【完結】ツンデレお嬢様弁護士は奮闘中! ~法と人情で悪を裁く! ~

月影 流詩亜

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第四章:虚構の断罪者

第15話 由利凛、暴走す?

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 御門法律事務所の会議スペースには、重苦しい沈黙が漂っていた。

 A市での聞き込み調査から戻った英里香と、科学的再鑑定を進める巧、そして警察内部の調査を続ける嵐(と、モニター越しの明日菜や蝶子、ジャンヌ)が集まり、現状報告を行っていたが、その内容は芳しいものではなかった。

「アリバイや不審車両の証言は得られましたが、いずれも断片的で、決定打とは言えません。
 元捜査関係者の口も依然として重く、核心に迫るのは難しい状況です」

英里香が、疲れた表情で報告する。

「こちらの方も、証拠の劣化が想像以上に酷く、第三者のDNA特定には至っていない。
 繊維や血痕の矛盾点は指摘できそうだが、それだけで再審の扉をこじ開けられるか…」

巧も、珍しく弱音に近い言葉を漏らす。

「警察内部も、30年前の事件となると、記録の壁、記憶の壁が厚すぎる。
 当時の捜査に疑問を持っていた元刑事の証言は取れたが、それだけでは……」

 嵐も、苛立ちを隠せない様子だ。
 調査は明らかに行き詰まりを見せていた。
 時間は刻一刻と過ぎていく。
 鈴木一郎の死刑執行が、いつ行われてもおかしくないという現実。
 そして、依頼者である鈴木トメ子さんの健康状態も、心労からか芳しくないと聞いている。
 英里香の胸には、焦りと無力感がじわじわと広がっていた。

(このままでは、何も変えられないかもしれない……)

 そんな重苦しい空気を切り裂くように、事務所のドアがバンッ!と開かれた。

「待たせたのう、諸君! このわらわが、停滞した状況を打破する、超絶発明品を持ってきたぞ!」

 ハイテンションで登場したのは、やはりこの人、潮来由利凛だった。
 手には、前回以上に怪しげなオーラを放つ、銀色のヘルメットのような装置を抱えている。
 ヘルメットには無数の電極が取り付けられ、側面には「YURIRIN Mk-III」と書かれたプレートが貼られていた。

「ゆ、由利凛! またあなたなの !?」

英里香は思わず叫んだ。

「今、真面目な話をしてるんだけど!」

「まあまあ、そう邪険にするでない。
これは『記憶サルベージマシーン・ゆりりん号』じゃ! 
 被験者の脳深層に眠る忘却の彼方の記憶を、特殊な脳波スキャンで読み取り、ホログラム映像として映し出すという、ノーベル賞間違いなしの画期的発明なのじゃ !」

 由利凛は、大平原な胸を反り返らせて自慢げに説明するが、その説明自体が胡散臭さ満点だ。

「脳に直接アクセス… ? 
そんな危険なもの、使えるわけないだろう !」

巧が、科学者としての常識から反論する。

「失敬な! 安全性には最大限配慮しておるわ!……たぶん。
 さあ、まずは実験台じゃ! 
 ここはやはり、この中で一番『古い記憶』をたくさん持っていそうな……」

 由利凛の視線が、部屋の隅で静かにコーヒーを飲んでいた御門所長に向けられた。

「なっ !?」

御門所長が、珍しく素で驚きの声を上げる。

「お、面白そうじゃないか! 所長の忘れたい過去とか、暴き出してやろうぜ!」

嵐が、不謹慎にも目を輝かせている。

「やめなさい、嵐くん ! 
所長、お逃げください !」蝶子が叫ぶ。

「よーし、ターゲットロックオン!」
由利凛が装置を構え、御門所長に迫ろうとしたその時 !

「させるかーっ !」

 英里香が、咄嗟とっさに由利凛の前に立ちはだかった。

「危ないじゃない!
 そんなもので所長に何かあったらどうするの !」

「むぅ、英里香ちゃんが邪魔をするか ! ならば……!」

 由利凛はターゲットを変更し、近くで面白がっていた嵐に狙いを定めた。

「うおっ!? なんで俺なんだよ!」

「お兄ちゃん、逃げて!」英里香が叫ぶ。

 事務所内は、再びドタバタの大騒ぎになった。
 由利凛を止めようとする英里香と巧、面白がって煽る嵐、冷静に(?)状況を見守る蝶子とジャンヌ、そして「やれやれ」と頭を抱える御門所長。

 もみ合いになる中で、誰かの手が装置のスイッチに触れてしまった。

 ビーッ! バチバチバチッ!

 装置から激しいスパークと警告音が鳴り響き、ヘルメットの先端から放たれた光線が、壁に向かって何かを照射し始めた!

「わわわっ ! 暴走じゃ ! 緊急停止 ! 緊急停止 !」

 由利凛が慌ててボタンを連打するが、装置は止まらない。壁には、ホログラムのような映像が、ノイズ混じりに映し出されていた。

『……ああ、君の瞳は夜空の星……僕の心を照らす月…ポエム・オブ・ラブ…』

 映し出されたのは、若かりし日の御門所長(らしき人物)が、窓辺で遠い目をしてポエムを詠んでいる姿だった。
 事務所内が一瞬、凍りつく。
 御門所長は顔を真っ赤にして俯き、肩を震わせている。

「こ、これは…所長の黒歴史…!」嵐が息をのむ。

「次は何じゃ !?」由利凛が叫ぶと、映像が切り替わった。

『……蝶子へ。
いつもツンツンしてるけど、本当は優しいお前のことが…その…好き、なんだ…! 
 どうかこの、男の純情を受け取ってくれ…! 
追伸:この手紙は燃やしてくれ…』

 今度は、嵐が必死の形相でラブレター(の下書き)を書いている姿だった。

 蝶子は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにフッと笑みを漏らし、嵐は「うわああああ! 見るなあああ!」と頭を抱えてしゃがみこんだ。

「……とんでもないものを発明してくれたわね、由利凛…」英里香が、額に手を当てて呟いた。

 装置はなおも暴走を続け、次々と関係ない情報(田所さんのへそくり場所のヒント? 英里香の深夜の通販履歴?)を映し出し始めた。

 もう、収集がつかない。

 だが、その混乱の最中、暴走した光線が、偶然、机の上に置かれていた鈴木一郎事件の古い裁判記録のファイルに当たった。
 すると、これまでとは明らかに質の違う、断片的で不鮮明なイメージが壁に映し出されたのだ。

 それは、手書きのメモのような文字…『第三者の指紋…採取…報告不要…』?

 次に映ったのは、鑑定書の下書きのような書類…『…繊維の一致、断定できず…再鑑定を要す…』?
 
 そして最後に、顔の見えない人物が、誰かに何かを耳打ちしているようなシルエット…。

 映像はすぐにノイズに掻き消え、装置はプスン、と音を立てて沈黙した。

 事務所内は、しばし呆然とした空気に包まれた。今の映像は何だったのか? 

 まるで、公式記録からは抹消されたかのような、不都合な真実の断片。

「…見たか! 見たか英里香ちゃん !
 やはり妾の発明は偉大じゃ !
 あれこそが、隠された真実への扉を開く鍵なのじゃ !」

 由利凛が、大平原的な胸を張り、鼻息荒くドヤ顔を決めた。

 英里香は、まだ半信半疑だった。
 あの映像が本当に意味のあるものなのか、由利凛の装置の誤作動なのか、判断がつかない。
 しかし、もしあれが本物だとしたら… ? 
 検察、あるいは警察が、意図的に不利な証拠を隠蔽した可能性を示唆しているのではないか ?

「…由利凛、もう一度、あの映像を出せないの ?」

「む ? うーむ…暴走モードの産物じゃからなあ…再現は難しいやもしれぬが…やってみる価値はあるのじゃ !」

 英里香は、わらにもすがる思いで、この奇妙な発明家と、彼女の生み出した胡散臭うさんくさい装置に、一縷いちるの望みを託すことにした。
 調査は行き詰っていた。
 ならば、どんなに突飛な可能性でも、試してみるしかない。

 果たして、由利凛の暴走が生み出した偶然の産物は、30年間閉ざされてきた真実の扉を開ける、本当の鍵となるのだろうか ?

 英里香たちの戦いは新たな、そして奇妙な局面を迎えようとしていた。

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