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第一章 浪速陰陽師、秋田美人にこける? ~秋田編 ~
第 4話 泣く子と浮気男はいねがー
しおりを挟む田沢湖での水妖退治の疲れを癒すため、二人はその日の宿として男鹿半島の旅館を選んだ。
囲炉裏には、秋田名物「きりたんぽ鍋」がグツグツと音を立てている。比内地鶏の滋味深い出汁の香りが、香ばしく焼かれたきりたんぽと共に湯気を立て、冷えた体に染みていく。
「はぁ~……生き返るわ……」
こけるは、きりたんぽを頬張りながら至福のため息をついた。
「やっぱり秋田はメシが美味い! 角館も田沢湖も最高やったし、来てよかったわ!」
「ふーん」
海里が、鍋の具材を自分のお椀に取り分けながら、ジト目でこけるを見る。
「……『美人』も、おったみたいやしな」
「げっ!」
楽しかった思い出が一瞬で吹き飛んだこけるは、慌てて両手を振った。
「ちゃ、ちゃう! ちゃうわ! もちろんウチの海里が世界一や! 宇宙一や! ほんまやて!」
こけるが必死にごまかそうとした、その時だった。
ドン! ドン! ドン!
「!?」
旅館の頑丈そうな引き戸が、まるで叩き割られそうな勢いで激しく鳴り響く。
次の瞬間、戸が荒々しく開け放たれ、地響きのような声が響き渡った。
「ウォー! 泣く子はいねがー!」
「怠け者はいねがー!」
鬼のような形相の面、藁の衣装「ケデ」をまとった巨大な「なまはげ」が、二体、戸口から店内に足を踏み入れてきた。
「「ぎゃああああ!」」
食事をしていた他の客席にいた子供たちが、一斉に泣き叫ぶ。
「ひぃっ!」
こけるも、情けない声を上げて本気でビビっていた。
(アカン! こいつら、昨日の田沢湖の水妖とは格がちゃう! 妖怪やのうて…神様の類や!)
陰陽師としての霊感が、なまはげが持つ神聖なまでの圧力を敏感に感じ取っていた。
なまはげは、出刃包丁(もちろん、脅し用の木製だ)を振り回しながら店内を練り歩き、泣く子を叱りつける。
そして、その一体が、なぜかこけるの目の前でピタリと止まった。
なまはげは、こけるの顔を覗き込むようにして、その太い声で怒鳴りつけた。
「この小僧……隣の可愛い嫁さ(海里のこと)ばっかり見ねで、よそ見してねがー!」
「ひぃぃぃ! な、なんでバレたん!?」
こけるの顔が真っ青になる。
「図星か! 浮気者はいねがー!」
なまはげが、さらにこけるに詰め寄る。
絶体絶命のピンチ。
だがその時、海里はすっと立ち上がると、にっこり笑ってなまはげに熱燗を差し出した。
「よう言うてくれました!
なまはげさん、うちの旦那、もっと叱ったってください!」
「えええ!? 海里まで!?」
「ウォー! 心入れ替えねど、山の神様さ言いつけて、山さ連れてぐぞ!」
「しっかり働いて、嫁さ大事にすんだぞ!」
「ひぃ、はいぃぃ!」
秋田の神様と、大阪の恋人の両方からこっぴどく叱られながら、こけるの秋田旅行は、こうして忘れられないクライマックスを迎えるのだった。
帰り道、秋田駅からの新幹線「こまち」の車内
こけるは、なまはげに説教され続けたせいで、ぐったりと座席に沈んでいる。
その傍らで、海里は満足そうにお土産の「いぶりがっこ」の包みを眺めていた。
「ふぅ。秋田、ええとこやったな。メシも美味いし、観光もできたし」
海里はこけるに向き直り、ニヤリと笑った。
「また来よな、こけるのおごりで」
「……(おごり)……」
こけるは、力なく頷くことしかできなかった。
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