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第7話:驕れる巨星、タラク丘陵の宴
しおりを挟むゼンジショウ・アウトポストを後にしたオダ・ノブナガ率いる精鋭艦隊は、オケハザマ宙域へと向かう最後の航程を息を潜めるように進んでいた。
艦内の空気は、これまでにないほど張り詰めている。 もはや後戻りはできない。
彼らの運命は、この先に待つ一瞬の奇襲にかかっていた。
アツタ・フレームのコックピットで、ノブナガはメインスクリーンに映し出されるオケハザマ宙域のリアルタイムセンサー情報を凝視していた。
ヒデヨシの情報収集艦から送られてくるデータと照合しながら、敵本隊の動きを注意深く追う。
やがて、ヒデヨシからの短い通信が入った。
「殿、目標です。 イマガワ本隊、オケハザマ宙域に進入。 予測通り、タラク丘陵アステロイド群に投錨しつつあります」
その声には、抑えきれない緊張が滲んでいた。
スクリーン上でも、2万隻を超えるスルガの大艦隊を示す巨大な赤い光群が、ゆっくりと狭隘なアステロイド地帯へと収束していくのが確認できた。
ノブナガは黙って頷いた。 タラク丘陵アステロイド群……その入り組んだ地形は、大艦隊が密集するには不向きで、防御陣形も取りにくい。
だが、外敵からの奇襲など露ほども考えていない者にとっては、アステロイドが天然の盾となり、むしろ安全な停泊地と錯覚するだろう。
(ヨシモトめ…先鋒のモトヤスからの連戦連勝の報に、既に勝利を確信していると見えるな)
ノブナガの脳裏には、傲慢な笑みを浮かべて祝杯を手にしようとするイマガワ・ヨシモトの姿が容易に想像できた。
これまでの戦いで、ヨシモトは常に圧倒的な戦力で敵を蹂躙してきた。
彼にとって、オワリのような辺境の小勢力など、取るに足りない存在のはずだ。
「ヒデヨシ、ヨシモト本隊の通信状況は?
何か動きはあったか?」
「はっ。 傍受できたのは断片的なものばかりですが…どうやら旗艦オケハザマ・フォートレス内部では、勝利を祝う宴の準備が進められている模様です。 高級士官クラスへの招集命令と思われる符号も確認しました」
やはり、とノブナガは口の端を歪めた。
敵は完全に油断しきっている。 これほど好都合な状況があろうか。
しばらくして、オケハザマ宙域を管轄する気象観測衛星から、微弱ながらも一つの警報が発せられたのをヒデヨシのチームが捉えた。
大規模磁気嵐接近の警報だ。
「殿、磁気嵐の公式警報が出ました。
ですが…スルガ艦隊側から、これに対する特別な警戒態勢への移行や、防御スクリーン出力上昇などの反応は一切確認できません」
「だろうな」とノブナガは短く応じた。
「ヨシモトにとって、辺境の磁気嵐など、都に吹く春風程度の認識かもしれん。あるいは、老練な艦長…例えば、オカベ・モトノブのような者がいれば、多少は警戒を進言するやもしれぬが…」
ノブナガは、かつてスルガとの小競り合いで何度か名を聞いたことのある、慎重な用兵で知られる老提督のことを思い浮かべた。だが、今のヨシモトが、そのような老人の忠告に耳を貸すとは到底思えなかった。
ノブナガ艦隊は、磁気嵐が本格的に発生する数時間前から、嵐の発生源となる高エネルギー宙域の影に身を隠すように、ゆっくりとヨシモト本隊へと接近していた。
アステロイドの陰に船体を潜ませ、敵のパッシブセンサーにすら感知されぬよう、エンジンの出力を最低限に抑え、熱紋すら厳格に管理している。 まさに、息を殺して獲物を待つ狩人のようだった。
そして、その時は来た……
ヒデヨシからの通信が、これまでになく興奮した響きを帯びてコックピットに飛び込んできた。
「殿!『オケハザマ・フォートレス』より、複数の微弱なエネルギー放射パターンを検知 !
これは…大規模な宴会で使用される照明や音響システム特有のものです !
さらに…信じられませんが、旗艦の防御スクリーンの一部に、出力低下が見られます !」
防御スクリーンの出力低下。それは、平時においても考えられないほどの油断だった。
おそらく、宴の邪魔になる振動やエネルギー干渉を避けるためか、あるいは単に、この辺境の宙域で警戒など不要と高を括っているのか。
ノブナガの瞳が、カッと見開かれた。全身の血が沸騰するような、強烈な高揚感が彼を包む。待ち望んだ瞬間が、ついに訪れたのだ。
「…天は、我らに味方したわ」
ノブナガは、誰に言うともなく呟いた。
そして、艦隊全艦に向けて、静かに、しかし確固たる意志を込めて命令を発した。
「全艦、最終突撃準備。磁気嵐の第一波到達と同時に、目標『オケハザマ・フォートレス』に向け、全速で奇襲を開始する !」
メインスクリーンには、間もなくオケハザマ宙域を覆い尽くすであろう、巨大な磁気嵐の渦が赤黒く表示されている。
その嵐の向こうには、驕れる巨星が、自らの破滅とも知らずに宴に興じている。
ノブナガは、アツタ・フレームの操縦桿を強く握りしめた。彼の脳裏には、ただ一つ、「イマガワ・ヨシモト討ち取り」の文字だけが鮮明に浮かんでいた。
嵐は、もうすぐそこまで迫っている。
そして、その嵐と共に、クラン・ノブナガの雷鳴が轟くのだ。
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