テミスの審判は🐾朝食の香りに混じって

月影 流詩亜

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第5話 暴かれた脂臭い本性(テミス視点)

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​「……あら、思ったよりたくさん詰まっていたわね。アンタの『汚物』が」

 ​私が切り裂いたバッグの底から、バラバラと床にぶちまけられた「真実」の山。

 歩と両親が息を呑む。

 人間たちの鼻には届かないでしょうけど、私にははっきりと見えるわ。
 それらから立ち上る、他人を食い物にしてきた強欲な「カビの臭い」がね。

​ 床に散らばったのは、色もデザインもバラバラな名刺入れが三つ。

 それから、出所不明の領収書の束と、金髪の女と親しげに肩を組んだ麦田の写真。

​「な、なんだこれは……。竜一くん、これはどういうことだね?」

 パパが震える声で問い詰める。

 さあ、麦田。アンタ、次はどんな嘘でこの場を凌ごうとするのかしら?

​「あ……いや、これは。……その、仕事上の付き合いで、無理やり持たされたもので!」

​ はい、また嘘。今の言葉、腐った肉に香水をぶっかけたような、鼻がひん曲がるほど不快な臭いがしたわよ。アンタのその脳みそ、他責思考という名前のヘドロで満杯なんじゃない?

 ​麦田は慌てて床に這いつくばり、写真を隠そうとした。

 でも、私は逃さない。彼の手に鋭い爪を一閃。

​「ぎゃあっ! このクソ猫、殺してやる……!」

 ​ついに、最高に「いい臭い」がしてきたわ。

 完璧なエリートの仮面が剥がれ落ち、そこから漏れ出したのは、むき出しの暴力性と、追い詰められた鼠の異臭。

 麦田は顔を真っ赤にして、私を……いいえ、私を庇おうとした歩を突き飛ばした。

​「歩!」

 パパが叫ぶ。

 歩は尻餅をつき、呆然とした顔で麦田を見上げている。

 波風が立つのが嫌?

  穏やかなのが一番?

 甘いわね、歩。

​ 見て、歩。これがアンタが『一生守られたい』と願った男の正体よ。アンタの足を踏みつけ、アンタの親の退職金をドブに捨て、今、アンタを突き飛ばしたこの塊を、まだ人間だと思っているわけ?

 ​麦田は豹変した。

「ああ、もう面倒くせえ! せっかくカモを見つけたと思ったのに、この化け猫が!」

 ​彼はテーブルを叩き、父が差し出した通帳を掴み取ろうとした。

 懃懃無礼な敬語も、爽やかな笑顔も、どこにもない。
 ただ、自分の失敗を他人のせいにして喚き散らす、救いようのないクズの臭いだけがリビングに充満している。

​ さあ、歩。

 女神の審判は、もうすぐよ。

 最後の「波」を立てるのは、私じゃない。

 アンタ自身なんだから。


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