世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

文字の大きさ
23 / 61
旅の終わり

コータ・アデナ・サラギナーニア

しおりを挟む
 ――おぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!


 ――アルムとミレーヌに誘われ、幌から姿を現した半身に黒い文様が刻まれた男を観て、場を占める観衆の中から地鳴りの様などよめきが起こった。


 そんな辺りをチラリと見渡したアルムは、したり顔でその男――『魔神モード』状態のコータに目配せをする。

(やれやれ――円滑に事を運ぶのに必要だってのは解るが、この姿を、一種の見世物にするのはちょっと恥ずかしいな)

 コータは些か顔をしかめ、数時間前のアルムとの会話に思いを耽る。



「――コータ殿、ワールアークでの出迎えの際に一つ、お願いがあるのだけれど……」

 例のワールアークからの合図の後――幌の中で起き上がったコータに、アルムは御者台から振り向きそう告げた。

「ん?、何?」

「民に、コータ殿の姿を最初に見せる際は――"魔神の文様を明らかにして居て欲しい"のです」

 コータの尋ねへの返事として、アルムが言ったその言葉に、コータは表情を曇らせ、訝し気に自分の右半身を摩った。

「畏怖や懸念の思いを、民に催させるとお思いかと存じますが、それこそが私の狙いなのです」

 一早く、そのコータに表情の意味を察したアルムは、先手を打つ様にそう言って……

「――世界を滅ぼしかけた魔神を、我ら人はこうして封じる事に成功し、そして、こうして今は、それを宿した異界からの依り代と共存して行くのである――

 この、これからの共通意識を、民に解り易く伝えるために……協力して欲しいのです」

 ――開けた幌へと向き直り、懇願する体でコータへと頭を下げる。


 この時――背後でその様を観ていたジャンセンが、アルムの臣下として屈辱を催し、歯軋りの音を発てていた事は、その場の誰も気付いてはいない……


「……要するに、政治的パフォーマンスをしたいから、一芝居打って欲しい――って言ったら、ちょっと違うか?」

 コータはこめかきを掻き、イヤらしさを醸す表現しか出来ない、自分の語意を恥じながらそう応じる。

「……まさにそのとおりですから、返す言葉はありませんよ。

 政治まつりごとのためには、その様なくだらないモノが、奇しくも一番効果的であり、所詮はそれらを見せるのが、我ら王族の存在意義なのです」

 アルムはそう言って苦笑いを見せると、恥ずかしそうにコータの目線から、その笑顔を恥じる様に目を逸らした。

「……解ったよ、俺の文様こんなもんが役に立つなら、いくらでも出してやるさ」



(――って、啖呵を切っちゃったしね……さぁっ!、観ちゃって頂戴なっ!)

 コータは心中でそう思い、彼がどこぞの力士さながらに、気合を表す様な体で天を仰いで見せると……


 ――ザワッ!!!!、ガチャガチャガチャッ!!!!


 ――観衆からは恐怖感からか、更なるどよめきが……その前方に並ぶ兵たちからは、警戒感からか、鎧や武器を震わす音が響き渡る――


「……あれ?、逆、効果?」

 コータは小声で、渋い表情をしてそう呟く。

「コータさぁ~ん……アドリブは要りませんよぉ」

「はは……良かれと思っての事だろうし、この反応は僕の懸念が当たっていた証拠さ。

 さっ、コータ殿、このまま僕たちと共に…」

 ミレーヌとアルムも、小声でコータの呟きにそう応じると、3人は手を繋いだまま一歩ずつ、バルコニーへと続く階段を上がって行く。


(――観るからに、魔の神を宿していると解る者を真ん中に、討滅派の急先鋒だったヒュマドの王子と、その魔の神に国を滅ぼされたエルフィの姫が……それを宿す者と手を繋ぎ、笑顔も見せながら共に歩む――

 確かに、人と魔の神の融和を表すのに、これ以上は無い演出じゃな)

 コータの精神世界では、この様子を俯瞰的に見やっているサラキオスが、皮肉も交えた様子にそう揶揄していた。

(ああ、ハラの中は、なかなか喰えねぇ王子様だよ)

(ふふ……我が、お前の気に入っている所は、意外と何でも見透かして、モノゴトというモノの本質を観ているトコロじゃわい♪)

 冷めた切り替えしをしたコータに、サラキオスは嬉しそうにそう告げた。



「――陛下、そして、エルフィ・クィラーニア様……アルム、只今戻りましてございます」

「――ヒュマド・キガラーニア様、それに母様……世界が御意の大任、無事に終えてございます」

 バルコニーへと階段を昇り切ったアルムとミレーヌは、コータから手を放して2人の王の前に畏まり、ヤーネルにも、ガルハルトにも見せていた、形式的な平伏をして見せる。

 そして、コータはというと……

(――ええっと『コータさんは、その身の内に魔の神を宿しているサラギナーニアであるワケですから、母様やヒュマド王とは同等――いえ、考え様に因っては、身分はコータさんの方が上だと言って良い存在なので、私たちが平伏を見せても、コータさんはそのまま――むしろ、立ったまま偉そうにしていてください』……だったな)

 まるで――二人を引き連れて来たが如く、ミレーヌからの助言通りに、二人の王の前に仁王立ちしていた。


 ちなみに、ジャンセンの解説の際には、あえて触れてはいなかったのだが――『キガラーニア』とは王、『クィラーニア』は女王を表している。

 つまり、サラギナーニアの『ニア』とは『尊ぶべき立場に居る者』という意味なのだ。


「――アルムよ、そしてミレーヌ姫……大任成されし事、祝着である」

「ミレーヌ……それに、王子殿下も、無事に戻られて何よりです……」

 順にヒュマドの王――プラート、エルフィの女王――ミーシャが、それぞれに自分の子と相手方の子へと労いの言葉を贈る。


 そして――二人の王は、おもむろに玉座から立ち上がり、一歩前へと出た。


 コータが目の前にしたプラートの容姿は、アルムと同じくヒュマド族らしい栗色の髪に白髪が多めに混じった、年の頃も明らかに50は過ぎていると解る容貌であった

 だが、流石はイケメンであるアルムの父――醸す雰囲気は、まさに『ちょい悪オヤジ』と言った様相で、まだまだ血気は盛んであろうとコータは思った。

 対して、エルフィの女王――ミーシャはと言えば、エルフィらしい金髪の長髪を真っ直ぐに背へと垂らした、これも流石はミレーヌの母だと言えてしまう美貌の持ち主で……前出しておいた、例の長命設定のカラクリとして挙げた、魔力量の潤沢さから来ているという若々しさも、ミレーヌの母というよりは……姉だと言ったとしても、大きな反論は出て来ないであろうと思えるレベルだ。


(――今、『ミレーヌよりも、むしろこの母の方が属性好みに合ってるかも……』と、思ったであろう?)

(うっ……るっせぇよ!)

 ――という、精神世界での会話はさておき……

(――『王と女王が立ち上がり、一歩前へとコータ殿の方へと歩み寄ったら――貴方も、一歩前へと歩み寄ってください』……っと)

 コータは、アルムから事前に聞いていたとおりの展開となったので、その助言通りに一歩前へと出た。

(――で、そうしたら『魔神モード』を解除……だったね)


 ――スゥッ!

 おぉぉぉぉぉぉぉっ……!!!!


 コータがそうして、魔神モードを解除すると、観衆からまた大きなどよめきが起こった。


(――二人の王を前にした所で、俺が魔神の力を制御して見せれば……人の意思で、魔神の力は鎮められる様になったのだという事を示せる――か。

 やっぱイケメンって、こーいう演出も出来るからモテるんだろうな)

 コータは、横で平伏したままのアルムを横目に見やり、心中では苦笑いを催していた。

 そして、コータと対峙した二人の王はと言えば――まず、ミーシャが先に口を開き……

「――世界の境を超えてまで、我らが要望に応えて来てくれた事……エルフィが民に変わり、厚く御礼を申し上げます」

 ――と、文様が消えた彼の右手を両手で包み込む様に握手をした。

「いえ、俺はそんな聖人地味た動機じゃ……」

「いえいえ、貴方はこれまでの全てを失う、苦渋の決断を下してまで、我らを救う道を選んでくれました――それは、貴方が自分で思うよりも、尊ぶべき偉業にございます」

 ミーシャは感涙が落ちそうになる事を耐えながら、そう言って謙遜するコータの右手をさらに強く握った。

「異界から来た魔神の依り代――『アデナ・サラギナーニア』たるコー……?、――タ?、……うっほんっ!、コータ殿よ。

 このヒュマドが都――ワールアークへとよくぞ参られた」

 一方のプラートは、アルムが耳打ちした事が丸解りな体で、つっかえ気味にコータへと声を掛けた。

「エルフィ・クィラーニア同様――我も、ヒュマドの民を代表して、貴公の英断に感謝を申す」

 プラートは、ミーシャが握ったままの右手ではなく、コータの左手へと手を伸ばし、彼と握手を交わすと、そのまま……

「――こうしてっ!、異界からの勇者の降臨によりっ!、魔神の怒りは鎮められたぁっ!

 皆の者っ!、この平和を齎したっ!、コータ・アデナ・サラギナーニアへっ!、我はココにっ!、盛大なる敬意を表す事を世界の万民へと示そうっ!」

 ――と、空けていた左手を天に掲げ、その宣誓の様な言葉を、その場に居る全ての者へと告げたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...