1 / 61
WinWinな誘い
Wi-Fi求めて
しおりを挟む
ここは、北海道のとある地方都市――時は、晴れた夏空が青く拡がっている、平日の午前中。
その街の、廃線の噂もチラホラと聞こえている鉄道の駅前にある、聞こえ良く言えば……『複合商業施設』の中にある、決して広いとは言えないエントランスの光景である。
その施設は、駅のホームから見て右手にはパチンコ店、左手にはスーパーが併設されており、このエントランスはその両店の連絡通路と言った恰好で、両店を訪れた客の一種の休憩場所として、数卓のテーブルと椅子――そして、排煙装置を完備した喫煙所がある造りだ。
目立った施設はその両店と、喫煙所の隣の一角にある簡易カットの理髪店がある程度で、一応は3階建てではあるが、2階は全てパチンコ店の立体駐車場、3階には以前、パノラマ展望も望めるレストランなどもあったが、それは数年前に閉店の憂き目を喰らい、今は蛻のなんとやらである…
まさに……『聞こえ良く』と、含みを持たせたとおり『複合』と言うには正直、名ばかりなシロモノだ。
北海道――その中でも、札幌圏から離れた都市の現状は、大体は同程度の寂れっぷりとは言えようが、この辺りはこの物語とは深く関わっては来ないので、あくまでも描写の補完としてイメージを拡げて頂ければ良い。
そのエントランスの1卓に座り、スマホの画面を眺めながら休憩をしているのが、この物語の主人公――名は、山納公太、34歳の男性である。
背丈はそれほど大きくはないが、ガッチリとした肉感を秘めた体格――所謂『太マッチョ』な雰囲気で、服装は無地の青いTシャツに、黒い4本線のハーフパンツというラフなモノだ。
――働き盛りの大の大人が、平日の午前に、そんな恰好で……しかも、パチンコ店が併設されている施設に出没しているとなれば、それこそ『そのスジの輩』が目の敵にしたくなる類の者かと言えば、彼の場合は『そうだ』とも『違う』とも言えない生活を送っている。
その理由を現す物が、彼の左側に立てかけられた……”杖”と、彼の右足に装着されている、義足に近い形の”下肢補助装具”だ。
彼は…右半身に、著しいレベルの麻痺障害を負っている。
その原因はありがちと言えば何だが、脳血管が破れてその血液が神経を侵した…脳出血という病気である。
彼は2年程前に発症し、救急搬送されたが何とか一命は取り留め、懸命のリハビリに因って今は、こうして単身で外出が可能なまでには回復したが――未だ、社会復帰出来たと言えるまでには至っていない。
そこまで戻っていれば、職のクチもあるのではないかと思う方も居るだろうが、それを言えるのは、あくまでもそれは、障害者雇用にも積極的な大きめの企業が、居と言える場所を構えている、政令指定都市規模の都会に住んでいる様な方の理屈に過ぎない。
北海道という土地柄で、ましてやこの様な規模の都市では……公太の様な身体障害者の雇用率は、稀と言えるレベルの数字しか出てこないと言っても、間違ってはいないであろう。
それに、彼の最終学歴は高卒で、別に誇れるような学歴があるのではなく、これと言った特殊技能を持っているワケでもなく、健常者の頃はまさにその身一つで、所謂『ガテン系』と評するべきキャリアしかない。
つまり、その『身』がモノにならなくなった時点で、社会復帰への道は絶たれたのと同義なのだ。
幸い、彼程度の中度を超える身体障害ともなれば、健常者の頃に積み立てた厚生年金から、年齢的に微額ではあるが……障害年金が支給されるので、何とか最低限の生活費は確保出来てはいるが、決して楽ではない。
彼が今日、自宅から徒歩で、右足が不自由な彼のスピードで約1時間をかけてまで、この施設を訪れたの理由は――数か月前に、清水の舞台からなんとやらの精神で加入したスマホを用いて、趣味であるアニメの動画を、この施設で提供されている無料Wi-Fiを使って通信し、観覧しようと思ったからだ。
イマドキ――スマホを得るのに、そんな精神が必要だったり、たかがアニメ鑑賞にわざわざ無料Wi-Fiを求めて、一時間かけてまでここまで来たのは、もちろん両者とも経済的な理由が主である。
彼の生活水準でスマホを持とうとしたら、理想は最低リミットの1GBであるが、せいぜい頑張っても5GBのプランが限度だ。
それで、アニメの動画を1話――約25分を毎週観るには、自前の通信量では厳しい。
故に彼は、良いリハビリにもなると自分に言い聞かせ、こうしてこの施設を訪れているのである。
それにしても、ガテン系の太マッチョが、実はアニメ好きと言うと、少し苦笑いしてしまうかもしれないが……これは紛れもない事実である。
まあ流石に、アニオタを名乗れるほどのコアなファンではなく、単にその世界観や物語を楽しんではいる、決して”にわか”とは言い切れないレベルと思って貰うのが適当だ。
アニメ好きが観たいと思える様な作風のモノは、大概が深夜――そして、地上波では全国展開していないモノがほとんどで、北海道もそれは例外ではない。
公太が今、観ているのは……北海道では放送していない、最近の流行りとも言える、異世界転移、転生を扱っている作風のモノだった。
彼は施設内のスーパーで行われていた、48円均一セールで買った缶コーヒーを片手に、100均一のイヤホンをスマホに装着し、彼がそれを耳へと入れて、その異世界転生モノのアニメ鑑賞をしていた、その時……
「アノォ……チョット、スイマセン?」
――と、誰かが彼の肩を叩き、その誰かは片言の日本語で声を掛けて来た。
「……はい?」
公太が画面から顔を上げ、その女性と思しき声音の方へと振り向くと、そこに居たのはフードを深く被り、ブロンドの長い髪を垂らした若い女性だった。
その街の、廃線の噂もチラホラと聞こえている鉄道の駅前にある、聞こえ良く言えば……『複合商業施設』の中にある、決して広いとは言えないエントランスの光景である。
その施設は、駅のホームから見て右手にはパチンコ店、左手にはスーパーが併設されており、このエントランスはその両店の連絡通路と言った恰好で、両店を訪れた客の一種の休憩場所として、数卓のテーブルと椅子――そして、排煙装置を完備した喫煙所がある造りだ。
目立った施設はその両店と、喫煙所の隣の一角にある簡易カットの理髪店がある程度で、一応は3階建てではあるが、2階は全てパチンコ店の立体駐車場、3階には以前、パノラマ展望も望めるレストランなどもあったが、それは数年前に閉店の憂き目を喰らい、今は蛻のなんとやらである…
まさに……『聞こえ良く』と、含みを持たせたとおり『複合』と言うには正直、名ばかりなシロモノだ。
北海道――その中でも、札幌圏から離れた都市の現状は、大体は同程度の寂れっぷりとは言えようが、この辺りはこの物語とは深く関わっては来ないので、あくまでも描写の補完としてイメージを拡げて頂ければ良い。
そのエントランスの1卓に座り、スマホの画面を眺めながら休憩をしているのが、この物語の主人公――名は、山納公太、34歳の男性である。
背丈はそれほど大きくはないが、ガッチリとした肉感を秘めた体格――所謂『太マッチョ』な雰囲気で、服装は無地の青いTシャツに、黒い4本線のハーフパンツというラフなモノだ。
――働き盛りの大の大人が、平日の午前に、そんな恰好で……しかも、パチンコ店が併設されている施設に出没しているとなれば、それこそ『そのスジの輩』が目の敵にしたくなる類の者かと言えば、彼の場合は『そうだ』とも『違う』とも言えない生活を送っている。
その理由を現す物が、彼の左側に立てかけられた……”杖”と、彼の右足に装着されている、義足に近い形の”下肢補助装具”だ。
彼は…右半身に、著しいレベルの麻痺障害を負っている。
その原因はありがちと言えば何だが、脳血管が破れてその血液が神経を侵した…脳出血という病気である。
彼は2年程前に発症し、救急搬送されたが何とか一命は取り留め、懸命のリハビリに因って今は、こうして単身で外出が可能なまでには回復したが――未だ、社会復帰出来たと言えるまでには至っていない。
そこまで戻っていれば、職のクチもあるのではないかと思う方も居るだろうが、それを言えるのは、あくまでもそれは、障害者雇用にも積極的な大きめの企業が、居と言える場所を構えている、政令指定都市規模の都会に住んでいる様な方の理屈に過ぎない。
北海道という土地柄で、ましてやこの様な規模の都市では……公太の様な身体障害者の雇用率は、稀と言えるレベルの数字しか出てこないと言っても、間違ってはいないであろう。
それに、彼の最終学歴は高卒で、別に誇れるような学歴があるのではなく、これと言った特殊技能を持っているワケでもなく、健常者の頃はまさにその身一つで、所謂『ガテン系』と評するべきキャリアしかない。
つまり、その『身』がモノにならなくなった時点で、社会復帰への道は絶たれたのと同義なのだ。
幸い、彼程度の中度を超える身体障害ともなれば、健常者の頃に積み立てた厚生年金から、年齢的に微額ではあるが……障害年金が支給されるので、何とか最低限の生活費は確保出来てはいるが、決して楽ではない。
彼が今日、自宅から徒歩で、右足が不自由な彼のスピードで約1時間をかけてまで、この施設を訪れたの理由は――数か月前に、清水の舞台からなんとやらの精神で加入したスマホを用いて、趣味であるアニメの動画を、この施設で提供されている無料Wi-Fiを使って通信し、観覧しようと思ったからだ。
イマドキ――スマホを得るのに、そんな精神が必要だったり、たかがアニメ鑑賞にわざわざ無料Wi-Fiを求めて、一時間かけてまでここまで来たのは、もちろん両者とも経済的な理由が主である。
彼の生活水準でスマホを持とうとしたら、理想は最低リミットの1GBであるが、せいぜい頑張っても5GBのプランが限度だ。
それで、アニメの動画を1話――約25分を毎週観るには、自前の通信量では厳しい。
故に彼は、良いリハビリにもなると自分に言い聞かせ、こうしてこの施設を訪れているのである。
それにしても、ガテン系の太マッチョが、実はアニメ好きと言うと、少し苦笑いしてしまうかもしれないが……これは紛れもない事実である。
まあ流石に、アニオタを名乗れるほどのコアなファンではなく、単にその世界観や物語を楽しんではいる、決して”にわか”とは言い切れないレベルと思って貰うのが適当だ。
アニメ好きが観たいと思える様な作風のモノは、大概が深夜――そして、地上波では全国展開していないモノがほとんどで、北海道もそれは例外ではない。
公太が今、観ているのは……北海道では放送していない、最近の流行りとも言える、異世界転移、転生を扱っている作風のモノだった。
彼は施設内のスーパーで行われていた、48円均一セールで買った缶コーヒーを片手に、100均一のイヤホンをスマホに装着し、彼がそれを耳へと入れて、その異世界転生モノのアニメ鑑賞をしていた、その時……
「アノォ……チョット、スイマセン?」
――と、誰かが彼の肩を叩き、その誰かは片言の日本語で声を掛けて来た。
「……はい?」
公太が画面から顔を上げ、その女性と思しき声音の方へと振り向くと、そこに居たのはフードを深く被り、ブロンドの長い髪を垂らした若い女性だった。
10
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
※2026年半ば過ぎ完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる