45 / 46
3 夏の終わり
16
しおりを挟む
「もう突然こういうのやめてくださいよ。びっくりするじゃないですか」
「だって驚かそうと思ったんだもん」
「清風さん目立つから恥ずかしいです。わたしとのバランスが取れてないから何を詮索されるかわからないじゃないですか」
「そうよねえ。あたしとあんたじゃどう見ても不釣り合いよねえ」
「うるさいなあ」
ちゃんと以前のような会話ができてホッとする。けれど同時にちょっとドキドキしてもいた。しばらくの間離れていたから、なんとなく照れてしまうのだ。しかも運転している清風さんを見るのも初めてだし。
リーフの近くの駐車場に車を停めて、歩いて向かう。アルバイトには少し早い時間だけれど、清風さんとゆっくり話ができてちょうどいい。
「お帰り。よかった。咲和ちゃんのバスの時間合ってたんだ?」
マスターが言った。
「いきなり清風君が現れてびっくりしたでしょう?」
奥さんはなんだか楽しそうだ。また清風さんの顔が見られてうれしいのかもしれない。
「周りの人にジロジロ見られちゃって恥ずかしかったです」
「久山田じゃ、清風君はそれは目立つわよねえ」
久山田というのは大学のある場所の地名だ。
「マスターたちの言うとおり山奥でびっくりしちゃった。奥さん、緑茶お願い」
「熱いのでいいのね? そりゃ東京の一等地から来ればびっくりするでしょうよ」
もしかしたら清風さんにはもう会えないんじゃないかと思ったりもしていたので、東京に帰ってから二ヶ月経たずにまた戻って来てくれたことはすごくうれしいのだけれど、でもそれってやっぱりいろいろうまく行かなかったということなのだろうか。お父さんとのこととか、お見合いのこととか、今後の仕事のこととか。
聞きたいことはたくさんある。でも何からどう聞いていいかわからない。それに、リーフが今年いっぱいでなくなることを、清風さんはもう知っているのだろうか。
「今回はどれぐらいられるんですか?」
とりあえず当たり障りのない質問をする。
「決めてないわ。しばらくはいるつもりよ」
しばらくは。しばらくってどのくらいだろう。数日ということはないだろう。車まで用意しているということは、一ヶ月とか二ヶ月とかいるつもりなのかもしれないけれど、何か必要があって二、三日借りているだけかもしれない。
「ねえ清風君、ところであれどうなったの? お見合いの話」
奥さんが、わたしが気になっていたことの一つを聞いてくれた。
「もちろん正式に断ったわよ」
「お父さんはそれで納得したの?」
今度はマスターが聞いた。清風さんは横に首を振る。
「するわけないじゃない。次はどんなことを仕掛けてくるかわからないから気が抜けないわ」
とりあえず、よかった。おネエだから結婚したくないのか、その相手では嫌なのか真相はわからないけれど、清風さんが人のものになってしまわなくてホッとした。
「咲和ちゃん、実は報告があるんだ」
マスターはなんとなく改まった感じで言って、なぜか清風さんと目配せした。急に不安が過る。何を言われるんだろう。今年いっぱいでリーフがなくなることよりも衝撃的なことだったらどうしよう。思わず身構えてしまう。
「だって驚かそうと思ったんだもん」
「清風さん目立つから恥ずかしいです。わたしとのバランスが取れてないから何を詮索されるかわからないじゃないですか」
「そうよねえ。あたしとあんたじゃどう見ても不釣り合いよねえ」
「うるさいなあ」
ちゃんと以前のような会話ができてホッとする。けれど同時にちょっとドキドキしてもいた。しばらくの間離れていたから、なんとなく照れてしまうのだ。しかも運転している清風さんを見るのも初めてだし。
リーフの近くの駐車場に車を停めて、歩いて向かう。アルバイトには少し早い時間だけれど、清風さんとゆっくり話ができてちょうどいい。
「お帰り。よかった。咲和ちゃんのバスの時間合ってたんだ?」
マスターが言った。
「いきなり清風君が現れてびっくりしたでしょう?」
奥さんはなんだか楽しそうだ。また清風さんの顔が見られてうれしいのかもしれない。
「周りの人にジロジロ見られちゃって恥ずかしかったです」
「久山田じゃ、清風君はそれは目立つわよねえ」
久山田というのは大学のある場所の地名だ。
「マスターたちの言うとおり山奥でびっくりしちゃった。奥さん、緑茶お願い」
「熱いのでいいのね? そりゃ東京の一等地から来ればびっくりするでしょうよ」
もしかしたら清風さんにはもう会えないんじゃないかと思ったりもしていたので、東京に帰ってから二ヶ月経たずにまた戻って来てくれたことはすごくうれしいのだけれど、でもそれってやっぱりいろいろうまく行かなかったということなのだろうか。お父さんとのこととか、お見合いのこととか、今後の仕事のこととか。
聞きたいことはたくさんある。でも何からどう聞いていいかわからない。それに、リーフが今年いっぱいでなくなることを、清風さんはもう知っているのだろうか。
「今回はどれぐらいられるんですか?」
とりあえず当たり障りのない質問をする。
「決めてないわ。しばらくはいるつもりよ」
しばらくは。しばらくってどのくらいだろう。数日ということはないだろう。車まで用意しているということは、一ヶ月とか二ヶ月とかいるつもりなのかもしれないけれど、何か必要があって二、三日借りているだけかもしれない。
「ねえ清風君、ところであれどうなったの? お見合いの話」
奥さんが、わたしが気になっていたことの一つを聞いてくれた。
「もちろん正式に断ったわよ」
「お父さんはそれで納得したの?」
今度はマスターが聞いた。清風さんは横に首を振る。
「するわけないじゃない。次はどんなことを仕掛けてくるかわからないから気が抜けないわ」
とりあえず、よかった。おネエだから結婚したくないのか、その相手では嫌なのか真相はわからないけれど、清風さんが人のものになってしまわなくてホッとした。
「咲和ちゃん、実は報告があるんだ」
マスターはなんとなく改まった感じで言って、なぜか清風さんと目配せした。急に不安が過る。何を言われるんだろう。今年いっぱいでリーフがなくなることよりも衝撃的なことだったらどうしよう。思わず身構えてしまう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる