寒空の下、君を買う ~君が死ぬことは俺が許さない~

白浜 海

文字の大きさ
24 / 71

弱点

しおりを挟む
「ねぇ、和哉くん」

「なんだ?」

「明日からテストだよね?」

 そう。みゆの言う通り俺の通う高校では明日から3学期末テストが始まる。俺にとっては学校が早く終わるのでバイトのシフトをたくさん入れられるパラダイスのような1週間なのだ! それに、テストが終わって少ししたら短縮授業になり春休みに突入するのだ!

「それがどうかしたのか?」

「和哉くんってバイトばっかりで勉強してないけど大丈夫なの?」

「いや、現に今勉強してるじゃん?」

 今日は週2日あるバイトの休みの日だったので、学校が終わってからの予定は何も無かったので明日のテストに備えてテスト勉強に勤しんでいた。しかし、みゆと同じテーブルで向き合うような形で勉強しているのでこれっぽちも集中なんて出来ていないのだが.......。

「そうなんだけど.......和哉くんっていつもテストの順位だとどれくらいなの?」

「うーん、だいたい50位くらい?」

 うちの高校は1学年240人ほどなのでテストの順位だけで言えば上の下くらいになる。まぁ、悪くもないし良くもないって感じか?

「.......バイトばっかりなのになんでそんな順位が取れてるの」

「いや、テストなんて課題の答えを覚えとけばある程度の点数は取れるだろ?」

「その課題をしているところをほとんど見てないんだけど? 和哉くん、ほとんどバイトだし」

「そんなの授業中にしているに決まってるだろ?」

「決まってるんだ.......」

 ちなみにみゆは、テスト前ということでここ最近はバイトを休んで家で勉強をしているようだ。それに対して、俺は普段通りにバイトに行っているから気になったのだろう。

「そういうみゆは何位くらいなんだ?」

「10位くらい?」

「まぁ、みゆってずっと本読んでるイメージだし賢そうだもんな」

 ずっと本を読んでいる人が賢そうというのは偏見かもしれないが、現にみゆはバイトも休んで勉強しているみたいだし実際賢いのだろう。

「でも.......このままだと私.......春休みに補講なの.......」

「は?」

 学年で10位のみゆが補講? みゆは毎日学校に来ているから出席日数的に補講といったことも無いだろう。.......意味がわからん。それなら、みゆより順位の低い生徒230人は全員補講になるのか?

「私、数学だけはどうしても理解できなくて.......」

「それでも学年で10位とかならある程度は取れてるだろ?」

「.......取れてない」

「え?」

「取れてないって言ったの。前のテストでも数学は32点だったし.......」

「お、おぉ.......」

 それはなんというか.......率直に言ってひどいな.......。確か前の数学のテストの平均点は68点とかだったはずだから、平均点の半分以下ということでみゆの数学の点数は赤点だったことになる。それでも、学年で10位ってことはほかの教科がそれだけいいって事だよな?

「ちなみに、数学以外は何点くらいなんだ?」

「ほとんど100点?」

「まじかよ.......」

 みゆが言うに国語は中学の頃からテストで100点以外とったことが無いそうだ。英語と理科と社会も凡ミスをするくらいで基本的には満点だそうだ。そりゃ、数学がやばくても10位くらい取れるわ。

「ということで.......数学を教えて欲しい.......」

「教えるって言っても.......基本的に課題の解答に書いてある問題の解き方を丸暗記してるだけだから、詳しくは教えれないぞ?」

「大丈夫。それでもいいから教えて欲しい」

「そういうことなら。ちなみに今回の数学の範囲だと何が分からないんだ?」

「公式の意味が分からない」

「それは俺も分からんわ」

 みゆが言うには今回のテストに限ったことではなく、数学の問題を解くのに必要とされる公式の意味が分からないらしい。公式の使い方が分からないのでは無く、公式の意味が分からないのだ。

 どうしてこういった公式になったのか、なぜこの公式を使うと問題が解けるのか、どうして同じ問題でも公式の使えるパターンとそうでないパターンがあるのかなどを考えてしまって全く理解が出来なくなってしまい結果的に問題も解けなくなってしまうらしい。

「理科なら、どうしてそうなるのか科学的根拠を教科書で示してくれるから理解できるんだけど数学は公式が教科書に書いてあるだけで、その公式については、何も説明が無いから理解できないの」

「それは多分だけど、高校数学のレベルじゃその公式の説明が出来ないからじゃないか?」

「そんな公式をなんで高校生に教えるの?」

「それは教育委員会の人達に聞いてくれ」

「和哉くん.......どうしたらいいと思う?」

 どうしたらって言われても.......みゆは公式の意味を深く考えすぎてしまって結果的に問題が解けなくなってしまうなら理解しないようにすればいいだけなのか?

「何も考えずに公式とその使い方を覚えるだけじゃダメなのか?」

「何も考え無くなったら人はおしまいだよ?」

「いや、そんな哲学みたいな話じゃなくて.......例えば、みゆはシャワーの仕組みを理解しているか?」

「シャワーの仕組み?」

「そう。どうして、レバーを上げるだけで水が出るのか。横の突起を回すだけで水の温度の調整ができるのか」

「知らないけど.......和哉くんは知ってるの?」

 そんなもの知ってる訳ないだろ。むしろ、みゆなら知っててもおかしくない気がして例に出したはいいが内心ドキドキだったくらいだ。

「そんなもん知るわけないだろ。数学の公式もそれと一緒だよ」

「.......どこが?」

「いやだって、仕組みを理解していないのに使い方は分かるだろ?」

「あっ」

「だから、みゆは難しく考えすぎなんだよ。大事なのは仕組みじゃなくてそれの使い方なんだよ」

 もちろん、仕組みを理解しておいた方がいいことも世の中にはある。物を作る人が、その作る物の仕組みを理解していなければそれは大問題であろう。しかし、別に俺達は何かを作るわけでもないし、ましてや数学の公式の仕組みを理解する必要などテストで点数を取るという観点においてはどうでもいい。今大事なのは、その公式を使った問題の解き方を覚えることなのだから。

「なるほど.......確かにそう言われてみると仕組みは分からないのに使い方が分かる物はたくさんあるかも.......」

「何とかなりそうか?」

「多分、大丈夫だと思う。ありがと」

 みゆは元々頭がいいから普通に公式を覚えて解くだけなら、テスト範囲くらいであればすぐにできるようになるだろう。ましてや、数学のテストは3日後なので勉強する時間もまだ余裕がある事だし。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

処理中です...