寒空の下、君を買う ~君が死ぬことは俺が許さない~

白浜 海

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わがまま

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 高校2年にもなって早くも2週間が経過していた。そんなある日の朝のホームルームでの担任の先生の雰囲気がいつもとは違った。何か大切なことを言うぞと言った重い雰囲気を纏っていたのだ。

「皆さんはもう高校2年生になりました。高校2年生と言えば何がありますか?」

「修学旅行!!」

 先生がそう聞くとノリのいい生徒が意気揚々と答えていた。あいつは多分サッカー部なのだろう。きっとそうに違いない。なぜなら、陽キャっぽいのだから。ノリのいい陽キャはもう俺の中ではサッカー部で決まりなのだ。これは偏見かも知らないがあながち間違いって訳でもない気がする。彼が本当にサッカー部なのかは知らんけど。名前さえまだ覚えていないしな。

「はい。その通りです! その修学旅行先が決まりました!」

「「「「おぉ!!」」」」

「皆さんの修学旅行先は.......北海道に決まりました!」

「「「「うぉぉお!!!!」」」」

 いや、なんでだよ。これが修学旅行先を聞いての俺の感想であった。だって修学旅行って6月なんだぜ? 北海道に行くなら雪の降っている時期に行きたいと思うのが普通ではないだろうか? 北海道民からしたら雪なんて鬱陶しいだけなのだろうが俺達みたいな雪は降っても積もることなんてほとんど無い地域に住んでいる人達からしたら北海道の雪は積もっているだけで感動してしまうのだ。修学旅行がどこであろうと俺には関係の無い話なのだが。

「はい、皆さん落ち着いてくださいね! ということで、これからの毎週水曜日の6限目のホームルームの授業では修学旅行関係の調べものや班決めなどもしていきます!」

 そう言って今日の朝のホームルームは終了した。それからの今日1日の学校生活は特に何かあるわけでもなく終了した。今日は俺とみゆはバイトが無いので一緒に家に帰ると言いたいところだが、さすがに同じ家に住んでいるなんてバレる訳にはいかないので少し間をあけて別々に家に帰る。俺が家に着く頃にはみゆは俺よりも早く教室を出ていたので既に家に着いていた。

「おかえり」

「ただいま」

「修学旅行は北海道なんだね」

「なんで6月に北海道なんだかな」

「確かにね。6月に行くなら北海道より沖縄とかの方が良かったかもしれないね」

「確かに北海道よりかは沖縄の方が妥当って感じはするな」

「それでも修学旅行は楽しみだね」

「.............」

「和哉くん?」

 どうしようか.......。俺は修学旅行に行く気がなかった。理由は単純にお金がかかるからだ。俺は1人暮らしをさせて貰う代わりに学費以外の全ては自分で払うという約束なのでもちろん修学旅行も自分で払うことになる。ばあちゃんに言えば修学旅行代は出してもらえるのだろうけど、それは俺の中では約束が違うことになるので納得できない。現に今までも学外で行う行事などはサボったりもしていた。
 今問題なのはそれをみゆに告げるべきなのかどうかということだ。俺がここで行く気がないなんて言えば確実にみゆも修学旅行に行くことはないだろう。しかし、俺としてはみゆには修学旅行に行って欲しい。俺なんかに合わせて修学旅行に行かないという選択をするのは勿体なさすぎる。みゆも今では武宮さんを筆頭にクラスに友達とまでは言えないまでもそれなりに親しい人は何人かできているので俺がいなくてもみゆは修学旅行を楽しむことはできるだろうから。どうせ、遅かれ早かれ言うことになるなら先に言っておくか.......。

「俺さ」

「うん」

「修学旅行には行かない」

「.......え? なんで?」

「まぁ、これは俺個人の問題だから気にするな。みゆは修学旅行を楽しんで来て欲しい」

「嫌だ。和哉くんが行かないなら私も行かない」

 やっぱりそうなるよなぁ.......。けど、これは俺のわがままだ。俺のわがままにみゆまで付き合ってせっかくの修学旅行を台無しになんてして欲しくない。

「行かないというのはあくまで俺のわがままなんだ。だから、俺はみゆは楽しんできて欲しい」

「そんなのどうでもいい! 和哉くんが行かないなら私も行かない」

「いや、でも」

「私に行って欲しかったら和哉くんも来て」

 本当にどうしようか.......。俺のせいでみゆまで修学旅行に行かないという事態だけは絶対に避けなければならないのに来て欲しければ俺も来いって言うけどそれは無理な話だし。修学旅行に行くための費用となるとどれだけ無理をしてアルバイトをしたとしても確実に足りない。

「けど、みゆはもうお金を払ってもらっているのだろう?」

「あの人達の払ったお金なんてどうでもいい」

「けど、お金に罪は無いだろ?」

「それはそうだけど.......」

 我ながら卑怯な言い方だ。みゆは俺と2人暮らしを始めてからは俺と同じでお金の大切さというものを身に染みて分かったはずだ。お金が大切であるというのは一般常識ではあるがそれはあくまで一般常識として知っているだけであって実際にお金というものの価値を正確に理解している人は少ないだろう。特に裕福な国や家で育ったものであればあるほどに。極端な話になるがもし全員が全員お金の価値というものをちゃんと理解しているのならば世の中に娯楽施設なんてものは存在しないだろう。必要最低限でしかお金を使おうとしなくなるのだから。俺もみゆもここまで極端ではないが、そこら辺の高校生や社会人なんかよりはお金というものに対しての価値を理解している自信がある。

「けど.......私はお金よりも和哉くんの方が大事だから.......」

「その俺がみゆに楽しんで来て欲しいと言っているんだけど」

「.............」

 本当に自分のことが嫌いになってしまいそうだ。みゆにお金よりも俺の方が大事って言って貰えたことは本当に嬉しく思う。けど、そんなみゆの気持ちを俺は今利用してしまっている。全て俺の修学旅行に行かないというわがままのために。

「.......わかんない」

「え?」

「もうわかんないよ!」

「!?」

 みゆは泣いていた。

「和哉くんが何を考えているのかとか、何が大事だとか私にはもうわかんないよ!」

 そう言ってみゆは家から飛び出して行ってしまった。俺は追いかけようとするも足が動かない。俺は今のみゆを追いかけてなんて声を掛ければいいのか分からなかったから。今回みゆを泣かせてしまったのは紛れもなく俺だ。俺は幸せにすると誓った相手を泣かせてしまった.......それも自分のわがままでだ.......。

「はは.......本当に俺は救えないやつだな.......」

 この日みゆが家に帰ってくることはなかった。
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