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第1話 理系女子の論理的(?)合鍵要求計画
しおりを挟む【理子視点 】
放課後の図書室。静寂を切り裂くのは、カチカチという乾いたボタンの操作音だけだった。
私は眼鏡を指で押し上げ、液晶画面に集中する。隣では、幼馴染の隆成が必死の形相でコントローラーを握っていた。
「くっそ、なんで当たんねーんだよ! 理子、お前予測してんのか!?」
「当たり前でしょ。あんたの動きは単純。基本、直進しかしないでしょ」
画面に『YOU WIN』の文字が躍る。これで今日の戦績は私の十連勝。
隆成は「あー!」と天を仰いで椅子に沈み込んだ。
「降参。理子には一生勝てる気がしねえわ」
「……勝負事には、常に最適な解があるのよ。隆成にはそれが欠けてる」
私は冷静を装ってゲーム機を鞄にしまった。
心臓が、対戦中よりも速く脈打っている。
ここまでは計算通り。勝負に勝った報酬として、以前からシミュレーションしていた「ある提案」を切り出す絶好のタイミングだ。
私たちはこの『森ヶ丘』という狭い街で、生まれた時からずっと一緒にいた。
家も近所、学校も同じ。けれど、高校生になってから、自分の中で何かが変わった。
「幼馴染」という定義は、あまりに広すぎる。その中には、ただの近所の住人もいれば、性別を超えた友人も含まれる。私が欲しいのは、その曖昧な集合体の中の、もっと特別な……「恋人」という名の、唯一無二の解だ。
友人という安全な安住の地と、その先にある未知の領域。
今、私はその境界線の上に立っている。
「ねえ、隆成。あんた、両親が海外に行ってから一人暮らしでしょ。……防犯意識、低すぎない?」
「え? ちゃんと戸締まりはしてるぞ?」
「甘い。あんたみたいなドジは、いつ鍵を失くして途方に暮れるか分かったもんじゃないわ。それに、食生活もガタガタでしょうし」
私は一気にまくしたてた。論理武装。これが私の戦い方だ。
「だから、その……リスクマネジメントとして、私が予備のキーを管理してあげてもいいわよ。何かあった時に、すぐ対応できるように」
「えっ、管理って……理子が俺の家の合鍵を持つってことか?」
隆成がポカンとした顔で私を見る。
その真っ直ぐな視線に、用意していた論理回路が急激にオーバーヒートを起こした。顔が熱い。計算式が、真っ白に弾け飛ぶ。
「そ、そうよ! 別に変な意味やないわ!
あんたがあまりに危なっかしいから、しゃあなしで言うてんねん! 大阪のオカンが近所の子を心配するような、そんな感じや!」
動揺のあまり、隠していたはずの大阪弁が飛び出した。
「理子、お前……お母さんみたいだな! 世話焼きっていうか、なんというか」
「……誰がお母さんやねん! アホ! 鈍感! 死滅しろ!」
私は真っ赤になって立ち上がった。
境界線を越えるための「鍵」を手に入れるはずが、これではただの「近所の口うるさいオカン」にカテゴリー分けされてしまう。
計算外。完全な計算違い。
私は逃げるように図書室を後にした。背後で「おい、理子! 怒んなよ!」と呼ぶ隆成の声が、今はただ、もどかしくて仕方がなかった。
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