境界線上の合鍵争奪戦 ~ 幼馴染は負けたくない ~

月影 流詩亜

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最終話:境界線上の三つ巴 ~選ばれるのは誰の手に~

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隆成りゅうせい視点】


​ 夕暮れ時の森ヶ丘は、オレンジ色の光に包まれて、どこか現実味を失っていた。
 俺は自宅のマンション前で、かつてないほどのプレッシャーに冷や汗を流している。

​ 目の前には、三人の幼馴染。

 眼鏡の奥で必死に鋭い視線を送ってくる理子。

 無口なまま、幽かな熱を帯びた瞳で見つめる舞。

 そして、おっとりと微笑みながらも、絶対に一歩も引かない気迫を感じさせる沙希。

​ 三者三様の「合鍵」への要求。

 鈍感な俺だって、さすがに気づかないわけにはいかなかった。これは、ただの鍵の管理じゃない。
  俺の生活、俺の隣、そして俺の心。その特等席を誰に預けるのかという、重大な選択なんだ。

​「……隆成、いつまで黙ってんの。論理的な最適解は、もう出てるはずよ」

 理子が少しだけ震える声で言った。

「……隆成。私が、一番近くで……守るから」

 舞が、消え入りそうな声で言葉を繋ぐ。

「隆成くん。私に預けてくれたら、ずっと温かい場所にしてあげられますよ?」

 沙希が、包み込むような笑顔で最後の一押しをする。

​ 今まで、俺たちは「幼馴染」という言葉の裏に隠れて、傷つかない距離を保ってきた。

 でも、もうこの境界線を跨がなきゃいけない時が来たんだ。

​ 俺はポケットから、小さな銀色の鍵を取り出した。

 一つしかない、予備の合鍵。

 これを誰かに渡せば、今の四人のバランスは崩れるだろう。二度と、昨日までの「ただの友達」には戻れない。

​ 理子の不器用な優しさ。

 舞の静かな献身。

 沙希の深い包容力。

​ 誰を選んでも、誰かを傷つける。

 それでも、俺は自分の気持ちに嘘をつくわけにはいかない。

​「……みんな、ありがとう」

​ 俺はゆっくりと深呼吸をして、三人の顔を順番に見つめた。

 そして、一歩。

 心の中に決めた、たった一人の相手に向かって足を踏み出す。

​「この鍵、お前に持っててほしいんだ」

​ 俺は右手を差し出した。

 差し出された手の上に、冷たい金属の感触が落ちる。

​ 鍵を受け取った彼女の指先が、わずかに震えた。

 驚きに目を見開く者、唇を噛みしめる者、そして、溢れんばかりの喜びを瞳に宿す者。

​ 夕闇が迫る中、俺たちの新しい関係の扉が、今、静かに開き始めた。


 ── 終 ──

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