世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

文字の大きさ
22 / 61
旅の終わり

旅の終わり

しおりを挟む
 一行は、グーデルバインには3日ほど滞在――その間、コータからの初仕事に燃えるニーナは、毎晩の様に賓客館と呼ばれる一行の宿舎に通い詰め……

「――コータの旦那っ!、次に会う時……ランジュルデ島で会う時を楽しみにしててくだせぇっ!

 ご所望の異界の剣!、精魂込めてぇっ!、仕上げたモノをご覧に入れやすんでっ!」

 ――と、一行が発つ時には、気合に満ちた様子で彼らを見送ったのだった。

 ちなみに――通い詰められても、年齢制限無し展開を掲げる、コータの尊厳を守るため、ナニもしていない事は――この地の文語り部が保証する。


(――ロリドジっ子のヤネスに、姉御乙女のニーナ……よくもまあ、種族にピッタリで、定番な"属性"を並べてくれたモンだ)

 ――場面は替わって、ココはコータの精神世界。

 彼は今、これまでの旅程で紹介された、自分のトコロに派遣されるという者の事を思い出していた。


(――まあ、彼女たち以外にも、専売権絡みの仕事を受け持つ職人や商人、政務の類をお願いする、公的な立場の人も居るには居たけど……ったく、シンジが余計な事を吹き込むモンだから、トンだ風評被害を被ってるぜ……)

 精神世界のコータは、訝し気にそう呟くと、続けて大げさ気味に溜め息を吐く。

(――で?、島に着いた晩は、どちらの娘にするつもりじゃ?)

(……阿呆、言ってろよ――スケベジジイの魔神様)

 いやらしく尋ねて来るサラキオスを、コータは一蹴してゴロリと横になり、煩わしそうに眼を閉じる。

(だいたい――俺はもう、おっさん寄りの歳だぜ?、確か……ヤネスは16、ニーナは18って言ってたはず。

 異世界だけに、丁度それぐらいが、いわゆる"適齢期"なのは解るが……チュンファの時も言ったけど、もしそんなコトになろうモンなら、現世じゃモロに犯罪なんだ。

 何より、そんな気になれるのは、"ソレ系の属性"持ってるヤツだけだってのっ!)

 コータは頬杖をつき、不満気にそう苛立ちを表すと……

(――良い娘なんだよ、二人とも……だから、大事にしてやんなきゃなって思うから、俺は俺でイロイロと責任感じてんだっ!

 依り代の精神世界アタマの中で、エロい妄想とかしてんじゃねぇっ!、そんなんだから、悪神なんて思われんだよっ!)

 ――いわゆる"地雷"を踏んだ形となったサラキオスに、烈火の如く叱責をぶちまける。

(そっ、そんなに怒らんでも良かろうよぉ……我は我で、お前との関係を深めようとだな……いや、すまん、悪かった)

 サラキオスは青菜に塩と言った体で、コータに詫びを入れた。


 世界を滅ぼさんとした魔神も――こうなった以上は、主導権は依り代側にあるという証拠である。

 それを自ら望んだという事は、この魔神の属性は……いや、止めておこう。


(――ならば、お前が好むその属性ゾクセーとやらは一体なんじゃ?、それぐらいは話しても良かろう?)

 サラキオスは話題を少しずらそうと、コータに好みのタイプを聞いてみた。

(――だからぁ、アニオタではあっても、キャラ萌えはしないから、返答に困るんだよ……第一、彼女とかが居た経験も……)

(……いや、良い――悪い、話を振ってしもうたなぁ……)

 コータは結構なレベルのカミングアウトをしようとするが、サラキオスは何やら気を使う恰好で話を閉めようとする。

(おい……ここまで言わせて、ココで切られちゃあ恥掻いただけじゃねぇか。

 尋ねたんならまずは聞けよ、俺の属性)

 コータは眉間にシワを寄せ、半ば強引に……

(――というワケで、属性の類はいたって一般的。

 歳はそれほど離れていないのが望ましいし、綺麗事には聞こえるだろうけど、顔やスタイルはどーでも良い……ぶっちゃけ大事なのは、こんな別に取柄も無くて、顔も良くねぇ、”俺を好いてくれてる人”が、俺の属性なんだろうな)

 ――と、実に平凡な答えを返したのだった。



「――コータ殿は、寝てしまったのかな?」

 ――と、場面は現実世界に戻り……って、まあ異世界に来たコータからすれば、その表現では少し語弊があるかもしれないが、ココは一行が乗る馬車の上である。

 寝転がっているコータに声を掛けたのは、御者台に座っているアルム――彼は幌をめくり、その先で寝転がっているコータに、返事は期待していないそんな尋ねをしていた。

「――慣れない世界で、慣れない旅路をもう、一月も続けておられるんです。

 お疲れとなって、睡魔に襲われても当然でございましょう」

 替わって返事をしたのは、アルムの近くで、共にコータの寝顔を眺めているミレーヌ――彼女は、同情も滲む声音でそう呟いた。


 グーデルバインを発った一行は、2日後の昼頃にはドワネとヒュマドの国境に差し掛かり、ついに目的地であるワールアークの都があるヒュマドの国へと入った。

 今はそれから更に4日後――旅程どおりなら、そろそろそのワールアークの街の様子が、遠目になら見受けられそうだと言う頃合いだった。


「――さて、これまでは何れも、他国の歓待を共に受ける立場だったけど……今度は、僕たちもヒュマドの者として、新しいサラギナーニアであるコータ殿を迎える側だからね……少し、これまでとは心情が違うよ」

「私も似た様なモノです――ヒュマドの皆様に間借りをしている立場とはいえ、我らエルフィも、わざわざ異界から御越し下さった、この世界の救世主であるコータさんを、どうお迎えするかで、気が気ではありません」

 両種族の王子と姫は、神妙な顔をして見詰め合う。

「『魔神が異界からの依り代に封じられた時点で、サラキオスを悪神として扱う事は止め、ホビルやドワネ同様、サラギナーニアを魔の神を鎮めた英傑として奉るべし』――という、両王家の名の下に発布された4族長会談の結論を、良くは思わない民も少なくはないでしょうから、国を滅ぼされた立場である我らが、果たして手放しに迎える事が出来るかどうか……」

 ミレーヌが渋い表情をして、不安気にそう呟くと……

「――それが、僕たち王族の腕の見せ所さ。

 僕らはこの旅路で、新たなサラギナー……いや、”コータ殿という御仁”の、人となりを粒さに観て来たんだ。

 それで感じた事をそのまま伝えれば、みなもきっと、僕らが感じたとおり、彼の事を素直に歓迎してくれるよ」

 アルムが、励ます様に彼女の手をギュッと握ると、ミレーヌは微かに赤面して黙り込む。


 ――プッ、プッ、プワァ~~~ンッ!!!!!


 その時――馬車の進行方向から、ラッパの音色の様な音が高らかに響いた。


「――どうやら、向こうでも僕らの姿を視認した様だね。

 さあ、ようやく……この長旅も終わりの様だ」

 アルムはホッとした様子の溜め息を交え、それがワールアークからの合図である事を明かした。

――

――――

――――――

「――王子殿下とっ!、ミレーヌ姫の凱旋であ~るっ!、一同っ!、敬礼ぃっ!」


 ――ザザッ!、ワァァァァ~ッ!!!!!


 ワールアークの周りを占めている城壁の門を馬車が潜ると、その先に居たのは無数の騎士鎧をまとった者たちで、その頭目らしき更に豪奢な造りの鎧を着た者が、猛々しく挙げた号令に合わせ、その無数の鎧騎士が一斉に馬車へ向かって敬礼をする。

 その騎士たちの後ろには、王子たちの凱旋と新たなサラギナーニアの姿を見物しようとしている市民たちも、鈴なりとなって集まっており――パレード状の沿道を構成していた。


「――へぇ、この光景……奇しくも、"エセ中世ヨーロッパ"と言われがちな街並みにより近いな……ホビルやドワネとは違って」

 御者台の左右で沿道の鎧騎士たちに向けて手を振っている、ヒュマドの王子とエルフィの姫を他所に、幌から顔を出したコータはそんな戯れ言を吐露した。


 その戯れ言の根拠は、何も周りに集まった鎧騎士たちだけを指すモノではなかった。

 街並みも、煉瓦――らしき石造りの建物が多く、藁葺風や土造りなど、如何にも妖精種族っぽかった、ホビルやドワネとは、正に一線を画している様相にコータは見えていた。


「――コータ殿、幌から顔を出す事はお控え頂きたい……

 王子殿下は、新たなサラギナーニアのお披露目の際には、"少し趣向を凝らしたい"と思っているとの事でした故」

「ああ、そうでしたね――年甲斐もなく、はしゃいじまってすいません」

 ――と、重みのある声音で指摘して来たジャンセンに、コータは照れながら頭を掻いて詫びて見せた。


 どうやら……何か、打ち合わせ済みな企みがある様である。


 馬車が沿道を恙なく進むと、その先に見えたのは大きな西洋風の城で――威容も醸す、その外観に見える広大なバルコニーには、豪奢に誂えられた2席の玉座があった。

 それを視認したアルムとミレーヌは、沿道へ手を振る事を止め……その2席の玉座へと向き直り、深々と一礼をする。

 その様とその意味を悟ったジャンセンも、幌越しではあるが深々と一礼し、それに追従する様にチュンファ、そしてコータも同様の一礼をする。

「――右手に鎮座せしめ居られているのは、我らヒュマドが王……"プラート・ヒュマド・キガラーニア"陛下。

 左手に居られるは、エルフィが女王――"ミーシャ・エルフィ・クィラーニア"様にございます」

 幌越しなので、ぶっちゃけ見えてはいないのだが――どこかで観ている様な素振りで、ジャンセンはコータに現状らしきモノを解説する。

 コータは、アルムの父とミレーヌの母だという事実と、前もって聞いてはいた、その両王の年頃などから推察した、二人の容貌を思い浮かべながら一連の儀礼を終えた。


 丁度”年頃”という単語出たので触れておくが――この作中というか、クートフィリアにおけるエルフ……エルフィ族には、"ありがちな長命設定"――つまり、ウン百、ウン千、ウン万年を生きているのに、見た目は少年少女――的なモノは存在しない。

 ちなみに――コータはこの旅の最中、そういえば……的なテンションで、ミレーヌに年齢を尋ねたのだが、見た目どおりとも言える、17歳と答えられて拍子抜けを喰らい、それらありがちなモノからウン百歳を想定していたと吐露すると、流石に温厚な彼女も憤慨して立腹していたモノだ。

 しかし、魔力の絶対量に長けた種族だからか、他族よりは長命な事や老化が鈍い事は確からしく――シワ一つない若々しい見た目のまま、寿命を迎える者がほとんどで、故にそーいう俗説が現世に残ったのだろうというのが、ミレーヌの見解であった。


 一連の儀礼の中も馬車の歩は進み、二種族の王が待つ、バルコニーへと続く階段の手前でそれは停車した。

 その周りにも、王たちの警護を兼ねた兵を先頭に、その一連を観ようと集まった観衆の類は鈴なりとなって居、…その進行を凝視していた。


 アルムとミレーヌは御者台から立ち上がり、アルムは左手、ミレーヌは右手を幌の窓へと差し向け――その両者の手を"何か"、いや"誰か"が掴んだ。


「――おっ、おいっ!、あの手……っ!」

 その掴んだ手を観ていた者たちから、ザワザワとした悲鳴染みた歓声が起こった。

 その手にあったのは――この世界の者の殆どが、脅威の存在として観ていた者にもあった、"黒い文様が入れ墨の様に肌に刻まれた姿"に見えたのだ。

 続いて――ヒュマドの王子と、エルフィの姫の手を握る『ソレ』が、幌の窓を潜り出て姿を現したのは……右半身中にその文様を現わしている、黒髪の男であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定。

処理中です...