【完結】ツンデレお嬢様弁護士は奮闘中! ~法と人情で悪を裁く! ~

月影 流詩亜

文字の大きさ
45 / 63
第七章 : デジタルの迷宮

第41話 サイバー空間の幻影

しおりを挟む

 大江戸グループ中央研究所の、静謐せいひつだが常に高度な計算音が響く一室。
 壁一面を埋める巨大なマルチモニターには、常人には意味不明な文字列やグラフが滝のように流れ落ちていた。
 その前に座る大江戸巧と、隣で同じく鋭い視線をモニターに注ぐジャンヌ・オルレアンは、高村亮のPCから複製されたディスクイメージ、そしてネオ・フロンティア社から限定的に開示された関連サーバーのログデータという、膨大な情報の海に深く潜っていた。

「……見つけたぞ、ジャンヌ。これだ」
 巧が、特定のログファイルを指し示した。

 タイムスタンプは、機密情報「イカロス」の設計データが外部に送信されたとされる時刻と一致している。
 送信先は、ライバル企業サイバーダイナミクスに関連すると見られるダミーサーバーのアドレスだ。

「確かに、送信ログは残っているわね。
 送信元IPアドレスも、高村亮の社用PCのものと一致する」
 ジャンヌは冷静に分析結果を読み上げる。

「状況証拠としては、これで十分だと検察は判断したのでしょう」

 しかし、巧は眉根を寄せ、モニターを睨みつけていた。

「…おかしい。あまりにも、分かりやすすぎる」

「どういうこと、タクミ?」

「手口が単純すぎるんだ。
 高村亮ほどのプログラマーなら、もっと巧妙に痕跡を消すはずだ。
 それに、この送信ログ……まるで『ここに証拠がありますよ』と主張しているように、不自然なほどクリーンに残っている。
 まるで、誰かがわざわざ残したみたいだ」

ジャンヌも再びログを精査し、頷いた。
「確かに…。通常のデータ送信で残るはずの、他の関連ログの一部が不自然に欠落している箇所もあるわ。
 これは…誰かが意図的に、彼に不利なログだけを残し、他の痕跡を消去した…あるいは、偽のログを生成した可能性も考えられるわね」

「ああ。素人の犯行に見せかけた、プロの偽装工作…その線が濃厚だ」
 巧は腕を組み、深く息をついた。

「敵は、相当な手練れだぞ」


 その頃、英里香と嵐は、東京湾岸エリアにそびえ立つネオ・フロンティア社の本社ビルを訪れていた。
 ガラスとスチールで構成された、冷たく輝くインテリジェントビル。
 厳重なセキュリティゲートを抜け、案内された会議室もまた、白とグレーを基調とした無機質な空間だった。
 廊下ですれ違う社員たちの表情も硬く、まるで感情をプログラムで制御されているかのようだ。

「それで、本日はどのようなご用件でしょうか、大江戸先生」
 会議室に現れたのは、会社の顧問弁護士と、高村亮の直属の上司にあたる開発部門のマネージャーだった。

 顧問弁護士が鋭い視線を向けてくる。
 英里香は毅然きぜんとした態度で、弁護人として高村亮の無実を確信しており、事件の真相究明のために協力を求めている旨を伝えた。
 そして、亮の普段の勤務態度や、事件前後の様子について質問を始めた。

「高村君ですか……確かに、技術者としては非常に優秀でした。
 彼のアイデアがプロジェクトを大きく前進させたことも事実です」
マネージャーは慎重に言葉を選びながら答える。

「しかし、その…少々、協調性に欠ける面がありましてね。 周りとのコミュニケーションをあまり取らず、自分のやり方に固執することが多かった。チーム全体の和を乱すことも、正直、ありました」
同席した亮の元同僚(会社側が選んだ人物だろう)も、同様の証言をした。

「才能は認めますが、少し扱いにくいというか…我々凡人とは違う、という意識が強かったように思います。
 今回の事件は残念ですが、彼なら……あるいは、と思ってしまう部分も、なくはないですね」
言葉の端々に、亮の才能への嫉妬や、彼の孤立を示唆するニュアンスが滲む。

 嵐は、黙って彼らの表情や仕草を観察していた。視線の動き、声のトーン、指先の微かな震え……。  
誰もが何かを隠しているか、あるいは、会社の方針に従って当たり障りのない回答をしているように見えた。
 嵐は、この冷たい組織の壁の向こうに、複雑な人間関係の歪みが存在することを直感していた。

 その後、御門法律事務所に戻った嵐は、自身の情報収集ネットワークを駆使して亮の口座に振り込まれた大金の追跡を開始していた。
 モニターには、暗号資産の複雑なトランザクション履歴が表示されている。

「…ちっ、面倒な真似をしやがる」
嵐は舌打ちした。

 送金元は、まず海外の匿名性の高い取引所でビットコインに交換され、その後、「ミキシングサービス」と呼ばれる追跡を困難にするためのサービスを複数回経由。
 さらにいくつかのダミー会社のウォレットを経由して、最終的に亮の口座に日本円で振り込まれていた。
 それぞれの段階でIPアドレスは偽装され、痕跡は断片化されている。

「金の流れを追うだけでこれだ。 
 完全にプロの資金洗浄の手口だな。 裏社会の人間が関わっている可能性も高い」
嵐は、この金の動き自体が事件の裏に存在する大きな闇を示唆していると感じていた。

 その夜、英里香は嵐と巧からそれぞれ報告を受けた。

『資金の出所は、現状では追跡不可能に近い。
 相当な組織か、あるいは国家レベルの関与も疑われる手口だ』と嵐。

『データ送信のログは、ほぼ間違いなく偽装されたものだ。
 犯人は高度な技術を持ち、内部事情にも精通している。
さらに、亮本人のプログラミングの癖まで模倣しようとした痕跡がある。
 これは、彼を陥れるという強い意志を感じる』と巧。

 デジタルな証拠、社内の複雑な人間関係、そして追跡不能な金の流れ…。
 事件は、英里香が当初想定していた以上に、深く、そして複雑な様相を呈し始めていた。

 サイバー空間に仕掛けられた幻影のような罠。
 その中心で、一人の天才プログラマーが囚われている。

「全てが、彼を犯人だと指し示しているようで、その実、何もかもが不自然だわ…」
英里香は、窓の外に広がる煌びやかな夜景を見つめながら、気を引き締めた。

 このデジタルの迷宮を踏破するには、相当な覚悟と、チームの総力が不可欠になるだろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

処理中です...