世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

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島の洗濯

密告

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 ――しかし、複雑に絡んだ回想は、まだ少し続く……場面と時は、トラメスが苦虫を噛む様でファリバと会談していた日の夜である。

「……ガムバスマ殿、夜分に突然、失礼致します……」

 彼は――執務室に、意外な来客を迎え入れていた。

「いえいえ……如何なされたかな?、ロトバナラ殿よ」

 その、口にした職務姓が示す様に、彼の処へ訪ねて来たのはアイリス――彼女は、酷く神妙な面持ちで、トラメスの前に座っていた。

 「――はい、実は……同じく、ヒュマドが官職を基とする者のよしみでご相談……いや、是非にもお伝えし、手を打って頂かなければならぬ信貴が見つかった故、まかり越しました……」

 アイリスは、口にする文言も些か唇を震わせながらで、その表情などは、軽く蒼白へと寄った様で話し始める。

「――最近、コータ様が何やら妙な行動をなされている様に思え……先日、秘密裏に御身を尾行してみると、何と!、かのエリナとかいう賊と密会され、何やら紙の様なモノを渡している様子を目撃したのです!

 渡したそれが何なのかは、私の身と見識では分りかねるのですが……ガムバスマ殿の方から観て、何か不穏な心当たりでもあればと……」

「!!!!、なっ……何ですとぉ!?」

 アイリスの、鬼気迫る独白から出た衝撃の報せに、トラメスも口をあんぐりと開け、思わず一旦、呼吸を止めてしまう程に驚いてみせる。

「……私も、心底目を疑いました。

 あの好漢として知られるコータ様が――よもやあの、卑しき蛮行を繰り返す女と、密通しているなどとぉ……っ!」

 トラメスのリアクションに応じる態で、アイリスも、驚きの事実に対する今の心境を吐露する。

「……ロトバナラ殿、よくぞ報せてくださった。

 確かに最近、我らの文官業務の中からも、妙な情報漏洩が疑われる事例が増えているのです……思いたくはありませんが、側近たる貴女が、その様な場面を目撃されたとなると、やはり……」

 トラメスは口をへの字に結び、”一応は”、神妙な面持ちでうな垂れ、落ち込んだ様のアイリスの肩を叩き、慰めてみせた。


(あ~のっ!、異界人の仕業かぁ~~~~っ!、つくづく!、私の邪魔をしてくれるぅぅぅぅっ!!!!)

 ――というのが、心中のソレであるのに、こんな芸当が叶う辺りは、流石の役者ぶりである。


「……この様なコト、ガムバスマ殿ぐらいにしか、相談出来ませんでした……

 この事を城内の誰かに言ったとて、きっと悪夢でも視たのだろうと、一笑に伏されるのがオチ……それほどに、コータ様は城中の皆に慕われております。

 しかし、どちらかと言えば今でも引き続き、本国への忠誠を覗かせる節があるガムバスマ殿なら、もしかしたら信じて貰えるのではとぉ……っ!」

 アイリスは、悲痛な涙混じりの声音でそう語ると、トラメスの手をギュッと握って、感謝の胸中を明かす。

「――しかし、一つ解せませぬな。

 領主様からは、以前『クートフィリア語の識字は出来ない』と伺っておりました……それが、海賊が欲しがる情報を選別し、それを伝えるなどと……」

「……グスッ、相手は、世界創生の時代から生きる魔の神を、その身に宿しておられるのですよ?

 かの魔神もーどにかかれば、識字し意味を知るなどは造作もない事柄なのではぁ?」

 トラメスが、一つ浮かんだ疑問に対し、アイリスが間髪入れずにそう答えてみせると、彼は呆気に取られた表情で、また口あんぐりと開けた。


(え~い!、もうこの際、小難しい理屈なんぞは要らん!

 あの異界人を追い落とす事が!、少なくとも!、この島の政治からは手を退かせられる!、重要な名分が出来たのだぁ!、コレを逃す手はぬわぁいっ!!!)


 心中のトラメスは、そう言ってほくそ笑み、対して現実のトラメスはというと、相変わらず千両役者な体で、険しい面持ちを覗かせ……

「――ロトバナラ殿よ、私の方にも、ちょっとした伝手はございます……

 次に、コータ様に不審な動きあれば、遠慮無く私に相談してくだされ――必ずや、お力になり申すぞ!」

 ――と、アイリスの剣術タコが目立つ手を握り返し、幾度も頷いてみせるのだった。

――

――――

――――――

「頼まれたベフツ粉の強奪――ちゃんとやって来たよ、サラギナーニア」

「ああ、助かったよ。

 これで、領主の面目が保てるってモンだ」

 さあ、場面はやっと、海賊たちの祝杯が行われていた時へと戻り――エリナとコータは握手をして、互いを労うやり取りを交わしていた。


 ”ベフツ粉”とは、この世界における穀物の一種で、その実を挽いた粉はパネの原料――とどのつまり、小麦粉の事だと思って良い。


「ただでさえ、ベフツは丁度収穫前の品薄期に入ってるから、今は城に備蓄したモノを市場に流して、価格を安定させるために、在庫解放して介入しなきゃイケないってハナシなのに、そんな書類への捺印はついぞ頼まれねぇ……

 おかしいなと思ったら、案の定あるのを隠して値を釣り上げて、隠してたモンを高値で本土に売り捌こうって魂胆だったかぁ……」

 コータは、山積みにされたベフツ粉の袋を撫でながら、渋い表情でそう独り言を呟く。

「――去年は、ウチこそは豊作だったけど、本土の方は魔神との何やらで、働き手が徴兵に取られて死んでたり、畑だったトコが焼かれたりして、生産量が落ち込んでるからね。

 利鞘で稼ぐには、絶好のタイミングってワケさね」

 エリナは、シバトゥに火を点けながら、吐き捨てる様な口調で、コータの独り言を補足する様な、社会情勢的な要因を説明する。

「ウチの魔神が、大事な働き手を殺しまくったり、大暴れしてて畑を焼いたりして、誠に申し訳ございませんでしたぁ……」

 ――と、コータはいたたまれない思いを感じ、せつない様子で頭を下げる。

「ふん、わざわざアンタが謝る事じゃないさ。

 そう思ってるからこそ、アンタは一所懸命に、この島の事をどうにかしようと思ってんだろうしね」

「へへ♪、船長、ありがとね。

 それにホントは――アンタたちだって、本土に流した方が儲かるんだろうに、島に持ち返って市場に流してくれるってんだから、アンタらはホント立派だよ」

 エリナがシバトゥの煙りを鼻腔へと燻らせる間に、コータの姿勢を実直に褒めると、彼は彼で、彼女とその一味が示す侠気を尊ぶ。

「――ゴホッ!!!、なっ、ナニ言ってやがんだいっ!

 救世の英雄で、今は領主――なんて立派なモンが、アタシたちみてぇな爪弾きモンを褒めるんじゃないよ」

 エリナはまた、恥ずかしそうに頬を赤らめ、彼女はその戸惑いを抑えようと、もう一度シバトゥの煙を吸った。

「――さて、とりあえずはコレで、船長たちに仕事を頼むのは、とりあえず最後になりそうだ」

「⁉、てぇこたぁ……連中、ついにやらかしたってコトかい?」

 コータがさり気ない口調で、情勢が動いた事を匂わす言葉を向けると、エリナは嬉々として、前方へと身を乗り出した。

「――へへっ♪」

 コータはそう、鼻を揺らしながら、含み笑いを浮かべて、エリナの方へと振り向こうとした――その時!、ザザザッと砂浜を強く蹴り上げた、疾駆する足音と共に、武装した数十名の集団が奇岩を取り囲む様に現れた!

 それらは、側にある別の奇岩の上へにも鎮座して、矢じりの閃きを停泊した海賊船へと向けている!


「――船長、みんな……ゴメンな?」

 この事態を察していた様な落ち着きぶりで、コータは沈痛の面持ちで、エリナと海賊たちに、詫びの言葉を吐露するのだった……
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