【完結】ギャラクティック・オケハザマ:新星ノブナガの黎明

月影 流詩亜

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第6話:ゼンジショウ前哨基地、最後の情報

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 スルガの早期警戒ドローン部隊との遭遇という危機を乗り越え、オダ・ノブナガ率いる決死隊は、なおも漆黒の宇宙そらを突き進んでいた。

 彼らの次なる目的地は、オワリ星系内に点在する秘密前哨基地の一つ、「ゼンジショウ・アウトポスト」。 そこは、この奇襲作戦における最後の中継地点であり、最終情報を入手するための重要な拠点だった。

 アツタ・フレームのメインスクリーンに、巨大なアステロイドの塊がゆっくりと近づいてくる。
 一見、何の変哲もない宇宙の岩塊。 だが、ノブナガがコンソールを操作し、特定の識別コードを送信すると、アステロイドの表面の一部がカモフラージュを解き、隠されたドックの入り口が姿を現した。

「ゼンジショウ・アウトポストに到着。 全艦、指示があるまで待機せよ」

 ノブナガは短く指示を出すと、アツタ・フレームを慎重にドック内部へと導いた。
ドック内部は、必要最低限の照明と設備しかない、まさに前哨基地といった趣だった。
 だが、そこには既にヒデヨシが先行して到着しており、数名の情報分析官と共に慌ただしく作業を進めている。
 彼らの顔には、連日の情報収集と分析による疲労の色が濃いが、その瞳には任務を遂行する者特有の鋭い光が宿っていた。

「殿、お待ちしておりました」
ヒデヨシが出迎え、深々と頭を下げる。

 その手には、最新の情報が詰まったデータパッドが握られていた。

「状況は?」
ノブナガは歩きながら尋ねた。

 基地の司令官と名乗る初老の男が敬礼したが、ノブナガは軽く頷くだけで、ヒデヨシと共に奥の情報分析室へと急いだ。 時間は限られている。

 分析室の壁一面に設置された大型スクリーンには、おびただしい数の情報ウィンドウが展開されていた。
 スルガ艦隊の動向、オワリ星系各地からの断片的な通信記録、そして何よりも重要な、イマガワ・ヨシモト本隊の最新位置情報と、オケハザマ宙域の宇宙気象データ。

「ヨシモト本隊は、ほぼ予測通りのルートでオケハザマ宙域へ向かっています。 到着は、あと半日後といったところでしょう」

 ヒデヨシが、スクリーン上の一群の赤い光点を指し示しながら説明する。

「磁気嵐の予測は ?」

「依然として強力です。 発生時刻、規模ともに、我らにとって好都合な条件が整いつつあります。まさに、天佑……」
ヒデヨシの声がわずかに弾む。

 だが、ノブナガの表情は変わらない。彼は、スクリーンに表示された別のウィンドウに視線を移した。
 そこには、陽動部隊からの最後の通信記録が再生されようとしていた。

『……こちら、陽動部隊旗艦キリンジ…敵別動隊、予想以上の規模…シバタ様は…獅子奮迅の戦いぶりなれど…もはや…限界…』

 映像は激しいノイズにまみれ、爆発音と悲鳴が混じり合う。そして、クラン・ノブナガの武将の一人が、炎に包まれながらも何かを叫ぼうとし、そのまま映像は途切れた。

『…殿…ご武運を…!オワリの…未来を…!』
それが、陽動部隊からの最後の言葉だった。

 情報分析室は、重い沈黙に包まれた。
 彼らの犠牲によって稼がれた時間が、今、この瞬間に繋がっている。
 ノブナガは、しばらくの間、何も言わずに暗転したスクリーンを見つめていた。 その横顔からは、感情を読み取ることは難しい。
 だが、彼の指が、再びコンソールの縁を強く、一度だけ叩いた。

「…彼らの犠牲を、無駄にはせぬ」

 静かに、しかし確固たる意志を込めて、ノブナガは言った。 そして、ヒデヨシに向き直る。

「ヒデヨシ、集めた全ての情報を最終統合し、オケハザマへの最短かつ最も安全な突入ルートを再計算しろ。 誤差は許されん」

「はっ、ただちに!」
 ヒデヨシは即座に応じ、分析官たちに指示を飛ばす。

 ノブナガは、再びスクリーンに視線を戻した。
 そこには、オケハザマ宙域の三次元マップが詳細に表示され、磁気嵐の予測進路が幾重にも重ねられている。
 ノブナガの頭脳は、この複雑な情報を瞬時に処理し、勝利への最適解を導き出そうとしていた。
やがて、彼は一つの決断を下した。

「これより、我が決死隊は最終加速でオケハザマ宙域へ向かう」
 ノブナガの声が、分析室に響き渡った。

「だが、これ以上の犠牲は避けたい。
ゼンジショウ・アウトポストの防衛に必要な最低限の戦力を除き、負傷者、および艦体に微細な損傷が確認された艦は、ここに残るものとする」

 ノブナガの言葉に、ヒデヨシがわずかに目を見開いた。 艦隊の数をさらに絞るということは、それだけ一隻あたりの負担が増すことを意味する。
 だが、ノブナガの判断は合理的だった。
 これからの高速強行軍と奇襲攻撃において、わずかな性能低下や練度の差が命取りになりかねない。

「異論は認めぬ。 選ばれた者は、死ぬ気でついてこい。そして、必ず生きて帰るぞ」

 ノブナガは、ゼンジショウ・アウトポストに残る者、そしてこれから死地へと赴く者たちの顔を一人一人見渡した。ノブナガの言葉は厳しく、しかしその奥には、部下たちの命を預かる者としての重い責任感が滲んでいた。

「出撃準備 ! 目標、オケハザマ !
 イマガワ・ヨシモトの首を獲る !」

 ノブナガの号令一下、選抜された艦艇のクルーたちは、新たな決意を胸に最後の出撃準備に取り掛かった。
 キヨス・ベースを発ってから、彼らは数々の困難を乗り越えてきた。
 だが、本当の戦いは、これから始まるのだ。

ノブナガは、アツタ・フレームのコックピットへと向かいながら、オケハザマ宙域で吹き荒れるであろう磁気嵐のことを考えていた。

 それは、敵にとっては災厄の嵐。

 だが、ノブナガらにとっては、勝利を呼び込む恵みの嵐となるはずだった。
    
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