テミスの審判は🐾朝食の香りに混じって

月影 流詩亜

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第4話 女神の鼻は誤魔化せない(テミス視点)

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​「……ふん。やっと、少しは空気が歪んでいることに気づいたかしら」

 ​私は歩の腕の中で、わざとらしく溜息をついてやった。人間にはただの鳴き声にしか聞こえないだろうけれど、今の私の気分は最高に「おかんむり」なのよ。

 ​歩、あんたの鼻は飾りなの?

 この男がこの家の一歩を跨いだ瞬間から、リビングの空気は腐り始めていたわ。

 ​人間には見えないでしょうね。
 この男、麦田の周囲に渦巻いている、真っ黒な「嘘の霧」が。

 彼が口を開くたびに、その霧は粘り気を増して、甘ったるいパンケーキの香りをドブ川のヘドロのような悪臭に塗り替えていくの。

​「歩さんとの将来を、真剣に考えています」

​ はい、嘘。アンタが考えているのは、歩の貯金残高と、この家の権利書がいくらで売れるかってことだけでしょ。その言葉を吐いた瞬間、アンタの口からは、死んだ魚を夏場に放置したような強烈な腐敗臭がしたわよ。

​「この投資は、歩さんのご家族のためなんです」

​ 笑わせないで。その書類、表面は立派なインクの匂いがするけど、裏側からは『絶望した老人たちの涙』の臭いがこびりついてる。あんた、他人の人生を使い捨てのティッシュか何かだと思ってるでしょ?

 ​私はこの男が、テーブルの下で歩の足をこれ見よがしに踏みつけているのを知っている。
 歩が声を上げられないのをいいことに、「余計なことを言うな」と無言の暴力を振るっていた。

 ​その瞬間、男の指先から立ち上ったのは、他者を支配しようとする醜悪な「支配欲の脂臭」。

 ​ああ、もう限界。

 正義の女神「テミス」の名を授かった私が、こんな吐き気のする臭いを朝食の席で我慢し続けるなんて、誇りが許さないわ。

 ​私は歩の腕を蹴って、麦田の足元へ着地した。
いい? 衝撃に備えなさい。

 「波風を立てるのが嫌い」なんて甘っちょろいこと言ってる飼い主のために、私がこの停滞した空気に、特大の波を叩き込んであげるから!

 ​私は狙いを定め、麦田のバッグの底を鋭い爪で一文字に切り裂いた。

 さあ、中身をぶちまけてやるわ !


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