私立ときめき高校・制服防衛戦線!

月影 流詩亜

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​第1話 憧れの制服と、ヤバい奴らの襲来

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この作品はフィクションです。 
─ 実際の人物・団体・事件・地名・他の創作ドラマには一切関係ありません ── 

◇◇◇◇◇


​「うん、今日も完璧!」

​ 姿見の前でくるりとターンを決め、卯月弥生うづき やよいは満足げに微笑んだ。

 ふわりと広がるのは、上品なグレーとネイビーを基調としたチェック柄のプリーツスカート。その上に羽織った深い濃紺のブレザーは、仕立ての良さが素人目にもわかるほどシルエットが美しい。

 胸元には、誇り高き「私立ときめき高校」の証である、金糸で緻密に刺繍されたエンブレムがキラリと輝いている。
 そして何より弥生のお気に入りは、襟元を彩るシックなエンジ色のリボンだ。派手すぎず、かといって地味でもない絶妙なカラーリングが、顔周りをパッと華やかに見せてくれる。

​ これぞ、王道にして至高。

 可愛いとカッコいいを両立させた、究極の制服である。

​「この制服を着るために、血を吐くような受験勉強を乗り越えたんだもんね……!」

​ 弥生はどこにでもいる、成績も容姿もごくごく普通の女子高生だ。だからこそ、着るだけで自分を「ちょっと特別な存在」に引き上げてくれるこの制服を、心から愛していた。

 ピカピカに磨いたローファーに足を通し、弥生は意気揚々と家を飛び出した。今日もまた、この素敵な制服と一緒に、キラキラした平穏なスクールライフが始まる……はずだった。

​ しかし……校門をくぐり、中庭へ足を踏み入れた瞬間、弥生の鼓膜を鼓膜をつんざくような爆音が襲った。

​『あー、あー! テステス! そこの無自覚に搾取されている哀れな生徒の皆さん! 目を覚ましなさい!!』

​「……へ?」

​ 見れば、中庭の中心にビールケースで作られた即席の演台が置かれている。
 その上に仁王立ちし、赤いトラメガ(拡声器)を握りしめて青筋を立てているのは、市役所幹部の娘である岸場晃子きしば あきこだった。

​『制服という名の強制ギブス! 
生徒の親の財布から、なけなしの血税……いや、お小遣いをチューチュー吸い取る悪魔の制服利権! 私はこの学校にはびこる既得権益を、徹底的にぶっ壊ぁぁぁす!!』

​ 朝の爽やかな空気を切り裂く、怒涛のマイクパフォーマンス。なぜか無駄に拳を突き上げている。

 ドン引きして立ち尽くす弥生の横から、今度はヒステリックな甲高い声が飛んできた。

​「ちょっと! そこのあなた! ボーッと突っ立ってないで、この深刻な人権侵害について考えなさいよ!」

​ ビクッと肩を揺らした弥生の前に現れたのは、国会議員の娘、西口宏子にしぐち ひろこだ。
 彼女は、謎の極彩色で彩られた巨大なプラカードを弥生の顔面に突きつけてきた。そこには『脱ガラパゴス! サステナブルなノー・ユニフォーム宣言!』と、呪文のような横文字が躍っている。

​「そもそも制服なんて、個人のアイデンティティを抑圧するアンコンシャス・バイアスの塊じゃない! 
 こんなジェンダーロールを押し付ける古いシステムにしがみついてるなんて、リテラシーが低すぎるわ! もっとグローバルスタンダードなダイバーシティ多様性をインクルージョンしなさいよ!」

​「えっと……あの……、ごめんなさい、日本語でお願いできますか……?」

​「キィィ! だからこの学校の生徒は遅れてるのよ!!」

​ 理解不能なカタカナ語の連射に弥生が後ずさりすると、ふと、その後ろから呆れたようなため息が聞こえた。

​「いや、宏子ちゃんも晃子ちゃんも、アプローチがエモーショナルすぎでしょ。もっとロジカルにいかないと」

​ 最新型のスマートフォンを片手に、やれやれと首を振って現れたのは、IT長者の息子である江堀鷹えほり たかだ。

 彼は前髪を鬱陶うっとうしそうに払いながら、画面から目を離さずに早口でまくしたてた。

​「そもそもさぁ、制服とかイノベーションの欠片もないし、シンプルにコスパ悪すぎなんだよね。毎日同じ服着るとか、いつの時代のアップデートだよって話。
 僕がいま親の会社のエンジニアに作らせてる『高校生向け・私服サブスクリプションアプリ』を導入すれば、毎日のコーデをAIが最適化してドロップしてくれるわけ。
 これからは個人の裁量と合理性の時代っスよ。
制服に思考リソース割いてる奴とか、控えめに言って情弱の極みだから」

​ トラメガで絶叫するポピュリスト、岸場。

 横文字とポリコレ棒で殴りかかってくるヒステリック・マシーン、西口。

 常に上から目線で合理性を説く、意識高い系ITボーイ、江堀。

​(な、何この地獄みたいな空間……!)

​ 親の権力と財力をバックにつけた厄介なマイノリティ三人組が、次期生徒会選挙に向けて「制服廃止(私服化)」の過激なデモを始めたのだ。

 事なかれ主義の教師たちは、彼らの親からのクレームを恐れて遠巻きに眺めているだけで、完全に見て見ぬ振りを決め込んでいる。

​「嘘でしょ……? 私の、私服(※訂正:至福)の制服ライフが、こんなヤバい奴らに壊されちゃうの……!?」

​ 大好きな制服の胸元をギュッと握りしめながら、弥生は絶望的な学園生活の幕開けに震えるのだった。


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