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第八章:演じられた魔王黄金の檻 ~天下という名の牢獄~
第40話 安土城築城 ~夢のマイホームは要塞兼リゾート !?~
しおりを挟む 長篠の戦いで武田騎馬軍団を粉砕してから一年。
俺、織田信長の覇権は揺るぎないものとなっていた。
領土は拡大し、朝廷からの官位も上がり、もはや天下人で在ることを疑う者はいない。
だが、俺の心は晴れるどころか、ますます重く沈んでいた。
仕事が増えた。敵も増えた、主に一向一揆や、毛利、上杉等など……
そして何より、「魔王」としての仮面を被り続けることに、俺の精神が悲鳴を上げ始めていた。
「……引っ越そう」
岐阜城の執務室で、俺はボソリと呟いた。
「ここは狭いし、山城だから登り降りがしんどい。
もっとこう、平地に近くて、交通の便が良くて、快適な家に住みたい」
俺の逃避めいた願望。
だが、それを聞いた二人の女神&敏腕参謀は、いつもの如く、俺の世迷い言を超解釈して実現へと動き出した。
「いいですね、殿。天下布武の総仕上げとして、新たな『権威の象徴』を築く。
京に近く、北陸・東国への睨みが効き、琵琶湖の水運を掌握できる場所……安土山こそが最適かと」
海が即座に地図を広げ、候補地を指差す。
「私も賛成! 大ちゃん、どうせなら『夢のマイホーム』建てちゃおうよ!
日当たりが良くて、お風呂が広くて、みんなでバーベキューできるような庭があるお城!」
空が目を輝かせて提案する。
こうして、天正四年(1576年)
俺たち三人の欲望と理想、そして逃避願望を詰め込んだ、戦国史上最大にして最強の夢のマイホーム建設プロジェクトが始動した……その名も、安土城。
◇
建設総奉行には、丹羽長秀を据えた。
彼は真面目で仕事が早いが、現場の無茶振りを形にするには、もう一人、柔軟な発想を持つ男が必要だった。
「へへぇ! この普請、某にお任せあれ!」
木下藤吉郎改め、羽柴秀吉。
彼は墨俣の一夜城で見せた建築の才と、人たらしの能力をフル活用し、全国から優秀な職人をかき集めてきた。
俺たちの要求は、当時の常識を遥かに超えていた。
「まず、天守閣だ。ただの物見櫓じゃつまらない。
人が住めるように、そして、俺たち家族がリラックスできるようにする」
俺の要望に対し、海は軍事的な視点から補強する。
「防御力は妥協しません。石垣は高く、登ることを諦めさせる反り返りを。
通路は複雑怪奇な迷路とし、攻め手が一網打尽になるキルゾーンを無数に設けます」
そして、空は生活空間としての快適さを追求した。
「窓! 窓が小さいと暗いから、大きくしようよ! 南蛮渡来のガラスとか使えないかな?
あと、真ん中は吹き抜けにして、一階から上まで声が届くようにしたいな。
そしたら、『ごはんだよー!』って呼んだらすぐ分かるでしょ?」
アトリウム構造を持つ高層建築。
総石垣作りの要塞。
そして、金碧極彩色の装飾。
それは、もはや城ではない。
軍事要塞の皮を被った、超高級リゾートホテルだ。
◇
工事は三年の月日を費やし、天正七年(1579年)、ついに安土城は完成した。
琵琶湖の湖畔にそびえ立つ、五層七階の巨城。
最上階は黄金に輝き、陽の光を受けて湖面よりも眩しく煌めいている。
「……すげえ。マジで建っちまった」
完成した安土城を見上げ、俺は口をあんぐりと開けた。
秀吉が、誇らしげに鼻をこする。
「どうでごぜえますか、上様! 瓦の一枚に至るまで、こだわり抜きましたぞ!
これぞ、天下一の城! 魔王様の居城に相応しい威容でごぜえます!」
俺たちは、早速「内覧会」と称して安土城へと足を踏み入れた。
一歩入ると、そこは別世界だった。
中央には、空の提案通り、巨大な吹き抜け空間が広がっている。
本来なら仏塔を入れるための空間らしいが、俺たちにとっては、さながら高級ホテルのロビーだ。
「うわあー! 明るい! 広い!」
空が子供のようにはしゃぎながら、階段を駆け上がっていく。
「狩野永徳先生の襖絵も素敵!
ここにお布団敷いて、みんなで寝たら修学旅行みたいだね!」
海は、窓から眼下を見下ろし、満足げに頷いた。
「視界良好。石垣の配置も完璧です。これなら、万が一敵が侵入しても、ここから熱湯なり油なりを注いで殲滅できます」
「……海ちゃん、発想が物騒だよ」
最上階の「天人の間」
金箔と漆で彩られたその部屋は、釈迦や孔子の絵が描かれ、まさに地上の楽園を模していた。
俺は、テラス(縁側)に出て、手すりに寄りかかった。
眼下には、琵琶湖の青い水面が広がり、城下町には整然とした瓦屋根が連なっている。
京の都も、遠くに霞んで見える。
絶景だった。
天下の全てが、俺の足元にある。
「……最高だ。ここなら、誰にも邪魔されず、ゆっくり暮らせる」
俺は大きく深呼吸をした。
これこそが、俺たちが求めていたスローライフの拠点。
引退後は、ここで空と海と、茶でも飲みながら釣りをして暮らすんだ。
だが……その多幸感は、一瞬にして冷ややかな現実に侵食された。
城下を見下ろした時、そこにいる人々の姿が、豆粒のように小さく見えたのだ。
彼らは、この絢爛豪華な城を見上げ、何を思っているのだろうか?
憧れ?
称賛?
いいや、違う……恐怖だ。
こんな常識外れの巨大な城を建てる男。
神仏をも恐れぬ黄金の魔境を作り上げた男。
彼らは、俺を人間だとは見ていない。「支配者」という概念そのものとして、畏怖しているのだ。
(……高いな)
ふと、風が冷たく感じられた。
物理的な高さだけではない。
俺は、誰も手の届かない、あまりにも高い場所に来てしまった。
ここは「夢のマイホーム」なんかじゃない。
俺という「魔王」を閉じ込め、展示するための、巨大な黄金の檻おりだ。
俺がこの城に籠もれば籠もるほど、世間との距離は開き、俺の孤独は深まっていく。
引退? スローライフ?
こんな城の主が、ただの人間に戻れるわけがない。
「……殿?」
背後から、海の声がした。
振り返ると、空と海が、心配そうな顔で立っていた。
俺の背中から漂う、暗い予感を敏感に感じ取ったのだろう。
「……いや、なんでもない。風が少し冷たいなと思ってな」
俺は無理やり笑顔を作った。
「そうだ、今夜はお祭りにしよう!
全館点灯だ! 城中の提灯や松明に火を灯して、この安土山を光の山にしてやるんだ!」
俺の唐突な提案に、二人はきょとんとしたが、すぐに笑顔で頷いた。
「賛成! 琵琶湖の水面に映ったら、きっと綺麗だよ!」
「では、秀吉に指示を出してまいります。城下の民にも、振る舞い酒を用意させましょう」
◇
その夜、安土城は燃えるような光に包まれた。
天主の窓という窓から光が溢れ、それはまるで地上に降りた巨大な恒星のようだった。
城下の人々は、そのあまりの美しさと神々しさに平伏し手を合わせたという。
だが、光の中にある俺たちは知っていた。
この輝きが強ければ強いほど、足元に広がる闇は、より濃く、深くなることを……
「綺麗だね、大ちゃん」
空が、俺の腕にしがみつく。
「ああ、綺麗だ」
「いつか……」
海が、隣でポツリと呟いた。
「いつか、この城の灯りを、天下人としてではなく、ただの家族として眺められる日が来るといいですね」
その言葉は、願望というよりは、儚い祈りに近かった。
俺は二人を両腕で抱き寄せ、光の洪水の中で、無言で頷いた。
安土城の完成……それは、俺たち「転生幼馴染トリオ」の栄華の頂点であり、同時に終わりの始まりを告げる鐘の音でもあった。
この城が、わずか三年後……主を失い、炎の中に消え去る運命にあることを、俺たちはまだ知らないふりをしていた。
ただ、今この瞬間の眩しさだけを目に焼き付けていた。
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