世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

文字の大きさ
13 / 61
世界、異れば片魔神

世界、異れば片魔神

しおりを挟む
「どっ……どゆ事?」

 公太は驚き過ぎて、呂律も上手く回らないまま、皆の顔を見渡してチュンファの発言の意図を尋ねた。

「極々稀に――数十年、数百年に一度の周期で、異界の方がコチラへと迷い込んでしまわれる例があるのです」

 ――と、公太からの尋ねに答えたのは、やはりというか説明好きらしいランデルだった。

「チュンファ嬢は、10年前にドワネの国へと異界から迷い込んで来た、”鋼の怪鳥”の中に居られた幼子で……」

「あっ――現世風に訳すとね、鋼の怪鳥っていうのは"飛行機"の事で、私は7歳の時に、偶然搭乗してた旅客機ごと、このクートフィリアに転移して来たの」

 昔語りをする様に話し始めた、ランデルの話の腰を折る体で、チュンファは簡素な形で経緯を教え始める。

「――10年前に旅客機ごと?、まさか……香港から飛び立ち、マレーシア沖で消息を絶って、未だに見つかっていないっていう、こないだ未解決事件スペシャルでやってたヤツじゃ……?」

 公太はチュンファの話を入口に、数日前にやっていたテレビ番組の事を思い出し、驚愕しながらチュンファの顔を見やる。

「うん、たぶんそれの事――私は子供だったからよく覚えてないし、詳しくはよく知らないんだけど、一緒に生き残った大人たちから聞いた事と、あなたが今言った事は同じだよ」

「私たちが、現世での依り代探しという結論に達したのも、側に居るチュンファの存在からなのです。

 私が、ある程度の異界の状況を把握した上でそれに臨めたのも、彼女とその時の転移者の皆さんのおかげで……」

 頷きながら、公太の推察を認めるチュンファの言葉を補足する様に、今度はミレーヌが此度の策の更なる経緯を語った。

「……そーいや、ミレーヌちゃんは、カタコトでも翻訳魔法無しで、日本語を話してたな」

 公太は頭を巡らして、ミレーヌと出会った時の違和感に今更気付いた。

「ええ、困らない程度にはと、転移者の皆さんから主要な4か国語ほどを習って……」

「⁉、うわぁ……天才だ!、ココに天才が居るよぉ…」

 ミレーヌがごく当然の様に言うと、公太は呆れた体で顔をしかめた。

「――その時に、転移者の方から聞いた……

『――依り代を探すのなら、まずはニホンという国に行って、絵物語アニメを観ている様な人を探せ!

 相手がエルフなら、絶対に喰い付くはずだから!』

 ――という言葉のおかげです♪、コータさんと巡り会えたのは♪」

 ミレーヌはそう言って笑みを浮かべ、嬉しそうに両手を絡める。

「……それ、遠回しに日本のアニメ好きをディスってるよね?、それを教えた人」

 公太は顔を引き攣らせ、不満気にそう呟いた。

「あっ、それ教えたのは日本人だよ。

 私もよぉ~く知ってる転移者ひとで……一区切り着いたら、今度会わせてあげるよ。

 そういえば……日本人って事は漢字、読めるよね?、私は……」

 チュンファはまた補足を加える体でそう言うと、地面を指でなぞり……

リー春花チュンファ

 ――と、名前を漢字で表した。

「――です♪、ふふ……漢字が通じるって、なんか新鮮~♪、よろしくね、コータさん♪」

 チュンファは嬉しそうにそう言うと、公太の両手をギュッと掴んだ。


 …その時の感触から、公太はやっと…これまでの想定とは違う、ある事実に気付く。


「――そういや、魔神を身体の中に封じられたら、俺の片麻痺、治るってハナシだったよね?」

 公太がそうして疑念を口にした時、皆は一斉に……


『――あっ!』


 ――という様に、祝賀ムードに満たされていたせいで、いつの間にか忘れていた、公太をこの世界に連れて来る上での、ある意味では一番大事な契約条項が履行されていない事に気付く。

「……そう言えば、お身体の状態に変化がありませんね」

 ミレーヌは表情を引き攣らせ、公太の右半身を確かめる様に触れる。

「クアンヌの民が残した文献に載っていた、病で半身が動かせなくなった依り代の者が、魔神の魔力を補助として用いていたという記述――それを根拠に、コチラにお越し頂いたのだろう?」

 アルムも顔色を蒼ざめさせ、ミレーヌに確かめる様に尋ねる。

「えっ、ええ……まだ、封印以外の何かが必要なのかしら?」

 ミレーヌも、アルムと同様な顔色へと変わり、困惑した表情を浮かべた……その時。


(――右半身への魔力適用を許可致しますか?)


 ――と、公太の脳裏に、少女っぽい声色でそう尋ねる声が響いた。


(⁈)

 驚いた公太は、目を見張り、辺りを伺おうとするが――いわゆる金縛りの如く、身体の主であるはずの彼の意を還さず、その動きを許さない。

 そして、時間が止まったかの様に、ただミレーヌたちの困惑した様子だけを見せられている恰好だ。

(まさか――サラキオスか?」

(かっかっかっ……如何にもじゃ、異界の者よ)

 公太の推察どおり、この異変の元凶は――彼の内へと封じられた、魔神サラキオスその者だった!


(……何のつもりだ?、大人しく封印されたんじゃなかったのかよ?)

(かっかっかっ、ようやく――うぬの身体にも慣れて来てのぉ。

 その頃に丁度、病んでおる方の半身の話となっていたのでな……お前に、我の力の使い方の説明をばと思うてな)

 訝しげに動機を探る公太に対し、サラキオスは得意気にケラケラと笑いも交えてそう答えた。

(ちなみに――我らが今、こうして話しているこの場は、いわゆる”精神世界”というヤツじゃ。

 よく見かけるじゃろう?、『まんが』や『あにめ』とかいうモノでもこーいうシーンを)

(……そうだな、確かにあるぜ。

んな事をお前が知ってるって事は、俺の頭ん中を覗いたってコトだな?)

 サラキオスの今の状況についての解説に、公太はツッコむ体で更に深い面を言い当てる。

(かっかっかっ♪、やはり聡いな、お前は。

 故に先程の問いかけは――異界では『あぷり』とかいう物を新規に動かそうとすると、こうして確認をするのであろう?、それを真似てみたのじゃ♪)

 サラキオスは楽し気に、あのしたり顔が思い起こされる口調でそう言った。

(――ったく、俺の事を面妖だとかよく言えたもんだぜぇ……てめぇの方こそ、酔狂過ぎる魔神様だよ。

 で?、どうすりゃあアンタの力で、右半身を動かせる様になるんだ?)

 公太は呆れた様子でサラキオスに皮肉を言うと、核心に触れる部分を問いかける。

(ふふん――では、許可するのだな?)

(ああ、良いぜ)



 ――ブオンッ!



「!!!!!」

 ――突如として、公太の半身に迸った黒い魔力の波動に、それまでそれに触れていたミレーヌは、驚愕して一気に後ろへと飛び退いた!


「コッ、コータ殿!、如何しましたかぁ⁉」

 同じく驚いて、瞬時に身構えもしたアルムは、変容した公太の姿を警戒しながら、確認の問いを投げた。


 公太の腹に刻まれていた黒い文様が、右半身全体へと伸びる様に拡がり、魔神少女の周りにも展開されていた、黒い波動がそれを覆う様に彼の身体に迸っていた。


「――大丈夫、ちゃんと意識があるし、サラキオスに身体を乗っ取られたって類じゃあない。

 ヤツの力を扱うって事は、こーいうコトらしい」

 公太は右手を握り締めて見せてその稼働を確認し、身体と同じく顔にも半分発現している、宛ら隈取と言った様相の文様を撫でながら、少し残念そうな顔をする。

「……しかし、これじゃあ日常生活でどうこうってシロモノじゃねぇな。

 流石に、この顔の文様を見せながら暮らすのは恥ずかしいし……」

(ふむぅ……そうか?、ならば……)

 公太がそうして不満を吐露すると、またサラキオスの声が彼の脳裏に響き……


 ――シュン!


 ――そんな音とともに、一気に文様と波動は消え失せた。


(……動かしてみよ)

 またサラキオスの声が響き、公太はそれに従って右手を握る素振りを見せる。

「……おっ?、おぉ~っ!!!、ちゃんと動かせるし、過度な魔力の放出も無い!」

 なんだよぉ~!、やれば出来るんじゃんっ!」

(魔法を使わぬ場面ならば、魔力の発現は抑えられるからのぉ♪)

 公太が発した誉め言葉に、サラキオスはまた得意気にそう応じた。

「あっ、あのぉ……コータさん?、さっきから一体どうされて……」

 誰かと語り合う様に独り言を溢している恰好の公太に、ミレーヌは心配した様子でそう尋ねた。

「ん?、ああ……"中"に居る、サラキオス当人と話してるんだよ」

「!!!!!!!」

 公太が告げた衝撃的な言葉に、皆が一斉に一歩、後ろへと退いた。


 ついに得た、自由が効く右半身の様を見据えて、公太は……

「まあ、怖がられてもしゃーないよな……『片麻痺』だった部分が『片魔神』になってるワケだし♪」

 ――と、駄洒落を気取った言い草で、呆れ気味にそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...