寒空の下、君を買う ~君が死ぬことは俺が許さない~

白浜 海

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覚悟

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「.......みゆ」

「.......ごめんなさい」

「なんでみゆが謝るんだよ。悪いのは全部俺だよ.......。俺は自分のことばっかりでみゆのことをちゃんと考えて無かったんだから.......」

「そ、そんなこと」

「本当にねぇ。あんたは自分のことばっかりだったよ」

「!? .......おばあ様?」

「和哉。彼女さんが家に来て1番最初にしたことはなんだと思う? そもそもあんたの彼女さんはこの家に何をしに来たと思う?」

 みゆが俺の実家に来てしたこと? みゆが俺の実家に何をしに来たのか? みゆが俺の家を飛び出していった経緯を考えるなら、

「俺の修学旅行に関することでの話」

「土下座だよ」

「!?」

 みゆが土下座? そんななんで.......俺の修学旅行のために土下座をしたと言うのか? 正直言って意味が分からない.......。

「あんたの事だから見当違いなことを考えているんだろうけどねぇ、彼女さんが土下座をしたのはお願いではなくばあちゃんに謝るためだよ」

「.......みゆがばあちゃんに謝る?」

「私はおばあ様との約束を守れませんでした。ずっとそばにいて支えるなんて言いながら家を飛び出して来たってねぇ」

「!?」

 なんで.......みゆはそんな.......全部俺が悪いのに.......どうしてそんなに.......。

「それにあんたはこれに見覚えがあるんじゃないかい?」

 そう言ってばあちゃんが俺に見せてきたのは1枚の封筒であった。見覚えがあるなんてものじゃない。あの封筒は.......

「.......10万円」

「そうだよ。あんたが彼女さんを買っただなんてふざけたことを言った時の10万円だよ。彼女さんはねぇ、この10万円であんたに修学旅行を行かせて欲しいって私に寄越してきたんだよ」

 俺はもう何も言えなかった.......。俺は俺のことだけしか考えていなかったというのにみゆはずっと俺の事を考えてくれていた。嬉しく思うと同時に俺は罪悪感で押しつぶされてしまいそうだった.......。

「それだけ言って彼女さんはこの家から出て行こうとしたよ。和哉くんのことをよろしくお願いしますってね。さすがにそれは引き止めたけどねぇ」

「なぁ、みゆ」

「.......なに?」

「ばあちゃんの言っていることは全部本当か?」

「.............うん」

 分かっていた。こんなことみゆに聞かなくたって答えなんか分かりきっていた。なぜなら、みゆだから。みゆが俺の事を優先して考えてくれていたことは俺が1番分かっていた。俺もみゆのことを最優先に考えていた。考えているつもりでいた。けど、俺とみゆではその覚悟が違った。

「.......ふざけんな」

「和哉くん?」

「ふざけんな!」

 そう言って俺は自分の頬を思いっきり自分で殴った。

「.......っ」

「和哉くん!?」

 今ので口の中を切ったのか口の中に独特の鉄のような後味が広がっていく。みゆは俺のいきなりの奇行に驚いているようだがばあちゃんは黙って俺の方を見ていた。

「みゆ」

「な、なに?」

「本当にすまんかった!」

 そう言って俺は額を床に叩きつけるように土下座をする。思いっきり床に額を叩きつけたので正直言って額が割れたのでないかと思うくらい痛いがこの痛みは俺の覚悟を固めるため、俺の甘えた考えを全て吹き飛ばすためのみずからに与えた制裁の痛みだ。決して忘れてはいけない痛みだ。

「俺は自分勝手で口先だけの本当にしょうもない人間だ」

「そんことは」

「そんなことがあるんだ! 今回のことで俺は俺を許すことは絶対にできない! けど、こんな俺だけど、こんな自分勝手でわがままで無力な俺だけどこれからはみゆにふさわしい男になりたい! なるための努力なら一切惜しまない! だから! 俺にもう一度だけチャンスをください! 俺がみゆを本当の意味で幸せにするチャンスを俺にください!」

 自分で都合のいいことを言っている自覚はある。みゆのことだから俺が何も言わなくても許してくれたかもしれない。こんなことを言う俺に呆れてしまうかもしれない。けど、これだけは例えどんな結末になってもこれだけは、俺の本当の意味での誓い。

「和哉くん。和哉くんは和哉くんが思っているほどダメな人じゃないんだよ?」

「そんなことは」

「うん。自分ではそう思うし和哉は自分のことを絶対に許せないんだよね?」

「あぁ.......」

「だから私が和哉くんのことを許してあげる。他の誰が許さないなんて言っても私だけは許してあげる。それに和哉くんは私にふさわしくないみたいな言い方だけど私にとっての和哉くんはもうふさわしいどころか私にはもったいない人なんだよ? けど、和哉くんはそれを認めないんだよね?」

「あぁ」

「だから、いつか和哉くんが自分のことを認められるようになるまで私は協力する。和哉くんはすごい人だってことを私が教えてあげる。和哉くんがすごい人だって言うのは私が1番知ってるからね」

「.......みゆ」

「だから、あげるよ。私を幸せにするチャンスを。私の幸せは和哉くんの幸せだから.......」




    ゛一緒に幸せになろうね ゛



 そう言って俺に手を差し伸べてくれるみゆの手を俺は取る。俺の今の顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃだ。それでも俺はそれをみゆの顔を見ながらしっかりとその手を取る。この手はそう易々と取っていい手では無いから。この手を取るということはそれだけの覚悟を持って取らないといけない手だから。
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