世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

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島の洗濯

密談

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「着任も間も無い内に、暴れデュルゴ退治とはねぇ……コータ殿も、早速やってくれたモノだ」

 場面と時は移り――ココはヒュマドの国、ワールアークの都にある、カフェの一角である。

 連なる時の経過はというと、今度は更に遡る態で、ランジュルデ島の事件の終結から3日後――いや、地理上の時差も踏まえれば、4日後に等しい時分だ。

 先のセリフの主は――お忍び風に変装を施した態のアルム。

 その彼が、片手に握っているモノは紙の束――この世界における”新聞”に当るモノだ。


 ――さりとて、内容としては、ゴシップの類が中心なタブロイド的な記事がほとんどで、大昔の”瓦版”を例とした方がしっくり来るのかもしれない。

 魔法が発達したクートフィリアは、現世の様に印刷技術が大衆向けに顕著な発達をしたとは言えず、先に挙げた魔石を媒体とした録音や録画の方が、便利で有能という考えが一般的だし、情報の伝達だって、飛行魔法等がある世界だけに迅速さも望めて容易――新聞の様な媒体は、暇潰し的な娯楽面に偏った読み物という位置付けとなっていた。

 そんな新聞も、今となっては魔神蹂躙という暗い世相からは解放され、文字どおりの”書入れ時”を迎えており、そのネタの宝庫として、恰好なターゲットになってしまったのが魔神憑きの異界人アデナ・サラギナーニアであるコータその人。

 領主としての動向や、その人となりに始まり――どの様な趣向を持っているのか?、はたまた何を好んで食べているのかなどにも目を向けた、彼個人への興味が巷の間から沸き上がり、新聞界隈ではちょっとした”コータ・ブーム”が起こっていた。

 しかし、その様な好感を促す内容ばかりではなく、例の”好色疑惑”だって、発端はこの新聞界隈……まあ、そのいわゆる”元ネタ”は、4族会議にオブザーバーとして参加したシンジの発言(※一応、オフレコ的なモノのはずだった)なので、根本の原因があの男である事は確かなのだが。


「――あら?、その言い方では『流石は』が抜けていますよ?

 私がこの世界に招いた救世の英雄と、彼に付き従う姉様の働きに掛かれば、当然の活躍だったと思いますけどね~♪」

 そう答えて、アルムの前でご機嫌に茶を啜っているのはミレーヌ――彼女も、変装気味に、今は伊達メガネを掛けていて、一国一種族の姫とはなかなか気づかれないであろう程に、平凡な扮装に身を包んでいた。


 二人は今、いわゆる『お忍びデート』中。

 カフェに立ち寄った二人は、卓の片隅に捨て置かれていた新聞を拾い、ソレに載っていた、かつての仲間が活躍しているという一報を、話題に挙げていたのだった。


 ミレーヌ――いや、エルフィの王族たちは既に、このワールアークに設けた亡命政府を解体し、樹都ユルランディアへと戻っては居たが、アルムと絶賛交際中である彼女は、度々の頻度でワールアークへとやって来ていた。


「――そりゃあ確かに、魔神もーどに掛かれば、デュルゴの成獣だって苦にしないだろうけど……僕が驚いているのは、彼のその胆力だよ。

 人ならざる力を得たとはいえ、異界では一介の民だった者が、即決に高潔な意思を示して、自ら危険な場へと赴くだなんて……それをやられては、貴族や王族を名乗る立場に居る、一国の王子として形無しだ」

 そう自虐染みた物越しで語ったアルムは、卓の上のコルベを啜り、その苦みを噛み締めた様な笑顔を見せる。

「……オマケに、彼は僕へ、こんな手紙まで送って来たんだしね」

 アルムは、コルベが入ったマグを卓上に置くと、空いた方の手の指に挟んだ一通の書簡をミレーヌに示した。

「⁉、あら……まあ!」

「――ふふ、あの島へと送ってしまったのは、ある意味、僕らの間違いだったかもしれないね」

 手紙の中身を見たミレーヌが驚いている様を向こうに、アルムは惜しむ表情を浮かべてそう呟いた。


 アルムがミレーヌに見せている書簡は、実はコータからのモノで――その内容を、コータが語る様に要約させて貰うと、こうだ。


『――執政官を主とした、ヒュマドからそのまま出向してくれた文官たち……俺が観た所じゃ、ありゃあイロイロと細工して、不正蓄財をしてやがるね。

 まっ、聡明なアルム王子の眼力じゃ、とっくにお見通しなんだろうし、ヒュマドの国の国益を考えたら、観なかった事にしておきたい――ってぇトコがホンネだろ?

 でも、それはあくまでも"国単位の思惑"であって、"王子自身の思惑"は違うんじゃあないのかい?

 出来れば……文官連中を潤してる、この島から漏れ出る金やモノの類の流入を減らして、連中の影響力を削いで置きたい――と、俺は思っているのだけれど?

 特に宰相プルグ――チャームル公に対して、王子アンタは腸が煮えくり返る思いを抱いてるんだろうね。

 無理もないわなぁ……例のシュランス谷の大敗劇へと世界を先導した張本人のクセに、別にその責任も取らず、自分たちが世界中、終いにゃその世界の境を超えてまで、魔神を封じるための旅に勤しんでる頃は、病気を理由に一線から退いてたはずなのに、魔神封じ成るの報せが知れ渡るは否や、ちゃっかり政権の中枢に戻ってるってのは、かなり虫が良過ぎる爺さんだなぁ……と、俺も思うよ。

 それでアンタは、奴らの身勝手さを糾弾して、王政の復古を画策してるはずだ――軍部の王侯派や、貴族議院のお偉いさん、エルフィ政府からの秘密裏な支援も受けたりしてね。

 王政復古――と言ったら、ちょっと大袈裟かな?

 アンタはきっと、かつてのサンペリエ帝みたく、全権をわれの名の下に――とまでは、考えていないだろうから、せいぜい魔神への対応を誤った、現政権の中核勢にガッツリ責任を取らせたいだけなんだろうし。


 実は、それに一枚、俺も噛ませて欲しくて、こうして『アイリス監視役様名義』で、この書簡を送らせて貰った――同じく監視役なジャンセンさんは気付いてないかもだけれど、俺からの公式書簡となったら、軍部の宰相派からも検閲が入って、何かと筒抜けになっちゃうだろ?、だから、”イロイロと私的な何某”が混じるかもな彼女の名義なら、慮って観ないだろうと思ってね♪

 あのチャームル爺さんは、小狡い執政官を通して、ウチの税収の中から上納金を巻き上げてるみたいでね――ソッチで失脚させてくれると、領主としては何かと助かるワケなのよ♪

 その証拠は、いずれ挙げようと思ってるから、ソレはアンタらの”粛清計画クーデター”にとっても、絶好の大義名分になるはず――興味があったら、連絡をくれると良いさ。

 以上――アイリスという名の、コータ・アデナ・サラギナーニア・ヤマノより』


 そう――これが、コータが海賊アジトにて触れていた、『既にイロイロと手を廻してる』のカラクリなのである。


「――僕らの企みを見抜いているのなら、側で手伝って貰うべきだったよ……」

 アルムは額に冷や汗を滲ませながらそう呟くと、何かを振り払おうとする様に、卓の上のコルベを喉元へと呷った。

「――うふふ♪、私は凱旋の旅の中から、とっくに気付いていましたよ?

 コータさんが、とても思慮深い方だというコトは♪」

 ミレーヌは、コータからの書簡を読み終えて、それを丁寧にたたむと、得意気にそう呟きながら、彼女も卓上の茶を啜った。

「……でも、良かったのかしら?、他国他族の者である私が、こんな機密書簡を読んでしまっても」

「ふっ……書簡ソコにもある、”エルフィからの秘密裏な支援”の胴元みたいな立場のキミが、それを言うのかい?」

 ミレーヌが、ハッとなった素振りで口元を抑えると、アルムはからかう口調でそうツッコんでみせた。

「――あらぁ~?、そういえばアイリス・ロトバナラとの”イロイロと私的な何某”という部分も、私が読んで良かったのかしら~?♪」

「うっ……ソコは、読まないで欲しかったかな……」

 ――と、したり顔でミレーヌが返した一点に、アルムはまたも表情に苦味を催してみせる。


 一部の者からの挙がっているという、”王子は、既に尻に敷かれている”という指摘は、強ち間違ってはいない様だ。


「――コホンっ!、どうやらコータ殿は、遠方の孤島に収まる人材ではない。

 この書簡に加え、今回のデュルゴ退治で、ソレは誰の目から観ても立証された――その彼が、僕を頼って……いや、利用しに来たんだ。

 僕も、自分の企みに彼の意図を利用させて貰う――それが、彼への最高の賛辞であり、最良の返答だと思うからね」

 カップをソーサーへとそっと戻したアルムは、ニヤリとした笑みを見せ、徐に顔の前で両手を組み、そこに鼻先をつけながらそう呟いた。

「――では、動くのですね?」

「ああ、チャームルの裏に潜む闇資金の流れ――ソコを突破口に見据えて、彼奴とランジュルデとの繋がりを攻めるつもりだよ」

 ミレーヌが真剣な表情で、アルムの意図を探る問いをすると、彼はまず小さく頷いて、策の概要を小声で吐露する。

王子王女私たちは、魔神蹂躙を経た今だからこそ、この世界には変革が必要だと思ってる。

 そして、この世界の歴史いにしえの事柄が示しているとおり、そんな変革に"魔の神の介入"は不可欠な要素」

「どうやら――そのための機会が来るのは、意外と速まりそうだよ」

 二人は、確認し合う様にそう呟き合うと、今度は息を合わせた様な同じタイミングで、卓上のカップに口をつけた。
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