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第3話 天然癒やし系の甘い侵食と健康管理
しおりを挟む【沙希視点】
ふんふふーん、と鼻歌を歌いながら、私は隆成くんの家の台所に立っています。
今日は特製の「高麗人参入りハチミツレモンカレー」を作っているんです。色はちょっと……ええ、泥水みたいですけれど、健康にはとってもいいんですよ?
「なあ、沙希。それ、本当に食べられるのか?」
リビングのソファでゲームをしていた隆成くんが、不安そうに覗き込んできます。
「もう、失礼ですね。愛をたっぷり隠し味に入れましたから、元気になりますよ」
「愛っていうか、漢方の匂いがすごいんだけど……」
困ったように笑う隆成くん。その無防備な顔を見るのが、私は大好きなんです。
この『森ヶ丘』の静かな街並みと同じくらい、隆成くんの横顔は私に安らぎをくれます。
でも、最近は少しだけ、私の心もざわついているんです。
理子ちゃんはゲームで、舞ちゃんは雨の中の待ち伏せで。みんな、隆成くんへの想いを隠しきれなくなっていますよね。
私、争いごとは嫌いですけれど……譲るのも、やっぱり嫌なんです。
「はい、隆成くん。あーん、してください」
「えっ、自分で食えるって!」
「だめですよ。ちゃんと最後まで見届けないと、健康管理になりませんから」
私はニコニコと笑って、スプーンを差し出します。
隆成くんは「ううっ」と呻きながらも、最後には観念して口を開けてくれました。
……ふふ。こうして、少しずつ。
隆成くんの体の中も、生活も、私の色で染めていきたいんです。
「ねえ、隆成くん。私、毎日こうしてお料理を作りに来たいんですけれど……」
「毎日? 嬉しいけど、沙希だって忙しいだろ?」
「ううん、全然。でもね、隆成くんが部活で遅くなると、外で待っている間に体が冷えちゃうのが心配で。もし……もし、私が勝手に入れるようになっていれば、隆成くんも気を使わなくて済みますよね?」
私は首をかしげて、一番可愛く見えるはずの角度で彼を見つめました。
狙うのは、物理的な鍵。
「それって……合鍵のことか?」
「はい。私に預けてくれたら、隆成くんがおうちに帰ってきた時には、温かいご飯とお風呂が用意できているんですよ? 素敵だと思いませんか?」
理子ちゃんや舞ちゃんのように、強引に奪ったり、遠回しにねだったりはしません。
ただ、それが「当たり前」のことだと思ってもらえるように。
友人という境界線を、ふわふわの綿菓子で包み込んで、いつの間にか溶かしてしまうように。
「合鍵かぁ……。確かに、沙希なら安心だけど……」
「あ、無理にとは言いませんよ? ……でも、断られたら、私、悲しくてお料理の味が変わっちゃうかもしれません」
少しだけ潤んだ瞳で見つめると、隆成くんはタジタジになっています。
さあ、隆成くん。その心の扉を開ける「鍵」を、私に預けてくれませんか?
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