俺が信長で、幼馴染が吉乃と濃姫!? ~転生幼馴染トリオ、本能寺フラグ回避して戦国スローライフ目指します

月影 流詩亜

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第五章: 桶狭間 ~奇跡を起こすのは誰だ?~

第22話 奇跡への助走、太陽と月の情報戦

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 今川軍接近の報せが届いてから、那古野城の時間は、まるでよどんだ水のように重く、ゆっくりと流れていた。

 家臣たちは、来るべき滅亡を前に、ただ右往左往するばかり。そんな絶望的な空気の中、俺はといえば、自室に籠もり、昼夜を問わず幸若舞こうわかまい「敦盛」の稽古に明け暮れていた。

「……人間五十年、下天げてんの内をくらぶれば、夢幻の如くなり……」

 俺が虚ろな目で舞い続ける姿は、すぐに城中の知るところとなった。

「殿は、あまりの恐怖に、ついに気でも狂われたか……」

「もはや、織田家もおしまいじゃ……」

 家臣たちの絶望は、頂点に達していた。今川方に通じる間者も、おそらくは「信長、現実逃避し狂乱」とでも報告したことだろう。

 それでいい。俺のうつけは、敵を欺くための、最大の罠なのだから。
 俺が、うつけの舞で敵味方の目を欺いている、その裏で俺たちの、本当の戦いは始まっていた。

「……よし、これでよし、と」

 鏡に映る自分の姿を見て、空は満足げに頷いた。
 そこにいたのは、信長の側室・吉乃の面影すらない、日焼けした快活な町娘だった。海の知恵を借り、古い着物を汚し、顔には薄く煤すすを塗りたくっている。

「空、本当に大丈夫なの? 危ないよ……」

 俺が心配そうに言うと、空は「だいじょーぶ!」と、拳を握って見せた。

「大ちゃんが、訳の分からない記憶を頼りに頑張ってるんだもん。わたしだって、じっとしてられないよ!」

 彼女は、信頼できる侍女のお花の手引きで、夜陰に乗じて城を抜け出した。
 向かった先は、今川軍の侵攻から逃れてきた人々が集まる、城下の避難場所だった。
 空は、そこで持ち前の太陽のような明るさを全開にした。

「おっちゃん、大変だったね! これ、お食べよ!」

 持参した握り飯を配り、子供たちの頭を撫で、老人たちの話に熱心に耳を傾ける。その屈託のない笑顔と優しさは、絶望に沈んでいた人々の心を、少しずつ解きほぐしていった。
 そして、彼女は、何気ない世間話の中から、ダイヤモンドの原石のような情報を、一つ、また一つと拾い集めていく。

「今川の兵隊さんたち、もう勝ったも同然だって、昼間からお酒飲んでるって話だよ」

「お殿様(義元)は、そりゃあ立派な金の輿に乗って、戦なんて他人事みたいなんだとさ」

「ああ、田楽狭間って谷のあたりかい? あの辺りは、一度大雨が降ると、道がぬかるんで馬も進めなくなる、難儀な場所でな……」

 一つ一つは、ただの噂話や農夫のぼやき。

 だが、それらは、俺たちの運命を左右する、あまりにも重要な情報だった。

 一方、城の奥深く。海の部屋は、さながら織田軍の作戦司令室と化していた。
 床一面に広げられた尾張の古地図。壁際に山と積まれた、過去の合戦に関する書物。そして、揺らめく蝋燭ろうそくの灯りが、地図上の特定の地点を、怪しく照らし出している。
そこは、「田楽狭間」と呼ばれる、狭くて窮屈きゅうくつな谷だった。

「……来たわね」

 深夜、泥だらけの姿で戻ってきた空から報告を受け取ると、海は静かに頷いた。
 空が持ち帰った、人々から直接聞き出した生の情報を、海は自らが持つ知識と、現代で得た論理的思考で、濾過し、分析し、再構築していく。

「空の情報通り、敵本陣がこの田楽狭間に置かれる可能性は極めて高い。この地形、大軍が油断して布陣すれば、格好の的です」

 海は、地図上の谷を、細い指でなぞった。

「そして、大地の記憶にある『雨』。この時期の尾張は、梅雨。南からの湿った空気が山にぶつかり、局地的な豪雨、いわゆるゲリラ豪雨を発生させやすい。……奇襲の条件は、整いつつあります」

 報告を終え、空は疲労からその場にへたり込んだ。

「あー、お腹すいたー……。もう、くたくただよー」

 その、泥に汚れた頬を見て、俺は思わず、自分の懐から高価な絹の袖を取り出し、彼女の顔を拭ってやろうと手を伸ばした。

「……!」

 不意に顔が近づき、空が驚いたように息を呑む。俺も、彼女の大きな瞳を間近に見て、心臓がトクンと跳ねた……気まずい沈黙。

 その時、俺たちの間に、すっと白い手が差し出された。
 濡れた手ぬぐいを持った、海の手だった。

「……殿の御召し物を、汚してはなりませぬ」

 海は、表情一つ変えずにそう言った。その声は平坦だったが、なぜか俺には、ほんの少しだけ棘があるように聞こえた。

「むー……」

 空は少しだけ頬を膨らませたが、大人しくその手ぬぐいを受け取った。

 張り詰めた空気の中の、ほんの束の間の、奇妙な三角関係。

 だが、俺たちはすぐに、目の前の現実へと引き戻された。
 海が、地図の一点を、強い意志を込めて指し示す。

「問題は、タイミングです。その『雨』が、いつ、どれだけの規模で降るのか。それを見極めなければ、我々に勝機はありません」

 奇跡への助走は、ほぼ終わった。

 あとは、天が、俺たちに微笑むかどうか。
俺たちは、言葉なく、互いの顔を見合わせた。

 三人の心臓の鼓動だけが、やけに大きく部屋に響いていた。
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