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第三章:うつけの仮面の下で
第14話 見えない絆が未来を繋ぐ
しおりを挟む【視点は大地です。】
空と海のサポートは、俺の戦国サバイバルにおいて、もはや無くてはならないものになっていた。
空が奥から集めてくる噂話や人間関係の情報、海が持ち前の冷静さで分析してくれる情勢や的確な助言。
そして二人から受ける励まし。うつけの仮面の下で孤独に戦っている(つもりだった)俺にとって、二人の存在はまさに命綱だった。
俺たちの連携は、日を追うごとにスムーズになっていた。 その効果が具体的に現れたのが、叔父である織田信光に関する一件だ。
発端は、空が侍女たちから仕入れた些細な噂だった。
「ねえ大ちゃん、最近城下で評判の薬売りがいるんだけど、妙に信光様の屋敷に出入りしてるって、お花ちゃんが言ってたよ」
深夜の密会で、空がそんな情報を持ち込んできた。
一見すると、ただの世間話だ。だが、海はその情報に眉をひそめた。
「信光様……ですか。あの方は父上(信秀)の弟君でありながら、最近、兄上(信長)である貴方に対して、どこか批判的な言動が見られると楓から聞いています。
それに、美濃の義龍様(海の兄)とも繋がりがあるという未確認情報も……」
海は、わたくしが持つ情報と繋ぎ合わせてみる、と呟いた。
薬売りがスパイ……? まるで時代劇みたいだが、この戦国時代ならあり得る話だ。
俺はうつけの振りをしながら、数日かけて信光の屋敷周辺をうろついてみた。
すると、確かに町人の格好をしているが、どこか目つきの鋭い、怪しげな男が屋敷に出入りしているのを目撃した。
さらに、念のため利家(前田利家)にそれとなく様子を探らせたところ、その薬売りが決まった日時に、決まった場所で誰かと落ち合っているらしいことも分かった。
三人の情報を統合した結果、信光叔父貴が美濃の義龍、あるいは他の敵対勢力と内通し、謀反を企てている可能性が高い、という結論に達した。
まだ確たる証拠はない。
だが、この情報を得られただけでも大きな進歩だ。
俺たちは信光への警戒レベルを引き上げ、引き続き動向を探ることにした。
そして、その数日後。俺は例の薬売りと接触するという人物の正体を突き止めようと、利家と共に夜の城下に紛れ込んでいた。
待ち合わせ場所とされる寂れた祠の近くに身を潜め、息を殺して待つ。
「……来ました」利家が小声で囁く。
闇の中から現れたのは、やはりあの薬売りだった。
そして、少し遅れて祠に姿を見せたのは……信光の腹心とされる家臣の一人だった。間違いない、何かを企んでいる。
俺たちがさらに近づこうとした、その時だった。
背後から、複数の気配が迫ってきたのだ! しまった、見張られていたのか!?
「退け、利家!」
俺たちは咄嗟に身を翻し、暗い路地へと駆け込んだ。
追っ手の足音がすぐ後ろに迫る。まずい、このままでは袋小路だ!
焦りが全身を支配した、その瞬間。
なぜか、脳裏に空と海の顔が同時に浮かんだのだ。そして、言いようのない強い胸騒ぎが全身を襲った。
『危ない!』
『逃げて!』
まるで二人の声が直接聞こえたような、そんな錯覚。
ハッとして進行方向を変え、脇道へと飛び込む。直後、俺たちが走っていた先の路地に、追っ手たちがなだれ込んでいくのが見えた。間一髪だった……!
俺と利家は、その後なんとか追手を撒き、無事に城へと戻ることができた。
翌日の密会で、俺はその時の奇妙な体験を二人に話した。 すると、空と海は顔を見合わせ、驚いたように言ったのだ。
「わたしも! あの時、なんだか分からないけど、すっごく嫌な予感がして、胸がドキドキしたんだ!」
「わたくしもです。言いようのない胸騒ぎがして……咄嗟に、楓に『殿の身に何かあったやもしれぬ、確認せよ』と伝えさせました」
偶然、では片付けられないタイミングだった。
俺が危機に陥った瞬間、遠く離れた場所にいた空と海が、同時にそれを感じ取っていた……?
(これが……双子のシンクロってやつか……?)
現代にいた頃は、そんなオカルトめいた話は信じていなかった。
けれど、この状況で、実際に助けられたとなると、信じざるを得ない。
これは、俺たち三人にとって、とてつもない武器になるかもしれない。
うつけの仮面の下で、俺たちの絆は、ただの幼馴染みという関係を超え、もっと深く、強いものへと変わり始めていた。
互いを補い合う連携と、言葉を超えた繋がり。
これから先、斎藤家の内紛、弟・信行との家督争い、そして桶狭間の戦い……史実通りなら、多くの試練が俺たちを待ち受けているだろう。
それでも、今の俺には確信があった。
空と海、この二人となら、どんな困難だって乗り越えていける。
そして、必ず三人で生き残ってみせると、心の中で呟きながら俺は改めて、隣にいる(であろう)頼もしい共犯者たちの存在を、強く、温かく感じていたのだった。
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