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第3話 制服はダサい? 弥生の気づき
しおりを挟む 勢いだけで生徒会選挙に立候補したものの、現実はあまりにも非情だった。
「はぁ……全然勝負にならないよ……」
放課後の廊下、弥生は自分が画用紙にマジックで手書きした手作り感満載の『制服を守ろう!』ポスターを見上げて深いため息をついた。
そのすぐ隣には、プロのデザイナーに発注したであろう、江堀、西口、岸場たちの光沢付きの巨大なフルカラーポスターがこれ見よがしに貼られている。
資金力、知名度、そして何より「声のデカさ」において、弥生は圧倒的な劣勢に立たされていた。
彼らからの風当たりも容赦がない。
江堀からはSNSの全校生徒裏アカウントで「未だに制服維持とか言ってる情弱が立候補してて草。思考停止の極みw」と晒し上げられた。
西口とは廊下ですれ違うたびに「あら、多様性を弾圧するレイシストさん。あなたのそのピアプレッシャーがマイノリティを傷つけてるって気づかないの?」と冷たい視線でマウントを取られ、岸場に至っては拡声器越しに「あそこにいる卯月弥生は、制服利権の甘い汁を吸う既得権益の犬です!!」と、もはや名誉毀損レベルの演説をぶつけられる始末。
「私、ただこの可愛い制服を着て、普通に高校生活を送りたいだけなのに……」
さすがの弥生も心が折れかけ、逃げ込むように女子トイレの個室に入り、便座に座り込んでうなだれた。
その時だ。ガラガラとドアが開く音がして、手洗い場に何人かの女子生徒が入ってくる気配がした。
「ねえ、生徒会選挙どうする? やっぱり江堀くんたちに入れる?」
「うーん……でもさ、ぶっちゃけ私服化とか超困らない?」
弥生はハッとして、息を潜めた。声の主は、弥生と同じくごく普通の、目立たない生徒たちだった。
「わかる! 江堀くんたちは『個人の自由』とか言ってるけど、毎日違う服を着ていくなんて絶対ムリ! お小遣い足りないよ」
「だよね。江堀くんみたいに毎日違うハイブランドなんて買えないし、西口さんの言う『オーガニックヘンプの手編み服』なんて一着ウン万円もするらしいよ? 絶対浮くじゃん」
「絶対に『あいつの今日の服ダサい』とか、『また同じ服着てる』とか裏でマウント取られるよね……。私、私服になったら服選ぶのがストレスで、学校行きたくなくなるかも……」
「そうそう。制服ってラクでいいのに。可愛く着こなせるしさ」
手洗い場から聞こえてきたのは、切実な『サイレント・マジョリティ(声なき多数派)』の本音だった。
足音が遠ざかり、トイレが静寂に包まれた後、弥生はゆっくりと個室から出た。
洗面台の大きな鏡の前に立つ。
そこに映るのは、上品な深いネイビーのブレザーに、金糸のエンブレム。顔周りを明るく見せるエンジ色のリボンと、シワひとつない白のブラウス。
「……そっか。そういうことだったんだ」
弥生の中で、点と点が繋がった。
江堀や西口が声高に叫ぶ『自由』や『多様性』。一見すると正しそうなその言葉の裏にあるのは、単なる『持てる者(お金持ち)が、持たざる者にマウントを取るための暴力』だったのだ。
それに比べて、制服はどうだろうか。
親の職業や収入に関係なく、着るだけで全員を平等な「ときめき高校の生徒」にしてくれる。
高い私服を買えない引け目も、毎朝鏡の前で「今日何を着よう」と悩む時間も、すべてこの美しいデザインの布地が包み込んで守ってくれる。
ただの可愛い服じゃない。これは、家庭の経済格差を見えなくし、理不尽なファッション・マウントから普通の生徒たちを守る『最強の防具(アーマー)』なのだ!
「しかも、毎朝思考停止で着るだけでバッチリ決まるんだから、江堀くんの大好きな『究極のタイムパフォーマンス服』じゃないの!」
鏡の中の自分に向かって、弥生はニヤリと笑った。
もう迷いはない。彼らの理屈の穴は完全に見えた。一般生徒たちは、誰も私服化なんて望んでいない。ただ、彼らの声のデカさと横文字の同調圧力にビビって黙っているだけだ。
「私が、みんなの声を代弁する。この最高に可愛くてカッコいい制服と、みんなの平穏な日常は、絶対に私が守ってみせる!」
シワひとつないプリーツスカートを翻し、弥生はトイレを後にした。
瞳には、確かな勝機と闘志が燃え上がっていた。
いよいよ明日は、全校生徒が集まる立会演説会。大逆転の舞台が、そこにある。
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