶ月は大丈夫だとは思うのですが……、今、確実なことが言えなくてすみません。乾燥して硬くなっていても、焼いたり煮たりすれば柔らかくなりますよ」
「そうなのか。ならば、乾燥させれば遠征にも持って行けそうだな」
なるほど。
腹持ちもいいし、確かに、保存食にできれば便利だよね。
「毎日食べるには重たいですし、飽きちゃうと思うんですけどね」
「餅をつくのも大変だよね」
「そうなんです。なので、新年とかお祝い事とか、何かの行事の一環なら、お餅つきも受け入れてもらえるかなって思うんですけど」
異世界ではそういう時に食べてるのかな?
だったら、同じようなことができるようになるといいな。
「成程ね。それはいいね」
「たまになら楽しいですし!」
「そうだね。やっぱり、粘り米も定期的に入手できるようにしておきたいね」
「ですね!!」
「ふたりとも、そこで私を見るのはやめてくれないか」
昨夜も見たようなやりとりに、思わず笑ってしまった。
とはいえ、いつまでも談笑している場合ではないよね。
そろそろ、リュート様たちは出仕する時間だからね。
そう思ってたら、リディが企画書を取り出した。
そうだった。
昨日、鮭貿易の話をした後、作っておいたんだったね。
実は、こっそり殿下や侯爵にも送ってある。
「リディア君。やっぱり、うちの部署に転職しないか?」
「謹んでお断り申し上げます」
リディがあっさり、というよりは、食い気味に断っているのを横目に。
俺からは、殿下からの手紙をお渡ししたら。
シエル様は一瞬遠い目をした。
そうして、出仕するお三方をお見送りしてから。
俺たちは、引き続き餅つきをしたんだけど。
お餅のストックはもちろんのこと。
リディが大福を作ってくれた時は、使用人さんも含めて大喜びで。
本当に楽しい餅つき大会になったよね。
何で『大会』なのかは、未だによくわからないけどね。
そして、夜―――――。
お餅で結構お腹を満たしてしまった俺たちは。
ジョージ様のお誘いを受けて、軽い夕食がてらお酒を戴いていた。
今日のつまみは、海鮭スモークのサンドにカナッペ。
野菜スティックにポテトサラダ、そして焼きチーズだ。
ジョージ様用に、グラタンも用意されている。
「グリーンフィールの食事は、何を食べても本当に旨いな!」
俺たちを誘ってくれたとはいえ。
ジョージ様は怪我人だし、騎士だからか、お酒は飲んでいなくて。
お酒は俺たちに勧めてばかりなんだけど、その分食べていて。
―――あんなにお餅を食べたのに、どこに入っているのか疑問だ。
口に運ぶ度に美味しいと言ってくれている。
実際は、グリーンフィールの食事ではなくて異世界料理だけどね。
喜んで食べてくれるからリディも嬉しそうだ。
それに、ジョージ様は、公爵子息なのにかなり気さくな人だから。
会話も弾んで、俺たちのお酒も進むんだよね。
そうこうしていたら、シエル様とロラン様が帰ってきて。
―――ジョージ様も別邸にいると聞いたのか、リュート様もご一緒だ。
テーブルの上の食事やお酒を見て、恨めしそうな顔をしたものの。
リディが追加の料理を作ってくれたら、一気に笑顔になった。
何を作ってくれたのかと思ったら、鮭のパスタで。
すごく美味しそうだったから、今度俺にも作って貰おうと思う。
そうして、みんなでリディの料理を囲んで。
午後の餅つき大会の様子や王宮でのことをお互いに話していたら。
シエル様が嬉しい報告をしてくれた。
「リディア君の企画書のお陰で、貿易の件も順調に話が進んでいるよ」
この言葉を待ってた!
これで、リディ念願の鮭ライフに一歩近づいたね。
10
あなたにおすすめの小説
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる