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第二話:美春の章「若草の衝動と、届かぬ直球」
しおりを挟む「ちょっ……春香! なんだよ今の、可愛すぎだろ! 『いい子やめる』って、少女漫画かよ!」
美春は、蓬餅のきな粉を膝にこぼしながら大笑いした。
しかし、その笑い声はいつもより一段高い。手にした猪口はすでに三杯目。普段はスポーツドリンクしか口にしない彼女にとって、この「白酒」の威力は、相手チームのフルコートプレスより強烈だった。
「いいよな~、春香は。お雛様だもんな。……私なんか、見てみろよ。和真の奴、なんて言ったと思う?」
美春は、短く切り揃えた自分の髪をクシャリとかき上げた。
脳裏をよぎるのは、昨日の放課後の体育館。
『美春、お前さ、そのシュートフォーム……左肘が外に逃げてんだよな。もっと絞れよ。あ、あと、その膝のサポーター、新しいの買ったのか?
似合ってんじゃん、強そうで』
「……『強そう』だってさ。ははっ、笑えるよな。あいつ、私が髪を切ったことには気づかないくせに、サポーターのメーカーが変わったことには秒で気づきやがる」
美春は、深緑色の蓬餅をヤケクソ気味に口に放り込んだ。
よもぎの力強い香りと、あんこの甘さが口いっぱいに広がる。それは、彼女が隠し持っている「女の子としての本音」のように、ほろ苦くて甘い。
「あいつといると、自分が女だってこと、忘れそうになるんだよ。……いや、あいつが忘れさせてるんだ」
ドスン、と美春が畳を拳で叩いた。
春香が驚いて肩を跳ねさせるが、美春は止まらない。白酒の熱が、彼女の「親友」という仮面をドロドロに溶かしていく。
「バスケのライバル? 相棒?
そんなの、もういらねーよ。
私はあいつと、パス回しがしたいんじゃない。……あいつに、私だけを見てほしいんだよ」
美春の視界が、じわりと滲む。
和真の前では、絶対に、死んでも見せないと決めていた涙。
でも、今は雨の音がある。桃華と春香がいる。そして、この魔法みたいな白い酒がある。
「和真のバカ……。私の直球(ストレート)、一回くらい受け止めてみろよ。……避けてんじゃねーよ、この鈍感男!」
美春は猪口をぐいっと煽ると、そのまま畳に突っ伏した。
「……おい和真……。私だって、……お雛様になりたい時くらい、あんだよ……」
その時、玄関のチャイムが二度、鳴った。
春香がハッとして顔を上げ、桃華が意味深な笑みを浮かべて立ち上がる。
「あら、噂をすれば。……ずぶ濡れの野良犬くんが、雨宿りに来たみたいよ」
美春は伏せた顔を上げた。
涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、「……マジかよ」と絶望的な、けれどどこか期待に満ちた声を漏らした。
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