尾道海岸通り café leaf へようこそ

川本明青

文字の大きさ
44 / 46
3 夏の終わり

15

しおりを挟む
 十月に入った。昼間はまだ少し暑いけれど、空は高く、空気は清々しい。

 大学の前にはバス停があって、授業が終わると学生が群れをなす。街から離れているので、大学の周りの寮に住んでいる人以外は、車かバイクでない限りバスしか交通手段がないのだ。迎えに来たのだろうと思われる車が門の前の広場で待っていることもある。たいていは誰かの彼氏で、近隣の大学の学生なのでたいした車ではない。たまにちょっといい車が停まっていても、親に借りたんだろうなと思われるような国産車だ。

 そんな中、浮いている、という表現がぴったりの白いピカピカの外車が一台、バス停に向かうわたしの目に飛び込んできた。車の知識などないわたしでもわかる、何とかサイダーみたいなマークの高級車だ。当然、ほかの学生たちの視線も注がれている。「なにあれすごい高そうな車なんじゃけど」「誰か待っとんかな」「どんな人が乗っとんじゃろ」さわさわとそんな会話が聞こえてくる。大学の来客であれば駐車場に停めるはずだし、いったい何の用でこんなところに停まっているのだろう。

 スマホの着信音が鳴った。カバンから取り出して確認すると、なんと清風さんからだった。東京に帰ってからは何の音沙汰もなく、わたしのことなんてもう忘れていると思っていたのに。

《もう授業終わったの?》

 久々でこの文言? と思いつつも、終わりました、と返す。

《今どこ?》

 なんで? と思いつつも、大学の前のバス停です、と返す。すると門の前の高級外車のドアが開いて、背の高い、サングラスをした男の人が降りてきた。

 周りの女子学生たちがざわめく。デニムのパンツの上に白っぽいシャツをさらりと着こなしたラフな格好だけれど、そのスタイルの良さでものすごくおしゃれに見える。男の人は誰かを捜すように、バスを待つわたしたち学生の方を見ている。やっぱり誰かを待っているんだ、そう思った時だった。男の人はサングラスを取り、軽く右手を上げて白い歯を見せた。

「咲和!」

 なんとその人は清風さんだった。

 なんで!? どうして!? いきなりの登場に動揺する。そして一気に周りの視線がわたしに集まるのを感じる。ただものではないオーラのびっくりするようなイケメンに名前を呼ばれ、わたしは優越感よりもとんでもない気恥ずかしさに襲われていた。清風さんは目立ちすぎるのだ。

 恥ずかしいけれど隠れるわけにもいかず、わたしはバスを待つ集団を抜けて清風さんのもとへと速足で近寄った。

「久しぶりね」

「久しぶりねじゃないですよ。どうしたんですかいきなり」

 しばらくぶりに見る清風さんは髪が少し短くなって、一層爽やかさが増している。

「また来たのよ。それにしてもあんたの大学すごいとこにあるわね」

 清風さんは周囲をぐるりと見渡した。周りは山だ。そして大学の横には水源地と呼ばれる大きな貯水池がある。同じ尾道でも、海に面した市街地とは別世界だ。

「来る途中、本当にこっちでいいのかしらって不安になっちゃったわよ」

「どうしてわたしの授業が終わる時間がわかったんですか?」

「マスターに聞いたの。水曜日はたしかこのぐらいの時間のバスに乗るって言ってたっていうから来てみたの」

「っていうか、どうしたんですか? この車」

「これ? 車があった方がなにかと便利だから」

 さっきからやけに背中にチクチクと視線を感じる。なんであんな子があんな人と親し気に話をしているんだという好奇でジェラシーめいた視線だ。わたしは早くその場から逃れたかった。

「それで、乗っけてってくれるんですか?」

「もちろんよ。行きましょ」

 そそくさと車に乗り込むと、初めての乗り心地に驚きながら、バスを待つ学生たちが見えなくなるまでわたしは隠れるように顔を伏せていた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...