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3 夏の終わり
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十月に入った。昼間はまだ少し暑いけれど、空は高く、空気は清々しい。
大学の前にはバス停があって、授業が終わると学生が群れをなす。街から離れているので、大学の周りの寮に住んでいる人以外は、車かバイクでない限りバスしか交通手段がないのだ。迎えに来たのだろうと思われる車が門の前の広場で待っていることもある。たいていは誰かの彼氏で、近隣の大学の学生なのでたいした車ではない。たまにちょっといい車が停まっていても、親に借りたんだろうなと思われるような国産車だ。
そんな中、浮いている、という表現がぴったりの白いピカピカの外車が一台、バス停に向かうわたしの目に飛び込んできた。車の知識などないわたしでもわかる、何とかサイダーみたいなマークの高級車だ。当然、ほかの学生たちの視線も注がれている。「なにあれすごい高そうな車なんじゃけど」「誰か待っとんかな」「どんな人が乗っとんじゃろ」さわさわとそんな会話が聞こえてくる。大学の来客であれば駐車場に停めるはずだし、いったい何の用でこんなところに停まっているのだろう。
スマホの着信音が鳴った。カバンから取り出して確認すると、なんと清風さんからだった。東京に帰ってからは何の音沙汰もなく、わたしのことなんてもう忘れていると思っていたのに。
《もう授業終わったの?》
久々でこの文言? と思いつつも、終わりました、と返す。
《今どこ?》
なんで? と思いつつも、大学の前のバス停です、と返す。すると門の前の高級外車のドアが開いて、背の高い、サングラスをした男の人が降りてきた。
周りの女子学生たちがざわめく。デニムのパンツの上に白っぽいシャツをさらりと着こなしたラフな格好だけれど、そのスタイルの良さでものすごくおしゃれに見える。男の人は誰かを捜すように、バスを待つわたしたち学生の方を見ている。やっぱり誰かを待っているんだ、そう思った時だった。男の人はサングラスを取り、軽く右手を上げて白い歯を見せた。
「咲和!」
なんとその人は清風さんだった。
なんで!? どうして!? いきなりの登場に動揺する。そして一気に周りの視線がわたしに集まるのを感じる。ただものではないオーラのびっくりするようなイケメンに名前を呼ばれ、わたしは優越感よりもとんでもない気恥ずかしさに襲われていた。清風さんは目立ちすぎるのだ。
恥ずかしいけれど隠れるわけにもいかず、わたしはバスを待つ集団を抜けて清風さんのもとへと速足で近寄った。
「久しぶりね」
「久しぶりねじゃないですよ。どうしたんですかいきなり」
しばらくぶりに見る清風さんは髪が少し短くなって、一層爽やかさが増している。
「また来たのよ。それにしてもあんたの大学すごいとこにあるわね」
清風さんは周囲をぐるりと見渡した。周りは山だ。そして大学の横には水源地と呼ばれる大きな貯水池がある。同じ尾道でも、海に面した市街地とは別世界だ。
「来る途中、本当にこっちでいいのかしらって不安になっちゃったわよ」
「どうしてわたしの授業が終わる時間がわかったんですか?」
「マスターに聞いたの。水曜日はたしかこのぐらいの時間のバスに乗るって言ってたっていうから来てみたの」
「っていうか、どうしたんですか? この車」
「これ? 車があった方がなにかと便利だから」
さっきからやけに背中にチクチクと視線を感じる。なんであんな子があんな人と親し気に話をしているんだという好奇でジェラシーめいた視線だ。わたしは早くその場から逃れたかった。
「それで、乗っけてってくれるんですか?」
「もちろんよ。行きましょ」
そそくさと車に乗り込むと、初めての乗り心地に驚きながら、バスを待つ学生たちが見えなくなるまでわたしは隠れるように顔を伏せていた。
大学の前にはバス停があって、授業が終わると学生が群れをなす。街から離れているので、大学の周りの寮に住んでいる人以外は、車かバイクでない限りバスしか交通手段がないのだ。迎えに来たのだろうと思われる車が門の前の広場で待っていることもある。たいていは誰かの彼氏で、近隣の大学の学生なのでたいした車ではない。たまにちょっといい車が停まっていても、親に借りたんだろうなと思われるような国産車だ。
そんな中、浮いている、という表現がぴったりの白いピカピカの外車が一台、バス停に向かうわたしの目に飛び込んできた。車の知識などないわたしでもわかる、何とかサイダーみたいなマークの高級車だ。当然、ほかの学生たちの視線も注がれている。「なにあれすごい高そうな車なんじゃけど」「誰か待っとんかな」「どんな人が乗っとんじゃろ」さわさわとそんな会話が聞こえてくる。大学の来客であれば駐車場に停めるはずだし、いったい何の用でこんなところに停まっているのだろう。
スマホの着信音が鳴った。カバンから取り出して確認すると、なんと清風さんからだった。東京に帰ってからは何の音沙汰もなく、わたしのことなんてもう忘れていると思っていたのに。
《もう授業終わったの?》
久々でこの文言? と思いつつも、終わりました、と返す。
《今どこ?》
なんで? と思いつつも、大学の前のバス停です、と返す。すると門の前の高級外車のドアが開いて、背の高い、サングラスをした男の人が降りてきた。
周りの女子学生たちがざわめく。デニムのパンツの上に白っぽいシャツをさらりと着こなしたラフな格好だけれど、そのスタイルの良さでものすごくおしゃれに見える。男の人は誰かを捜すように、バスを待つわたしたち学生の方を見ている。やっぱり誰かを待っているんだ、そう思った時だった。男の人はサングラスを取り、軽く右手を上げて白い歯を見せた。
「咲和!」
なんとその人は清風さんだった。
なんで!? どうして!? いきなりの登場に動揺する。そして一気に周りの視線がわたしに集まるのを感じる。ただものではないオーラのびっくりするようなイケメンに名前を呼ばれ、わたしは優越感よりもとんでもない気恥ずかしさに襲われていた。清風さんは目立ちすぎるのだ。
恥ずかしいけれど隠れるわけにもいかず、わたしはバスを待つ集団を抜けて清風さんのもとへと速足で近寄った。
「久しぶりね」
「久しぶりねじゃないですよ。どうしたんですかいきなり」
しばらくぶりに見る清風さんは髪が少し短くなって、一層爽やかさが増している。
「また来たのよ。それにしてもあんたの大学すごいとこにあるわね」
清風さんは周囲をぐるりと見渡した。周りは山だ。そして大学の横には水源地と呼ばれる大きな貯水池がある。同じ尾道でも、海に面した市街地とは別世界だ。
「来る途中、本当にこっちでいいのかしらって不安になっちゃったわよ」
「どうしてわたしの授業が終わる時間がわかったんですか?」
「マスターに聞いたの。水曜日はたしかこのぐらいの時間のバスに乗るって言ってたっていうから来てみたの」
「っていうか、どうしたんですか? この車」
「これ? 車があった方がなにかと便利だから」
さっきからやけに背中にチクチクと視線を感じる。なんであんな子があんな人と親し気に話をしているんだという好奇でジェラシーめいた視線だ。わたしは早くその場から逃れたかった。
「それで、乗っけてってくれるんですか?」
「もちろんよ。行きましょ」
そそくさと車に乗り込むと、初めての乗り心地に驚きながら、バスを待つ学生たちが見えなくなるまでわたしは隠れるように顔を伏せていた。
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