【完結】ツンデレお嬢様弁護士は奮闘中! ~法と人情で悪を裁く! ~

月影 流詩亜

文字の大きさ
42 / 63
第六章:偽りの証明

第38話 明日への道標

しおりを挟む

 再審公判は、異例の速さで進んだ。

 検察側は、新たな有罪立証を行うことを事実上放棄。
 弁護側が提出したDNA再鑑定結果、真壁元警部補の証言、その他の証拠を覆すことは、もはや不可能だった。

 そして、運命の判決の日。
東京高等裁判所の法廷。
裁判長は、集まった多くの人々の視線を受けながら厳粛に判決を言い渡した。

「主文。被告人、須田和夫は無罪」

 その瞬間、法廷は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
 須田節子さんは嗚咽を漏らしながら、その場に崩れ落ちそうになるのを、隣にいた英里香がそっと支えた。

 証言台の前に立っていた須田和夫は、しばらく呆然とした表情で立ち尽くしていたが、やがて、その目から静かに涙が流れ落ち、深く、深く頭を下げた。十数年ぶりに、彼の潔白が、公に証明されたのだ。

 判決後、検察庁と絹川県警の幹部が、和夫と節子さんのもとを訪れ、深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べた。

「誠に申し訳ありませんでした」

「我々の捜査に誤りがありました」

 しかし、その言葉は、あまりにも形式的で空虚に響いた。
 失われた時間と、彼らが受けた苦痛の重さを前にして、どんな謝罪の言葉も色褪せて聞こえてしまうのは仕方のないことだった。

 英里香は、その後の記者会見で、改めて今回の事件の重大性を訴えた。

「須田さんの無罪が証明されたことは、大きな一歩です。
 しかし、これで終わりではありません」

 彼女は、強い口調で続けた。

「今回の事件は、単なる個別のミスや一部の捜査員の暴走ではありません。
 自白を偏重し、客観的な証拠を軽視する捜査のあり方、科学鑑定の結果を鵜呑みにし、時にそれに固執する体質、そして組織の過ちを認めようとしない隠蔽体質。
 これらは、日本の刑事司法全体が抱える、構造的な問題です。
 二度とこのような悲劇を繰り返さないために、取り調べの全面可視化、証拠の全面的な開示、そしてDNA鑑定をはじめとする科学鑑定の精度管理体制の確立が、急務です」

 英里香の言葉は多くのメディアで報じられ、司法制度改革への議論を再び呼び起こすきっかけとなった。

 無罪を勝ち取った須田和夫だったが、彼の前途は決して明るいものではなかった。
 十数年という長い空白期間、そして「殺人犯」というレッテルを貼られて生きてきた経験は、彼の心に深い傷を残していた。
 社会復帰への道のりは、始まったばかりだ。

 しかし、彼はもう一人ではなかった。
 英里香や御門、嵐、巧、明日菜をはじめとする大江戸グループの全面的なサポート。
 そして、ずっと彼を支え続けてきた支援者たちの存在があった。
 住居の確保、就労支援、精神的なケア、認知機能のリハビリテーション……。
 専門家チームが組まれ、彼のペースに合わせながら、社会との繋がりを少しずつ取り戻していくための、長期的な支援計画が動き出していた。
 節子さんも息子の隣で穏やかな、しかし確かな希望を宿した表情で、その未来を見つめていた。

 一方で、この事件には、苦い後味が残った。
 再鑑定で検出された真犯人のものと思われるDNA。
 しかし、公訴時効の壁が、その追求を阻んだ。
 清水さなえちゃんの無念、残された遺族の思いは、法の下では完全に晴らされることはない。

「…時効か。 本当に、これで終わりなのか……」
嵐は絹川の事件現場の写真を眺めながら、唇を噛み締めた。

 やるせない怒りと無力感が、彼の胸に渦巻いていた。
 正義は、時に完全な形では実現しない。

 その厳しい現実を、彼らは再び突きつけられたのだ。

御門法律事務所の窓辺に立ち、英里香は夕暮れの街並みを見下ろしていた。
 須田和夫事件は、一つの区切りを迎えた。
 しかし、それは新たな始まりでもあった。

 冤罪を生む司法の構造、時効という法の限界、そして、法の下で救済されない人々の存在……。

 弁護士として、一人の人間として、向き合わなければならない課題は山のように積み重なっている。

(それでも…進むしかない)
英里香は、心の中で呟いた。
 たとえ一歩ずつでも、たとえ壁にぶつかっても、諦めずに、自分の信じる正義を追い求め続ける。その決意を新たにした。

 ふと、事務所の奥から賑やかな声が聞こえてきた。覗いてみると、無罪判決のささやかな打ち上げの席で、またしても由利凛が何かを取り出している。

「和夫殿の新たな門出を祝して! これは『絶対道に迷わないナビゲーション靴下・改』じゃ! 
 これを履けば、GPSも届かぬ秘境でも、必ず目的地にたどり着けるのじゃ!」

「結構です!」
 和夫の隣で、すかさず玉井刑事が割って入り、なぜか自分がその靴下を受け取ろうとしている。

「先生! 僕が代わりに、この素晴らしい靴下を!」

「あなたには必要ないでしょう」
英里香は呆れながらも、その光景に思わず笑みがこぼれた。

 頼もしく、そして少し騒がしい仲間たちがいる。 一人ではない。
 英里香は、窓の外に広がる無数の光を見つめながら再び前を向いた。

 彼女の新たな戦いは、まだ始まったばかりだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...