俺が信長で、幼馴染が吉乃と濃姫!? ~転生幼馴染トリオ、本能寺フラグ回避して戦国スローライフ目指します

月影 流詩亜

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第五章: 桶狭間 ~奇跡を起こすのは誰だ?~

第21話 迫る脅威、海道一の弓取り

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 稲生の戦いを経て、俺は名実ともに尾張の国主となった。
 弟・信行との争いは悲しい記憶として残りつつも、織田家は一つの大きな試練を乗り越え、かつてないほど強固にまとまっていた。

 束の間の平和が、尾張の地に訪れた。

 俺は、この機会を逃すまいと夢見た「スローライフ計画」の第一歩を踏み出していた。
 まず、城下の一角で「楽市楽座」の原型となるような、誰でも自由に商売ができる区域を設けた。
 身分に関係なく、活気ある人の流れが富を生む。
 現代では当たり前のその感覚を、この時代に持ち込みたかったのだ。

 また以前の失敗を教訓に、丹羽長秀ら実務官僚とひざを突き合わせて、農地の改良や治水事業にも着手した。
 うつけの戯言と一蹴されたかつてとは違い、家臣たちは俺の言葉に真剣に耳を傾けるようになっていた。

 そんなある日の昼下がり。

 俺は、「民の暮らしを知るのも、国主の務めである!」などと、もっともらしい理由をつけ、空と海をお供に、お忍びで城下町へと繰り出した。

「わー! 大ちゃん、見て!
 あの串団子、すっごく美味しそう!」

「こら、空! はしゃぎすぎよ! 大ちゃ……殿、恐れながら、あちらの呉服屋、中々の品揃えかと。美濃の染め物との違いを見ておくのも……」

町娘の格好に着替えた空と海は、まるで現代でショッピングモールにでも来たかのように、俺の左右の腕をそれぞれ引っ張る。
空は、見るもの全てに目を輝かせ、子供のようにはしゃいでいる。
一方の海は、冷静に店先の品物の値段や、行き交う人々の表情を観察し、町の景気を分析しているようだった。

「はい、大ちゃん、あーん!」

「だから、自分で食えるって!」

串団子を頬張りながら、俺は苦笑した。
側室 吉乃きつの(空)と正室 帰蝶きちょう(海)を連れて城下町を散策する国主。
 傍から見れば奇妙な光景だろうが、俺にとっては、これ以上なく自然で心地よい時間だった。

 この何でもない日常。

 これを守るためなら、俺はなんだってできる。
 そんな想いを、改めて強くした。

 だが、そんな穏やかな時間は、一本の矢文によって、いとも容易く引き裂かれた。

 城へ戻った俺たちを待っていたのは、血相を変えた家臣と駿河からの凶報だった。

「申し上げます!  駿河の太守、今川治部大輔義元いまがわ じぶのたいふ よしもと! 二万五千とも噂される大軍を率い、我が尾張へ侵攻を開始したとの由!」

今川義元……駿河、遠江、三河の三国を治める、当代きっての大大名。
「海道一の弓取り」と称される、その武名と勢威は日本中に轟いている。

その義元が尾張に、二万五千……。

 その数字を聞いた瞬間、広間の空気が凍りついた。
 我が織田家が、尾張一国から動員できる兵力は、かき集めても五千に満たない。

 五倍……いや、それ以上の差だ。

 家臣たちの顔から、血の気が引いていく。
 先の戦いで忠誠を誓った柴田勝家ですら、「もはや、これまでか……」と、青い顔で呻いている。

 降伏か、籠城か……誰もが、絶望的な未来しか描けずにいた。
 直後に開かれた軍議は、阿鼻叫喚の様相を呈した。

「戦うなど、狂気の沙汰! 
速やかに降伏し、お家を存続させるべきにございます!」

「いや、清洲城に籠もり、徹底抗戦を! 
援軍の望みは薄いでしょうが……」

 悲観的な意見が飛び交う中、俺は静かに口を開いた。

「打って出る ! 」

 その一言に、広間は水を打ったように静まり返る。
俺は、家臣たちの顔を一人一人見回し続けた。

「敵の本隊を、奇襲で叩く ! 」

「「な……っ!? 」」

「殿は、うつけがぶり返されたか!」

「二万五千の敵に、奇襲などと……正気とは思えませぬ! 」

家臣たちは俺の言葉を狂人の戯言と断じ、猛然と反発した。

 無理もない。

 彼らにとっては、自殺行為にしか聞こえないだろう。
 だが、俺には、これしか道がないのだ。

俺の脳裏には、緑野大地として現代で見た歴史ドラマのワンシーンが焼き付いている。

 桶狭間。

 降りしきる雨。

 油断した今川本陣に山を迂回して襲いかかる、若き織田信長。

 そして、劇的な奇跡の逆転勝利。

 その記憶だけが、俺の唯一の希望だった。

 だが、その記憶は、あまりにも曖昧で断片的だ。

「雨」と「奇襲」……それ以外の、具体的な場所も、タイミングも、方法も分からない。

 こんな、テレビ番組のうろ覚えの知識に、この国の、そして俺たち三人の運命を賭けるのか?

 正気じゃない。自分でもそう思う。

 軍議は、物別れに終わった。
 その夜、俺は一人、広げた尾張の地図を睨みつけ、苦悩していた。
 そこへ、静かに空と海が入ってきた。

「大ちゃん……本当に、勝てるの……?」
空が、不安そうな声で尋ねる。

「殿。その奇襲とやらに、何か確かな勝算がおありなのですか?」
海が冷静に、しかし真剣な眼差しで問いかけてくる。


 俺は、二人から目を逸らすことなく、正直に打ち明けた。

「……分からん」

「えっ……」

「俺が頼りにしてるのは、ただの、うろ覚えの記憶だ。 俺が昔……ここにくる前に、見た物語の記憶。 
 雨が降って、奇襲が成功した……それだけだ。馬鹿げてるだろ。 俺も、そう思う。
 だが……これしか、道はねえんだよ」

 俺の覚悟に満ちた、しかし、どこか頼りない告白。

 二人は、一瞬、目を見開いた。

 だが、次の瞬間。彼女たちの反応は、俺の予想とは全く違っていた。

「……そっか。分かった!」
空が、にぱっと笑った。

「よく分からないけど、大ちゃんがそれに賭けるって言うなら、わたしも賭ける! 
 大ちゃんのその記憶ってやつが、本物になるように、わたし、何でもするよ!」

そして、海もまた、静かに、しかし力強く頷いた。

「……よろしいでしょう。 その、曖昧な記憶とやらを、わたくしたちで、確かな勝機へと変えてみせます。 殿、ご命令を」

 絶望的な状況。 誰一人、味方がいないと思っていた軍議の後。
 ここに、俺を信じてくれる人間が、二人もいた。
それだけで、俺の心に、再び闘志の火が灯った。

「……ああ、頼む」

 俺たち三人の奇跡を起こすための戦いが、静かに幕を開けた。

 目指すは、桶狭間。

 海道一の弓取りの首を獲るために。

 そして、俺たちの未来を、この手で掴み取るために。

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