最後のページをめくるまで、君の正体に気づかない

月影 流詩亜

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第3話 伏線とリンクする言葉

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​ 昨晩のことだ。

 ベッドの中でスマホの画面を見つめながら、私は妙な胸騒ぎを覚えていた。

​『シオリンさん、おすすめいただいた時計塔の観測者、いよいよ第七章を突破しました!』

 カクヨムの通知欄。将棋さんからの、熱を帯びた長文メッセージ。

『仰っていた通り、バラバラだったピースが一気に繋がり始めました。この残酷で美しい真実の現れ方は、まるで【ガラスの破片で作った万華鏡】のようですね。明日には最後まで読み切れそうです!』

​(ガラスの破片で作った万華鏡……将棋さん、相変わらず表現力えぐいわ。うちの小説のレビューにもそのまま使ってほしいくらいやで)

 いつもなら小躍りして喜ぶところだが、昨日の今日だ。どうしても、あの図書室での葛城くんの顔がちらついてしまう。

​ そして、翌日の昼休み。

「……」

「……」

 いつもの図書館の隅。私の斜め向かいには、すっかりこの席の常連と化した葛城くんが座っている。

 彼の手元にある『時計塔の観測者』は、もう残り数十分の一ほどの厚さになっていた。

​(あかん。全然プロットに集中できへん……)

 スマホのメモ帳を開いているのに、文字が全く頭に入ってこない。私の視線は、無意識のうちに葛城くんがページをめくる指先へと吸い寄せられていた。
 普段のやかましい脳内ツッコミは、今日に限ってひどく静かだ。代わりに、ドクン、ドクンという自分の心音がやけにうるさく感じる。

​(ちゃうよな。いくらなんでも、そんな漫画みたいな展開あるわけない。たまたま読むペースが一緒なだけや。世の中にこのマニアックな本読んでる高校生なんて……まあ、あんまりおらんやろうけど、ゼロではない!)

 必死で自分を納得させようとした、その時だった。

​「……ふぅ」

​ 葛城くんが、小さく、けれど深く息を吐き出した。

 顔を上げ、虚空を見つめるその瞳には、物語の強烈な展開に当てられた特有の熱が帯びている。
 そして、彼は私の方を見て、まるで熱に浮かされたように呟いた。

​「……すごいな、これ。如月さんが言ってた通りだ」

「……なにが」

「第七章。今までバラバラだった視点が、一つの真実に収束していく感じ。残酷なんだけど、すごく綺麗で……」

​ そこまで言って、葛城くんは適切な言葉を探すように少し宙を仰ぎ、そして、こう続けたのだ。

​「まるで、ガラスの破片で作った万華鏡みたいだ」

​ ピシリ、と私の中で、見えないパズルの最後のピースがはまった音がした。

​「……えっ?」

「あ、ごめん。なんかポエマーみたいなこと言っちゃった。でも、本当にそんな感じでさ……」

 照れくさそうに頭を掻く葛城くんの姿が、スローモーションのように目に映る。

​(嘘、やろ……?)

​ 偶然同じ本を読んでいる。

 偶然同じペースで読み進めている。

 そして、偶然同じ、あんなに独特な比喩表現を思いつく?

 そんな確率、天文学的数字だ。

​(将棋さん……? うちの小説をずっと応援してくれとる、あの将棋さんが……目の前におる、葛城くん……?)

 心臓が早鐘を打ち、机の下で握りしめた手が微かに震える。

 画面の向こう側の、顔も知らない「大切な理解者」

 目の前にいる、気さくで、少し本を読むのが遅い「図書室の侵入者」

 完全に、二人が重なった。

​ 私は、声の震えを悟られないように、なんとか言葉を絞り出した。

「……それ。あとどれくらいで、読み終わるの」

「え? あー、あと数十ページだから……今日の放課後、ちょっと残って読んじゃおうかな。結末が気になって、とてもじゃないけど家まで待てないや」


​ 放課後、いつもは昼休みしか来ない彼が放課後の図書室に。

 私は小さく頷き、ギュッと自分のスカートの裾を強く握りしめた。

​ この本の結末を彼が迎える時。

 私は、本当の彼に出会うことになる。



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