23 / 207
御前会議
御前会議(後編)
しおりを挟む
「?!、!!!!!!、ええっ!?」
この、サトコの意見には、その場に居る誰もが驚いた。
――というか、会議に列席している公者たちは、さっきから驚いてばかりである。
「きゅっ!、急にどうしたと言うのです?!、皇様は幼少の頃から、遊戯でさえ争いを好まない方であったはず……」
サトコが子供の頃から、その成長を見届けて来たロクスケにとって、彼女の抗戦主張への驚きは、他の出席者よりも大きく、顔色を蒼ざめさせながら尋ねる。
「――確かに、私は争いを好みません。
ですが……先程言ったとおり、自らの民の虐殺を命じ、それを我らの所業だと濡れ衣を着せ、あまつさえ――それを理由に、我らの領内を侵そうしている……
この異様な状況では、もはや、不戦や和平という言葉は、意味を成さぬのではありませんか?」
「そっ、それは……でっ!、ですが、スヨウ側の主張の決定的な矛盾と、その証拠に値する証言が、こちらには有るのですっ!
それを突き付けられれば、民からの猛反発が起こり、戦どころではなくなるはずでは?」
「――ロクスケ、私は言ったはずです……"この異様な状況"と」
サトコは、冷たい目線をロクスケに向けながらそう言った。
「――えっ?」
それを、彼女の声のトーンで気付いたロクスケは、口を震わせながら問い返す。
「スヨウは――虐殺を行い、派兵の理由をでっち上げてまで、我らとの戦端を開こうとしているのですよ?、それは、当たり前の考えなどは通用しない――強固な戦意の表れです。
どのような事態を迎えようと、関せずに侵してくると考えるべきでは?」
「うっ……」
ロクスケは、そのサトコの問い掛けに、反論が思い付かず押し黙る。
「宰相――それは、皇様の仰るとおりだと思います」
サトコの援護に回って来たのは、外交を司っているヒロトだった。
「私は、直に交渉へ及んでいたからこそ解ります。
あの、コチラの言い分をまったく聞かない、スヨウの対応は明らかに不可解……ヤマカキの惨状を思えば、向こうも頭に血が昇っているだけとも思っていましたが――通常なら、ありえないと言って良い対応の数々、それらも、皇様の突飛に聞こえる主張に照らせば、全て合点が行きます」
「むう――確かに、そうかもしれぬが……」
ロクスケはそう唸って、更なるサトコの答えを待つ。
「――ヒロト、私の意見を解してくれて、ありがとう」
「はっ!」
ヒロトは、サトコへ深く平伏する。
「それに――絶対にあってはならない事ではありますが、もし、スヨウが民の中から、此度の動きに反する者が現われたら……ノブタツ様は、そちらにも矛を向けかねない――とも思っています」
サトコは、言葉を続けて、さらに予測される最悪の事態と、真の黒幕への推測も挙げた。
「くっ!、国守様、自らの御意向だと仰るのですか?!」
もう――ワケが解らなくなって来ていた、ロクスケでさえ、その推測にはさらに激しく狼狽した。
「――以前、ノブタツ様が、先世の弔問に来られた際……色々と今のツクモの状況について、様々な意見を交わしましたが――よくよく思い返せば、今回の暴挙を予期させる様なお話があったのです。
"このままでは、これまでの常識では考えられない事態が、このツクモに起きてしまう"と。
あの言葉は、この事態の事を指していて、それを起こすのが自分である――そう、仰っていた様に思えるのです」
サトコは、胸に手を当て、さらなる自分の推測を並べた。
「……」
ロクスケは、混乱しきって、既に返す言葉が見つからない。
そんな、ロクスケを無視するようにサトコは――
「それに――ソウタ、あなたがココに来るまでに見たという、近隣の状況についても、皆に話してもらえますか?」
――そう、黙って聞いていたソウタに、話を振った。
「――はい。
私は、ヨクセ商会の商隊に同行して、オウクまで来たのですが……その際、どこぞの暗衆の荷狩りと思しき、賊の襲撃を受けたのです」
「――っ?!、なんとぉ!」
驚いているのは、もちろん、右側に座る軍務の公者たちだ。
「ナリトモ殿!、うぬは報告を受けていたか?!」
カツトシは顔色を変えて、"第三軍"の将である、ナリトモにそう尋ねた。
以前――ツクモの軍事組織に関して、大概、"第五軍"が情報収集などの裏方任務の担当だと述べたが……言わば"永世中立"の立場である、コウオウの軍には、国外での戦闘を主とする、"他軍における第三軍"は存在しておらず、コウオウでは第三軍が、雑務を担当する軍団だった。
「――いっ、いぇ……街道沿いで、民間へのその様な件があったのは、聞き及んでいましたが――第五軍(※他で言う、後方支援担当の第六軍)の輸送には、襲撃の類の報はありませんでしたし、街道沿いの管轄は、クリ社の街道警務隊――」
「!、愚か者!、どんな些細な事でもっ!、把握しておくのが情報収集の意義であろう!?
しかも、宣戦を布告されたこの時勢に!、軍務も、民間も、管轄もあったモノかぁ?!
荷狩りは、攻め戦に置いて、敵方弱化の定石っ!、コウオウに至る全ての荷が、スヨウ方の標的に違いないであろうが?!」
カツトシは、顔面を真っ赤に染めて、怠惰な任務姿勢を露呈したナリトモを、強く叱責する。
「もっ、申し訳ありません……」
ナリトモは震えながら、その場に土下座する。
「――ナリトモ、今は結構……ソウタ、続けてください」
「はっ――私も、リョウゴ様の下で、兵法もある程度教わっておりますが……荷狩りは、戦況が硬直し、弱化によって突破口を開くための戦略……ですね?、大将」
カツトシは、何も言わず、黙ったまま大きく頷く。
「――つまり、"会戦前から"、それを行うというコトは……スヨウは、決着を急いでいるのではないかと、皇様には進言させて頂きました」
ソウタは言いきって、それを聞いての大将の返答を待つ。
カツトシは、渋い顔を見せながら――
「――うむ、ソウタ殿の推察は、ごもっともだと思います、皇様」
――ソウタの進言に太鼓判を押して、サトコに返した。
「それを聞いてですね……キヨネ、"ツクモ図"を、皆が観れる様に広げて貰えますか?」
サトコは、側に控えているキヨネに、壁に掛かっているツクモ図――いわば、世界地図を卓に広げるように命じた。
広げられた地図の中から、サトコはコウオウの場所を指差して――
「――知ってのとおり、我らの領内は、ツクモの中央部にあります。
そして、そのため――"三大国全てと境を接し、街道が全ての国と通じている"のも、もちろん解っていますね?」
確かに――コウオウは、南の大半がスヨウ、北東の一部にはハクキ連邦、そして――西側の一部は南コクエと、国境を接しており、陸路の大動脈を担っている地域だ。
「――始祖たるオウメ様が、世界を見守る任のためにこの地に住み、永世中立を宣言したコウオウの国を建国したのは……オオカミ様が掲げた"人という獣への枷"という、もう一つの役割のためです。
ノブタツ様は、その"枷"を引き千切り、世界中にその手を拡げるため――この地を自ら、切り取ろうとしているのだと思ったのです」
サトコは話し疲れたのか、ふぅと大きく息を吐く。
これまでの話を聞いた、皆の表情は――誰もが、その意見に、戦慄していたと言うのが適当だろう。
誰もが――"思ってはいた"はずなのだ。
コウオウが地を制すれば、世界征服も、現実味を帯びて来るのだと。
だが、聖域とされている、この翼域の地を征服するという発想自体が"タブー"であり、誰も実行出来ないのが、このツクモの常識――そのタブーを、ノブタツは強引に行なおうとしているのだと、サトコは言うのである。
これが、本来までなら、アブナイ妄想に過ぎない戯れ言に聞こえたが、異質な今の現状を思えば、決して"ありえない"とは、誰も言えなかった。
言い様の無い、重い沈黙が、主殿を支配する中――サトコは、さらに口を開く。
「満足に、戦などした事など無い我らが、戦時下を生き残るには――不戦への術を探るのが、我らの民とこの国を守るために、最良唯一の手段だというのは、重々解っています。
ですが、私は――"コウオウの君主"である前に、"世界を見守る皇"なのです。
故にこの、ツクモを覆おうとする大きな乱れを、此度の戦火を――この地で食い止める事の方が肝要であろうと思いました。
そして、此度のスヨウの所業は、ツクモ全体の民をも見守る存在である"皇"として、あってはならぬ事だとも。
この戦――"皇の名の下に"受けて立ち、武を持って!、スヨウが蛮行を諌めるべきだと考えております!」
サトコは拳を握り、皆の瞳を見渡して、自分の意向を全てを言い終えた。
サトコの話を聞き終えたロクスケは、険しい表情で彼女の目の前に出て――
「――わかりました。
皇様の主張に、反論の余地は無いかと存じます……皆様は、如何か?」
――言上を述べた後、振り返って他の公者に向けて、反論を問う。
数秒――沈黙が続き、それを受け、カツトシは徐に立ち上がり、ロクスケの隣にまで出て、サトコに対して一礼し――
「――我らは、皆、今生の皇様が意を成すために、この場に居る公者であります。
そして、その軍とは、皇様の御身を守るのと同時に、この不可侵の翼域の地を、それを侵そうとする者どもから、守り抜く事も、責務の一つにございます。
皇様から、その意向が示されたのなら――我らはっ!、矛持ちてっ!!、戦うために立ち上がるのみっ!」
――口を、真一文字に結び、大きく頷いて見せて、くるりと振り向いた。
「――各々方!、皇が意は下った!
我らの皇様をっ!、この聖域たる翼域をっ!、それらを守る!、我らの強固な意思をっ!、スヨウの蛮行者どもに、見せつけようぞぉぉぉぉっっっ!」
カツトシは、左手を突き上げ、雄叫びに似た怒号を主殿に響かせた!
「――うぉぉぉぉ~~~~~っ!、戦じゃあぁ~~~っ!」
まず、右側に座る軍務の諸将たちが立ち上がり、それに呼応して叫ぶと、続いて、文官の2人も立ち上がり、声こそ挙げないものの、決意に満ちた表情で拍手する。
サトコは、その様を見渡し、皆に向けて一礼をして――
「――皆の、奮起に、期待します……」
――と、大粒の涙を眼下に落とし、声も、身体も……震わせながら、そう言った。
皆――サトコの涙の意味には、あえて触れず……それを見ていないふりをして、勝ち鬨を挙げ続けた。
それは――彼女の涙の意味は、聞かずとも解るからだ。
これで、サトコはツクモ史上初めて、コウオウ軍に出兵を命じた皇となり、兵の命と、民の平穏な暮らしを奪ってしまう……"愚かな皇"となる、覚悟の涙なのだと。
末席で、その様子を見届けていたソウタは、ふと、サトコの泣き顔から、自分の手元へと目線を移し――
(――さて、俺は、そのキミの涙に……どうやって、応えてやるべきなんだろうな?)
――そう、金糸龍の指輪を見ながら思っていた…
この、サトコの意見には、その場に居る誰もが驚いた。
――というか、会議に列席している公者たちは、さっきから驚いてばかりである。
「きゅっ!、急にどうしたと言うのです?!、皇様は幼少の頃から、遊戯でさえ争いを好まない方であったはず……」
サトコが子供の頃から、その成長を見届けて来たロクスケにとって、彼女の抗戦主張への驚きは、他の出席者よりも大きく、顔色を蒼ざめさせながら尋ねる。
「――確かに、私は争いを好みません。
ですが……先程言ったとおり、自らの民の虐殺を命じ、それを我らの所業だと濡れ衣を着せ、あまつさえ――それを理由に、我らの領内を侵そうしている……
この異様な状況では、もはや、不戦や和平という言葉は、意味を成さぬのではありませんか?」
「そっ、それは……でっ!、ですが、スヨウ側の主張の決定的な矛盾と、その証拠に値する証言が、こちらには有るのですっ!
それを突き付けられれば、民からの猛反発が起こり、戦どころではなくなるはずでは?」
「――ロクスケ、私は言ったはずです……"この異様な状況"と」
サトコは、冷たい目線をロクスケに向けながらそう言った。
「――えっ?」
それを、彼女の声のトーンで気付いたロクスケは、口を震わせながら問い返す。
「スヨウは――虐殺を行い、派兵の理由をでっち上げてまで、我らとの戦端を開こうとしているのですよ?、それは、当たり前の考えなどは通用しない――強固な戦意の表れです。
どのような事態を迎えようと、関せずに侵してくると考えるべきでは?」
「うっ……」
ロクスケは、そのサトコの問い掛けに、反論が思い付かず押し黙る。
「宰相――それは、皇様の仰るとおりだと思います」
サトコの援護に回って来たのは、外交を司っているヒロトだった。
「私は、直に交渉へ及んでいたからこそ解ります。
あの、コチラの言い分をまったく聞かない、スヨウの対応は明らかに不可解……ヤマカキの惨状を思えば、向こうも頭に血が昇っているだけとも思っていましたが――通常なら、ありえないと言って良い対応の数々、それらも、皇様の突飛に聞こえる主張に照らせば、全て合点が行きます」
「むう――確かに、そうかもしれぬが……」
ロクスケはそう唸って、更なるサトコの答えを待つ。
「――ヒロト、私の意見を解してくれて、ありがとう」
「はっ!」
ヒロトは、サトコへ深く平伏する。
「それに――絶対にあってはならない事ではありますが、もし、スヨウが民の中から、此度の動きに反する者が現われたら……ノブタツ様は、そちらにも矛を向けかねない――とも思っています」
サトコは、言葉を続けて、さらに予測される最悪の事態と、真の黒幕への推測も挙げた。
「くっ!、国守様、自らの御意向だと仰るのですか?!」
もう――ワケが解らなくなって来ていた、ロクスケでさえ、その推測にはさらに激しく狼狽した。
「――以前、ノブタツ様が、先世の弔問に来られた際……色々と今のツクモの状況について、様々な意見を交わしましたが――よくよく思い返せば、今回の暴挙を予期させる様なお話があったのです。
"このままでは、これまでの常識では考えられない事態が、このツクモに起きてしまう"と。
あの言葉は、この事態の事を指していて、それを起こすのが自分である――そう、仰っていた様に思えるのです」
サトコは、胸に手を当て、さらなる自分の推測を並べた。
「……」
ロクスケは、混乱しきって、既に返す言葉が見つからない。
そんな、ロクスケを無視するようにサトコは――
「それに――ソウタ、あなたがココに来るまでに見たという、近隣の状況についても、皆に話してもらえますか?」
――そう、黙って聞いていたソウタに、話を振った。
「――はい。
私は、ヨクセ商会の商隊に同行して、オウクまで来たのですが……その際、どこぞの暗衆の荷狩りと思しき、賊の襲撃を受けたのです」
「――っ?!、なんとぉ!」
驚いているのは、もちろん、右側に座る軍務の公者たちだ。
「ナリトモ殿!、うぬは報告を受けていたか?!」
カツトシは顔色を変えて、"第三軍"の将である、ナリトモにそう尋ねた。
以前――ツクモの軍事組織に関して、大概、"第五軍"が情報収集などの裏方任務の担当だと述べたが……言わば"永世中立"の立場である、コウオウの軍には、国外での戦闘を主とする、"他軍における第三軍"は存在しておらず、コウオウでは第三軍が、雑務を担当する軍団だった。
「――いっ、いぇ……街道沿いで、民間へのその様な件があったのは、聞き及んでいましたが――第五軍(※他で言う、後方支援担当の第六軍)の輸送には、襲撃の類の報はありませんでしたし、街道沿いの管轄は、クリ社の街道警務隊――」
「!、愚か者!、どんな些細な事でもっ!、把握しておくのが情報収集の意義であろう!?
しかも、宣戦を布告されたこの時勢に!、軍務も、民間も、管轄もあったモノかぁ?!
荷狩りは、攻め戦に置いて、敵方弱化の定石っ!、コウオウに至る全ての荷が、スヨウ方の標的に違いないであろうが?!」
カツトシは、顔面を真っ赤に染めて、怠惰な任務姿勢を露呈したナリトモを、強く叱責する。
「もっ、申し訳ありません……」
ナリトモは震えながら、その場に土下座する。
「――ナリトモ、今は結構……ソウタ、続けてください」
「はっ――私も、リョウゴ様の下で、兵法もある程度教わっておりますが……荷狩りは、戦況が硬直し、弱化によって突破口を開くための戦略……ですね?、大将」
カツトシは、何も言わず、黙ったまま大きく頷く。
「――つまり、"会戦前から"、それを行うというコトは……スヨウは、決着を急いでいるのではないかと、皇様には進言させて頂きました」
ソウタは言いきって、それを聞いての大将の返答を待つ。
カツトシは、渋い顔を見せながら――
「――うむ、ソウタ殿の推察は、ごもっともだと思います、皇様」
――ソウタの進言に太鼓判を押して、サトコに返した。
「それを聞いてですね……キヨネ、"ツクモ図"を、皆が観れる様に広げて貰えますか?」
サトコは、側に控えているキヨネに、壁に掛かっているツクモ図――いわば、世界地図を卓に広げるように命じた。
広げられた地図の中から、サトコはコウオウの場所を指差して――
「――知ってのとおり、我らの領内は、ツクモの中央部にあります。
そして、そのため――"三大国全てと境を接し、街道が全ての国と通じている"のも、もちろん解っていますね?」
確かに――コウオウは、南の大半がスヨウ、北東の一部にはハクキ連邦、そして――西側の一部は南コクエと、国境を接しており、陸路の大動脈を担っている地域だ。
「――始祖たるオウメ様が、世界を見守る任のためにこの地に住み、永世中立を宣言したコウオウの国を建国したのは……オオカミ様が掲げた"人という獣への枷"という、もう一つの役割のためです。
ノブタツ様は、その"枷"を引き千切り、世界中にその手を拡げるため――この地を自ら、切り取ろうとしているのだと思ったのです」
サトコは話し疲れたのか、ふぅと大きく息を吐く。
これまでの話を聞いた、皆の表情は――誰もが、その意見に、戦慄していたと言うのが適当だろう。
誰もが――"思ってはいた"はずなのだ。
コウオウが地を制すれば、世界征服も、現実味を帯びて来るのだと。
だが、聖域とされている、この翼域の地を征服するという発想自体が"タブー"であり、誰も実行出来ないのが、このツクモの常識――そのタブーを、ノブタツは強引に行なおうとしているのだと、サトコは言うのである。
これが、本来までなら、アブナイ妄想に過ぎない戯れ言に聞こえたが、異質な今の現状を思えば、決して"ありえない"とは、誰も言えなかった。
言い様の無い、重い沈黙が、主殿を支配する中――サトコは、さらに口を開く。
「満足に、戦などした事など無い我らが、戦時下を生き残るには――不戦への術を探るのが、我らの民とこの国を守るために、最良唯一の手段だというのは、重々解っています。
ですが、私は――"コウオウの君主"である前に、"世界を見守る皇"なのです。
故にこの、ツクモを覆おうとする大きな乱れを、此度の戦火を――この地で食い止める事の方が肝要であろうと思いました。
そして、此度のスヨウの所業は、ツクモ全体の民をも見守る存在である"皇"として、あってはならぬ事だとも。
この戦――"皇の名の下に"受けて立ち、武を持って!、スヨウが蛮行を諌めるべきだと考えております!」
サトコは拳を握り、皆の瞳を見渡して、自分の意向を全てを言い終えた。
サトコの話を聞き終えたロクスケは、険しい表情で彼女の目の前に出て――
「――わかりました。
皇様の主張に、反論の余地は無いかと存じます……皆様は、如何か?」
――言上を述べた後、振り返って他の公者に向けて、反論を問う。
数秒――沈黙が続き、それを受け、カツトシは徐に立ち上がり、ロクスケの隣にまで出て、サトコに対して一礼し――
「――我らは、皆、今生の皇様が意を成すために、この場に居る公者であります。
そして、その軍とは、皇様の御身を守るのと同時に、この不可侵の翼域の地を、それを侵そうとする者どもから、守り抜く事も、責務の一つにございます。
皇様から、その意向が示されたのなら――我らはっ!、矛持ちてっ!!、戦うために立ち上がるのみっ!」
――口を、真一文字に結び、大きく頷いて見せて、くるりと振り向いた。
「――各々方!、皇が意は下った!
我らの皇様をっ!、この聖域たる翼域をっ!、それらを守る!、我らの強固な意思をっ!、スヨウの蛮行者どもに、見せつけようぞぉぉぉぉっっっ!」
カツトシは、左手を突き上げ、雄叫びに似た怒号を主殿に響かせた!
「――うぉぉぉぉ~~~~~っ!、戦じゃあぁ~~~っ!」
まず、右側に座る軍務の諸将たちが立ち上がり、それに呼応して叫ぶと、続いて、文官の2人も立ち上がり、声こそ挙げないものの、決意に満ちた表情で拍手する。
サトコは、その様を見渡し、皆に向けて一礼をして――
「――皆の、奮起に、期待します……」
――と、大粒の涙を眼下に落とし、声も、身体も……震わせながら、そう言った。
皆――サトコの涙の意味には、あえて触れず……それを見ていないふりをして、勝ち鬨を挙げ続けた。
それは――彼女の涙の意味は、聞かずとも解るからだ。
これで、サトコはツクモ史上初めて、コウオウ軍に出兵を命じた皇となり、兵の命と、民の平穏な暮らしを奪ってしまう……"愚かな皇"となる、覚悟の涙なのだと。
末席で、その様子を見届けていたソウタは、ふと、サトコの泣き顔から、自分の手元へと目線を移し――
(――さて、俺は、そのキミの涙に……どうやって、応えてやるべきなんだろうな?)
――そう、金糸龍の指輪を見ながら思っていた…
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる