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第4話:敦盛と奇策、出撃前夜
しおりを挟むオダ・ノブナガは、キヨス・ベース司令部の作戦会議室に集った重臣たちを見渡した。
ヒデヨシからもたらされた『オケハザマ宙域』と『磁気嵐』という二つの鍵。
それを手に、ノブナガはこれから、常軌を逸した作戦を彼らに開示するのだ。
部屋の空気は、期待と不安が入り混じり、奇妙な静けさを保っていた。
「諸君に、我が策を伝える」
ノブナガの声が、静寂を破った。
彼はゆっくりと立ち上がり、中央の立体戦略マップにオケハザマ宙域を拡大表示させる。
赤い点で示されたイマガワ・ヨシモト本隊の予測停泊ポイント。 そして、その宙域を覆うようにシミュレートされた磁気嵐の予測範囲。
「我らは、このオケハザマ宙域にて、イマガワ・ヨシモトの本隊を奇襲する」
一瞬の沈黙の後、会議室は堰を切ったような喧騒に包まれた。
「なっ…奇襲ですと !?」
「あのデビルズ・パスで !?
しかも、あの大艦隊を相手に !?」
「無謀だ ! あまりにも無謀すぎる !」
愕然とする者、声を荒らげる者、中にはノブナガの正気を疑うような視線を向ける者もいた。 シバタ・カツイエですら、その魁偉な顔を驚きに強張らせている。
ノブナガは彼らの反応を意に介さず、冷静に言葉を続けた。
「ヨシモトは、連戦連勝に驕り、オケハザマという難所であればこそ油断する。
磁気嵐の警報も、辺境の小規模な自然現象と侮るだろう。 彼我の戦力差を考えれば、通常戦闘では万に一つの勝ちもない。
だが、敵が最も油断し、天候が我らに味方する瞬間を突けば……」
ノブナガは、戦略マップの一点を指し示した。ヨシモトの旗艦「オケハザマ・フォートレス」が停泊すると予測されるポイントだ。
「目標は、イマガワ・ヨシモトの首、ただ一つ。全艦隊を殲滅する必要はない。頭を失った大蛇は、自滅する」
ノブナガの言葉には、絶対的な確信が込められていた。 ノブナガは、ヨシモトの性格分析、過去の戦史、オケハザマ宙域の地形的特性、磁気嵐が敵のレーダーや通信システムに与える影響などなど、それら全てを緻密に計算し、この奇策に辿り着いていた。
ノブナガの淀みない説明と、その瞳に宿る狂気にも似た熱意に、家臣たちは徐々に呑まれていく。
反対の声は小さくなり、代わりに、わずかな可能性に賭けてみようという空気が生まれ始めていた。
「…殿の策、常軌を逸している。だが……」
カツイエが唸るように言った。
「面白い ! 万に一つの勝ちもない戦より、億に一つの奇跡を掴みに行く方が、よほど胸が躍るわ !
このシバタ・カツイエ、殿の刃となりましょうぞ !」
カツイエの言葉を皮切りに、他の家臣たちも次々と作戦への参加を表明し始めた。
ノブナガは静かに頷き、具体的な準備に取り掛かるよう指示を下した。
出撃は三日後と定められた。選りすぐられたのは、クラン・ノブナガが保有する艦艇の中でも特に高速性能に優れた約500隻。
ノブナガ自身の愛機である最新鋭の実験的戦闘艦「アツタ・フレーム」を筆頭に、決死隊が編成される。
キヨス・ベースの格納庫は、夜を徹して整備と補給に追われる兵士たちの熱気に満ちていた。
ノブナガも自らアツタ・フレームのコックピットに座り、エンジンの応答、武装の最終調整を己の手で行う。
彼の指先は、まるで長年連れ添った愛馬を慈しむかのように、計器の一つ一つを確かめていた。
そして、出撃前夜……
ノブナガは、作戦に参加する兵士たちをキヨス・ベース最大のVR(仮想現実)戦闘シミュレーションホールに集めた。
ホールの中央には、一基の最新鋭シミュレーターが設置されている。
それはアツタ・フレームの操縦システムを完全に再現したものだった。
兵士たちが固唾を飲んで見守る中、ノブナガは無言でシミュレーターに乗り込んだ。
次の瞬間、ホールの巨大スクリーンに、VR空間内の戦闘が映し出された。
ノブナガが操るアツタ・フレームは、単艦で、スルガの大艦隊を模した圧倒的多数の敵艦艇群へと突入していく。
レーザーが乱れ飛ぶ中、アツタ・フレームはまるで意志を持った生命体のように舞い、敵の集中砲火を神業的な操艦技術で回避し続ける。
反撃に転じれば、そのプラズマキャノンは的確に敵艦のバイタルパートを撃ち抜き、対艦ブレードは瞬く間に敵の装甲を切り裂く。
それは、もはや戦闘というよりは、芸術的な舞踏のようだった。 絶望的な数の差をものともせず、次々と敵艦を無力化していくアツタ・フレームの姿に、兵士たちは言葉を失い、やがて熱狂的な歓声がホールを揺るがした。
数十分後、仮想の敵旗艦が爆炎に包まれ、シミュレーションは終了した。
シミュレーターから降り立ったノブナガは、汗ひとつかいていないかのように涼やかな表情で、興奮冷めやらぬ兵士たちを見渡した。
「臆病者はここに残れ。 我らと共に死地に赴き、万に一つの勝利を掴みに行く者だけがついてこい」
その声は静かだったが、ホール全体に響き渡った。 兵士たちの士気は、今や最高潮に達していた。
彼らの瞳には、恐怖ではなく、若き総帥への絶対的な信頼と、勝利への渇望が燃え盛っていた。
兵士たちがそれぞれの持ち場へと戻っていく中、ノブナガは一人、ホールの片隅に佇んだ。
手には、古びたデータチップ。そこには、かつて旧地球で吟じられたという詩の一節が記録されていた。
彼は静かに、誰に聞かせるともなく、その一節を口ずさんだ。
「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり。 一度生を享け、滅せぬもののあるべきか…」
その声は、宇宙の深淵に吸い込まれるように消えていった。
ノブナガの胸には、死をも恐れぬ覚悟と、この一戦に全てを賭けるという烈火の如き執念が静かに燃え続けていた。
夜明けは、もうすぐそこまで迫っていた。
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