寒空の下、君を買う ~君が死ぬことは俺が許さない~

白浜 海

文字の大きさ
32 / 71

対抗意識

しおりを挟む
「やっぱり黒嶋くんだよね!」

「そうだな。それじゃ、またな」

 うん、我ながらいい感じに自然な感じでこの場を去ることが出来そうだ。この場は早く去るべきだと俺の直感がそう告げているのだ。

「あっ、またねって違うでしょ! もうちょっと私にもかまってくれてもいいでしょ!」

「いや、秋風にも連れがいるみたいだしここはこれで済ませるのがお互いのためかなと」

「あっ、私のことはお気になさらず。けど、1つだけ聞いていいですか?」

 いや、そこは気にされて欲しかったな.......。それに、秋風の友達が俺に聞きたいことがあるそうなんだが何だろうか? 中学時代の秋風のことでも知りたいのだろうか?

「俺に答えられることならいいですよ」

「それじゃ、遠慮なく。澪の彼氏さんとかですか?」

「.......澪って誰?」

「私だよ! 秋風澪だよ! ちゃんと名前くらい覚えていて欲しかったよ!」

 あぁ、秋風の名前か。うん、言われてみれば確かにそんな感じの名前だった気もする。それに、覚えていて欲しかったって言われても普段は秋風としか呼ばないのだから名前なんて覚えていなくても問題ないだろ?

「あぁ.......彼氏さんとかではないんですね.......」

「もちろんだ」

「もちろんって言われるのも私としてはなんか複雑なんですけど.......ねぇ、黒嶋くん。私も聞きたいんだけどさっきから黒嶋くんの後ろにいる子って前に言ってた親戚の子?」

「.......親戚?」

 あぁ、そういえば前に秋風にはみゆのことを親戚とか言って誤魔化したことがあったな.......。みゆにその事は伝えてなかったけどみゆならきっと察して俺に話を合わせてくれるだろう。

「あぁ、そうだ」

「和哉くん? いつから私は和哉くんの親戚になってたの?」

「.............」

 全く察してくれませんでした.......普段は謎に鋭いくせになんでこういう時に限っては鈍感なんだよ.......。これ絶対にめんどくさいやつじゃん.......。

「彼女はそう言ってるけど黒嶋くん? どういうことかな?」

「.......つまり、そういうことです」

「やっぱり、黒嶋くん彼女いるんじゃん!」

「いや、彼女って訳では」

「私は和哉くんの彼女をさせてもらってます白夢みゆです」

「.......みゆさん?」

 みゆは一体何を言っているのだろうか? いつから俺達は付き合っていたのだろうか? .......あっ、なるほど。もう彼女という設定にしてしまった方がこの場を早く切り抜けられるという機転をきかしてくれたんだな。

「.......秋風って、この前クレープを一緒に食べに行ってた人だよね? こんなに可愛い人だったなんて私、聞いてないよ.......」

 なんか、小声でボソボソ言っている気がするけど何を言っているのだろうか? まぁ、聞こえないものは仕方ないのでここはみゆの機転に合わせて俺も動くとしよう。

「まぁ、そのなんだ。この前はつい恥ずかしくて言えななかったがそういうことだ」

 100点満点の回答だろう。そう思ってみゆを見ると何故だかすごくジト目でこっちを見てくるのだが.......。

「なんでそんな棒読みなの.......? それなら今も、もう少し恥ずかしがってよ.......」

「.......和哉くんの馬鹿」

 どうやら問題なのは俺の回答じゃなくて、答え方の表現の方だったらしい。けどまぁ、大丈夫だろう。なぜなら、

「ということで、俺達はもう行くな?」

 この場から今すぐ立ち去ってしまえばいいだけなのだから。向こうも秋風1人ならめんどくさかったかもしれないが、友達も一緒にいるのだからこれ以上は引き止めようなんてしないだろう。

「あっ、うん」

「それじゃ」

「また、バイトでね?」

 よし。今度こそいい感じにこの場を立ち去ることができそうだ。秋風とその友達に背を向けるように歩き出すとみゆも隣に並んで腕を絡ませてきた。いや、あの.......彼女の振りをするにしてもそこまでしなくてもいいのでは.......?

「あの.......みゆさん? 何をされているので?」

「ねぇ、和哉くん。私がどうして親戚なんて扱いになってたのか話してくれるよね?」

「.......はい」

 俺はクレープ屋さんに向かう道すがら、みゆに何故みゆが俺の親戚ということになっていたのかの説明をした。説明と言っても、病院の帰りに2人で帰っていくところを店長に見られていて彼女だと勘違いされていたから親戚ということにしたといったことだけなのだが。

「.......それなら、最初から彼女にしといてくれたらいいのに.......和哉くんの馬鹿」

「.......すいません」

 なお、クレープ屋さんに着くまでみゆはずっと俺の腕に腕を絡めていた。

「.......本当に秋風さんはこれを食べたの?」

「ありえないよな.......無理そうなら捨ててもいいからな?」

「.......そんなことはしない。絶対に食べきる」

 クレープ屋さんに着くなりみゆは俺に秋風にどのクレープを奢ったのか聞いてきたので、スペシャルストロベリーカスタードクレープと答えたらそれを買うようにみゆに催促されたので、買ってやるとみゆはクレープを見た瞬間に顔を引きつらせていた。うん、見るのが2回目の俺でもありえないと思うくらいだからな。それでも何とかみゆはクレープを食べきっていた。

 それにしても、みゆは何故だか秋風に対して対抗意識を燃やしているようだがなんでだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

処理中です...