陛下、貸しひとつですわ

あくび。

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03.叔父の来訪

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 陛下からの書状を持ってきたのは、わたしの後見人である叔父だった。
 叔父と言っても、母の妹である叔母の旦那様なので厳密には義叔父だ。
 彼は、我がバートン公爵家の分家、ラティス侯爵家の当主で、わたしがまだ学生で未成年のため、後見人を務めてくれている。

 書状には、わたしの生物学上の父を公爵邸に住まわせるように、そして、明日王宮に出向くように書かれていた。叔父の補足によると、どうやら、わたしの生物学上の父にはある疑惑がかかっているという。そのため、居場所を把握したうえで、泳がせたいと。

 ちなみに、この話は防音結界の中で行われている。
 叔父も魔法の造詣が深いので、難なく結界を張ってくれた。

 お尋ね者ならばなおさら、顔も知らない父とやらに関わるのは全力で避けたいところであるが、陛下からの命とあれば、断ることはできない。

「北の別邸でいいんじゃないか?」

 叔父のそんな言葉で、忘れていた邸の存在を思い出す。
 本邸には入れたくなかったから、当然、間髪入れずに賛成した。

 北の別邸は、先々代、つまりお祖父様の弟の幽閉先だ。
 贅沢三昧で我儘だったらしく、幼少時からの婚約者に対して、荒唐無稽な理由で身勝手に婚約破棄をした際に幽閉されることになったそうだ。領地の奥地に幽閉して領民に迷惑をかけても困るので、わざわざその別邸を建てて閉じ込めたらしいが、話を聞くだけで面倒そうな人である。

 とにかく贅沢な暮らしを好んだその人を言いくるめるため、それっぽく作っただけで実はたいしたことがない邸。家具も一見重厚そうに見えるだけでやっぱりたいしたことがないものが置いてある。

「簡単に浄化魔法をかけておくだけでいいですよね?」
「それでも親切なくらいだよ」

 そうと決まれば、あとは実行するのみ。
 クィンにお願いして別邸の手配と迷惑な客人の案内を任せることにした。
 主人からの命とはいえ、気分のいい仕事ではないだろうから、今度、クィンをはじめ、使用人みなに褒美を出すことにしよう。

「北側だけ結界を解いておきますわ」
「面倒をかけるな。それ以外の場所の結界は強力にしておいてくれ」
「当然ですわ。どんな事件にせよ、お尋ね者が敷地内にいるだなんて考えるだけでも嫌ですのに。絶対にこちら側に侵入ができないようにしておきます」
「別邸には影と使用人に扮した間者を紛れ込ませるそうだ。クリスを危ない目には合わせないし、何かあればすぐに連絡する。すまないが少しの間耐えてくれ」

 恐らく父とやらは小物だろうから、本意としては、父とやらを囮にして黒幕を捕まえたいのだろう。にしても、わたしはまだ未成年で小娘なのに。巻き込むなんて、陛下もひどいと思う。

 なかなかに物騒な事態になった。
 あの男が何をやらかしているかは知らないが、とばっちりを受けてはたまらない。邸の警備をもっと厳重にしておかなければ。外出時も要注意ね。

「陛下、貸しひとつでは足りないくらいですわ」
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