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第55話 勅使饗応役 ②
しおりを挟む── 赤穂藩 ──
「なんだとぉー ! 幕府は朝廷勅使の饗応に、納豆藩の酒を用いるだけでなく、やつらを勅使饗応役にも抜擢しただとぉー ! 」
昨年末、常陸、納豆藩から献上された新酒を元▪将軍がことのほか気に入り、駿河を訪れる朝廷勅使の饗応に用いると言い出したのだ。
現▪将軍の綱吉が若く未熟な為に実質、元▪将軍の義光(家光)が取り決めをしていた。
ちなみに、綱吉こと徳松は伊豆守から政治を学んでいる最中である。
この決定を聞いた、浅野内匠頭は怒り心頭に発していた。
「あの田舎大名め……国もとの酒を元▪上様がお気に召したから、いい気になっておるのだろう……
どうせ、幕府の重鎮に賄賂でも送ってご機嫌を取ったに決まっておるわ ! 」
浅野内匠頭は少し考えた後に、
「内蔵助よ。 どうにかして、納豆藩が駿河に新酒を運ぶのを邪魔するのだ !
そうすれば、我が赤穂藩にも機会が巡って来るに違いない ! 」
あまりにも浅はかな命令に辟易とする大石内蔵助。
最近、赤穂藩と他藩の間にある街道で女狩りを始めていることでも頭が痛いのに、我が君は短絡的過ぎる。
もし、幕府にバレでもしたら、赤穂藩はお取り潰しに成ってしまうかも知れない。
「意地川塁衛門よ、女共は集まっておるのか ? 」
腰巾着の意地川塁衛門は、すっかり浅野内匠頭のお気に入りに成っていた。
「ハッ。 北条より預かりし風魔忍者を使い、手抜かりなく女共を集めております。
また、南蛮の魯西亜との密貿易で稼いだ銭がありますので、饗応役にかかる銭も大丈夫でござる 」
城代家老であるはずの大石内蔵助には、寝耳に水の話だった。
「殿、某は聞いておりませぬぞ !
こんなことが、幕府に……公儀隠密にバレれば赤穂藩はお取り潰しに成ってしまいますぞ ! 」
「ちっ、昼行灯の内蔵助のクセに我に逆らうのか !?
魯西亜や北条と協力して今川の天下を北条に変えてしまえば、我は百万石の大大名に成るのだから関係ないわ ! 」
ニヤリと笑う意地川塁衛門を見た大石内蔵助は、全てが意地川塁衛門の策略だと気づくも……
「殿。 大石殿は、ずいぶんとお疲れのようです。
しばらくは、ごゆるりとお休みして頂くのが、よろしいかと存じます 」
「うむ、それがよかろう。
内蔵助よ。 屋敷にて、ゆっくり養生するが良いぞ。
誰かある ! 内蔵助を屋敷まで送ってやるがよいぞ 」
小目付の神崎与五郎則安と茅野輪助常成が入って来て、半ば無理やり大石内蔵助を連れ出してしまう。
「殿 ! 殿 ! どうぞ、お考え直しを……
大石内蔵助の諫言は浅野内匠頭には届かなかった。
◇◇◇
城から出ると神崎与五郎則安と茅野輪助常成の二人は深く頭を下げて大石内蔵助に、
「大石殿。 今は辛抱してくだされ。
殿は余所者の意地川塁衛門を信じきって、我らの諫言に耳を貸しませぬ 」
「それどころか、あまり煩く言うと処罰をしようとなさる。
もともと女好きではあったが、最近は『花地獄』と称して城の奥に集めた女達を閉じ込めているのです 」
殿は魯西亜と北条に利用されているのが解らぬのか !?
このままでは、本当に赤穂藩はお取り潰しに成ってしまう。
そうなる前に、……
「儂は、しばらくの間は大人しく静養していようと思う。
お前達は同士を集めてくれ !
失敗しても死、成功しても良くて切腹はまぬがれぬが赤穂藩の為に、その命を儂に預けて欲しい ! 」
大石内蔵助の意思を聞いた二人は頷き、密かに同士を集めることを誓った。
浅野内匠頭、魯西亜、北条の思惑が絡み、歴史はあらぬ方向に歩き始めていた……
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