私立ときめき高校・制服防衛戦線!

月影 流詩亜

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​第2話 カオスな生徒会選挙戦、開幕

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 次期生徒会執行部を決める選挙戦が、いよいよ幕を開けた。

 平穏だった私立ときめき高校は今、かつてないほどのカオスな渦に飲み込まれている。

​「ねえ、先生! あの人たちの選挙活動、絶対におかしいですよ! 選挙違反っていうか、そもそも校則違反じゃないですか!?」

​ 職員室で、弥生は担任の教師に食ってかかった。
 しかし、事なかれ主義の担任は、ハンカチで滝のような冷や汗を拭いながら、完全に目を泳がせている。

​「そ、そうは言ってもな、卯月……。
 江堀くんのお父様のIT企業からは学校に大量のタブレット端末が寄付されているし、西口さんのご実家は教育委員会のドンと繋がっている大物議員だ。
 岸場さんの親御さんも、学校の助成金を握る市の幹部で……その、多様性を尊重する現代において、彼らの『新しい波』を頭ごなしに否定するのは、教育的配慮に欠けるというか……」

​(要するに、親の権力と財力にビビって完全に日和ってるだけじゃない!)

​ 大人の汚い事情を前に、弥生は絶望した。

 学校側が黙認した結果、制服廃止派である「私服特権階級」3人の選挙活動は、まさに無法地帯と化していた。

​ キィィィン!

​ お昼休み。校内放送のスピーカーから、鼓膜を破らんばかりのハウリング音が鳴り響く。放送室を占拠した岸場晃子の演説だ。

​『全校生徒の皆さん! 目を覚ましてください! 制服業者は、生徒から搾取した金で裏金を作っている悪の秘密結社です!
  私が生徒会長になった暁には、制服代という名の闇の利権を完全に解体し、浮いたお金で全生徒に毎月一万円のベーシックインカムを支給します!!』

​(……それ、ただの買収と陰謀論じゃないの!?)

​ 弥生がお弁当の卵焼きを落としそうになったその時、廊下からチャリンチャリンと電子音が聞こえてきた。
 見れば、江堀鷹が最新型のタブレットを掲げ、取り巻きの生徒たちにドヤ顔で語っている。

​「いやー、現金配るとか岸場マジで昭和脳だよね。みんな、俺のマニフェストに『いいね』して投票予約してくれたら、今すぐ俺の親の取引所から仮想通貨『エホリコイン』をエアドロップ(無償配布)するから。
 これで表参道行って、最新のハイブランドの私服買ってきなよ。制服みたいな思考停止の量産型スキン、さっさとアンインストールしようぜ?」

​(買収の手段がデジタルになっただけで、やってること一緒じゃん!!)

​ さらに最悪なのは、曲がり角の先から聞こえてきたヒステリックな声だった。

​「ちょっとあなた! その胸元のリボン、どういうつもり!?」

​「えっ……ただの制服のリボンですけど……」

​ ドンッ!

 西口宏子が、通りすがりの気弱な一年生を壁際まで追い詰め、強烈な『壁ドン』を決めていた。

 ときめき要素ゼロ、純度100%の物理的な圧力である。

​「女の子だから赤いリボン? 
 そういう無意識のジェンダーバイアスが、社会の分断を生んでるのよ! 
 マイクロアグレッションよ!
  制服という名の抑圧装置から自分をアンバウンド解放して、もっとサスティナブルでオーガニックな私服を着なさい!
  はい、これ私の政策パンフレット! ちゃんと読んでリテラシー高めてね!!」

​「ひっ、ひぃぃ……はいぃぃ!」

​ 泣きそうになりながらパンフレットを受け取る一年生を見て、弥生の堪忍袋の緒が、ついにブチッと音を立てて切れた。

​(あんなの、絶対におかしい!)

​ 自由だ、多様性だ、合理性だと立派な言葉を並べながら、彼らがやっていることは「自分勝手な価値観の押し付け」と「お金による暴力」でしかない。

​ 弥生は、自分の胸元に視線を落とした。

 シックで上品なエンジ色のリボン。シワひとつない真っ白なブラウス。そして、金糸のエンブレムが誇らしげに輝く、美しいネイビーのブレザー。

 どんなにお金持ちでも、そうじゃなくても、この制服を着ればみんな「同じ高校の仲間」になれる。毎朝鏡の前で、自分に少しだけ自信をくれる、大切な魔法の服。

​「……こんなヤバい奴らに、私の大好きな制服を奪われてたまるか……!」

​ 弥生は勢いよく立ち上がった。

 資金力ゼロ。権力ゼロ。知名度ゼロ。

 あるのは、この「ときめき高校の制服」への海よりも深い愛だけ。

​「こうなったら、私が立候補してヤツらを止めるしかない!」

​ 平凡な女子高生・卯月弥生が、「制服防衛戦線」の旗を掲げ、たった一人で巨大な権力に立ち向かうことを決意した瞬間だった。


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