【完結】ギャラクティック・オケハザマ:新星ノブナガの黎明

月影 流詩亜

文字の大きさ
9 / 18

第8話:デビルズ・パスの咆哮

しおりを挟む

 オダ・ノブナガは、アツタ・フレームのコックピットで、その瞬間を待っていた。

 メインスクリーンには、オケハザマ宙域を覆い尽くさんとする巨大なエネルギーの渦が、刻一刻と迫ってくる様子が映し出されている。
 それは、この宙域特有の現象……大規模磁気嵐の先駆けだった。
 ノブナガの背後では、選りすぐられた精鋭艦隊が、息を殺して主君の号令を待っている。
 やがて、艦内のセンサーが一斉に甲高い警告音を発し始めた。

「高エネルギー流、急速接近!磁気嵐、予測通り発生します !」

 ナビゲーションAIの冷静な合成音声が、嵐の到来を告げる。
 ノブナガの視界の端で、宇宙空間が歪み始めたかのように、オーロラのような極彩色の光が明滅し、プラズマの奔流がうねり狂うのが見えた。
 それは、まるで宇宙そのものが怒り狂い、咆哮を上げているかのようだった。
 強力な電磁パルスが、不可視の波となって艦体を叩く。

「全艦、対電磁パルス防御最大。船体制御、マニュアル補助に切り替えよ。嵐に飲まれるぞ」

 ノブナガの声は、嵐の轟音にかき消されそうなほど静かだったが、不思議なほどの落ち着きを保っていた。
 ノブナガの指示通り、各艦は磁気嵐に対する防御態勢を強化し、熟練のパイロットたちが、荒れ狂う宇宙の奔流の中で必死に艦の姿勢を制御しようと努める。

アツタ・フレームもまた、激しい揺れに見舞われた。 だが、最新鋭の実験艦であるこの機体は、想定以上の安定性を示し、ノブナガは最小限の操艦で嵐の中を突き進むことができた。
 ノブナガの視線は、嵐の向こう側……イマガワ・ヨシモトの本隊が停泊しているはずの宙域へと注がれていた。

「ヒデヨシ、スルガ艦隊の状況は ?」

「はっ… ! 嵐の影響で、敵艦隊の正確なレーダーコンタクトはほぼ不可能です !
 センサーも広範囲に渡って機能不全に陥っている模様 !
 断続的に傍受される敵艦からの微弱な信号は…明らかにパニックを起こしています !」

 ヒデヨシの声は、嵐のノイズと興奮で途切れがちだったが、その内容はノブナガの予測通りだった。
 2万5千を誇る大艦隊も、この未曾有の磁気嵐の前では赤子同然。レーダーは役に立たず、通信は途絶し、艦隊の統制は完全に失われているだろう。

 各艦は孤立し、周囲の状況も把握できず、ただ嵐に翻弄されているに違いない。

(ヨシモトめ…今頃、あのキンキラキンの旗艦の中で、何が起こったのかも理解できずに喚き散らしていることだろうよ)

 ノブナガは、敵将の無様な姿を想像し、冷たく微笑んだ。
 彼にとって、この磁気嵐は計算し尽くされた戦術の一部。 だが、ヨシモトにとっては、まさに青天の霹靂へきれき、理解不能の災厄でしかないはずだ。

「殿 ! 敵艦隊の陣形、完全に崩壊 !
 複数の艦が同士討ち、あるいはアステロイドに衝突している可能性があります !
 エネルギー反応が各所で乱れています!」

 ヒデヨシからの報告は、スルガ艦隊の混乱がノブナガの想像以上であることを示唆していた。
 最新鋭の技術で固められた大艦隊も、自然の猛威と、それを予期せぬ奇襲の前には脆くも崩れ去る。

 ノブナガは、嵐の最も激しい中心部を避け、その「目」とも言うべき比較的安定した航路を選びながら慎重に、しかし確実にスルガ本隊の懐深くへと艦隊を進めていた。

 彼の脳裏には、ヒデヨシが最後に更新した敵旗艦オケハザマ・フォートレスの予測位置が焼き付いている。

「…よし」

 やがて、ノブナガは短く呟いた。
 ノブナガが定めた奇襲開始ポイントまで、あとわずか。 嵐は依然として猛威を振るっているが、それはむしろノブナガらにとって好都合な隠れ蓑となっていた。
 敵は、この嵐の中から自分たちが現れることなど、夢にも思っていないだろう。
ノブナガは、全艦に向けて最後の指令を発した。

「…時は来た」

 ノブナガの声は、コックピットの静寂を破り、決死の覚悟を秘めた兵士たちの胸に深く突き刺さった。

「全艦、我に続け。
 目標、イマガワ・ヨシモトが座乗する旗艦オケハザマ・フォートレス!
 ただ一点に集中し、これを撃滅する !進め !」

 その号令と共に、アツタ・フレームは嵐の帳の向こう側へと、猛然と加速を開始した。
 後続する精鋭艦隊もまた、一糸乱れぬ連携でそれに続く。
 彼らは、磁気嵐という名の巨大な獣の牙の間を縫うようにして、油断しきった獲物へと襲いかかる。

 デビルズ・パスの)咆哮《ほうこう》は、今、クラン・ノブナガの鬨の声へと変わろうとしていた。

 銀河の歴史が、まさにこの瞬間、大きく転換しようとしていることを、まだ誰も知らない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...