流れ者のソウタ

緋野 真人

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知り過ぎた者たち

駆け引き

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「――オリエ、いってぇ何を考えていた?」

屋敷の居間に腰を下ろしたリュウジは、怪訝な表情でそうオリエに問うた。


「なんだい、藪から棒に……菓子なら今、レンが……」

「――とぼけるな、さっきの侍たちへ向けた態度……"カタギ"相手にする顔、じゃあなかったぜ?」

問いをはぐらかそうとするオリエに、リュウジは顔を険しく変貌させて、再度問い直す。


それにオリエは、苦笑いを浮かべてから、ショートカットに整えられた髪の毛を、軽く掻き上げて――

「――やっぱ、アンタは誤魔化せないかい。

解った――話すよ、アンタの腕っぷしが側にありゃ、良い抑止力にもなるだろうしね」

――と、観念した様子で言った。

「……てぇこたぁ、"キナ臭ぇ話"みてぇだな」

リュウジは、そう言いながら、気持ちを落ち着けようと、キセルに火を点けた。

――

――――

「――へぇ、あの新入り嬢ちゃんは、あの占報で言ってた事件ヤツの生き残りか」

ヤマカキ事変の真相を、オリエから伝え聞いたリュウジは、キセルの煙を吹かしながら、不敵な笑みを浮べてそう呟く。

「ああ、でも、あの娘が生きてるのは、スヨウにとっちゃ大問題――――てめぇらの仕業だと、どこぞにでも訴えられでもすりゃあ、厄介な事になっちまうからねぇ。

あの娘は、奴らにとって、邪魔者でしかねぇのさ」

オリエは、先程よりも険しい表情で、自分がこの事態において懸念している、最悪な展開を遠回しに告げた。

「――だから、あの侍たちは、新入り嬢ちゃんのタマを狙って来てる――と、思ってるってぇコトだな?

しっかし、おめぇんトコのバケモノは、随分と厄介なシロモノをおめぇに預けたモンだな」

リュウジは、キセルの灰をトンっと一度落とし、またも不敵な笑みを見せて言った。


「ソウタも、こんなに早く、スヨウあっちが、ココまで嗅ぎ付けて来るとは、思わなかっただろうさ。

それが、治外法権っていう金看板があるオウビにまで、わざわざ連れて来た理由だろうしね」

オリエは、ソウタを擁護する様に、今の状況が想定外の事態だと述べた。

「――オリエさん、あのお侍さんたちは……"違う"と思いますよ?」

そう言って、話に加わったのは、側で二人の会話を漏れ聞いていた、ユキであった。

「――えっ?、ユキ?、何を根拠に……あっ!」

不思議そうに、ユキの意見を否定しようとしたオリエは、ある事柄に気付く。

「そうか……嬢ちゃんには、侍連中の"界気"が見えるモンな」

リュウジも察し良く、ユキの、人間が放つ界気の色が見える特殊能力――"界気眼"とでも呼べそうな超能力ならば、ウソ発見機の要領で、ヨシゾウたちの思惑を図る事が出来ると気付いた。

「はい、特に――最初にレンちゃんに気付いた方は、外連味無く心底嬉しそう……いいえ、"やっと安心出来た"という感じの、とても優しい、界気の色をしていましたよ?」

「じゃあ――アタシの推測とは、別の思惑……別の命令で、動いている侍だってのかい?」

オリエは、頷くユキを横目に見ながら、顔を怪訝な表情に替えて、深く悩んで見せる。


「まあ、レンとあの若いのは、"唐突に抱き合っちまう様な仲"みてぇだったからねぇ。

アタシでも、バラす気で来たとは思なかったし、スヨウの侍だとは思いもしなかったよ」

オリエが、いっそう怪訝とした顔で、そう言った、その時――

「――どっ!、どういう仲だと思ってるんですかぁ?!」

――と、菓子が入った箱を持って来た、レンが抗議の声を挙げながら居間へとやって来た。


「あら、レン、地下の倉庫まで、ご苦労さま」

「あっ、はい、お菓子を二箱――って!、今の発言を誤魔化さないでください!」

レンはしっかり、ノリツッコミで、オリエのはぐらかしを見事に返し――

「――サスケさんとは、同じ村の出身で、子供の頃からお互いを知っている……いわゆる"幼馴染"っていうだけです!、変な勘ぐりは止めてください!」

――と、抗議の面を強めた言い方で、サスケとの接点カンケイを、端的に説明した。

「解ったわよぉ♪、ソウタには、そういう風に誤魔化しておくから――」

オリエは、そう言ってレンを茶化し、張り詰め始めていた居間の空気を、巧みに和ませそうとする。

「――!!!、"誤魔化し"ではありませんっ!、本当ですよぉ!」

――それに対して、そのための恰好の餌食となり得る性格なレンは、頬を真っ赤に染め、オリエの返答に抗議する。


恐らく――サスケに、抱き締められた事を思い出し、恥ずかしがってもいるのだろうが。

(ううっ……サスケさんは、軽々とあんなコトに及ぶ男性ひとじゃなかったのにぃ……きっと、オウザンの都で"そーいうコト"を覚えちゃったんだわっ!

覚えちゃってても、紳士的な態度は崩さない……ソウタさんみたいな誠実さも、ちゃんと心得ておくべきよっ!

――と、レンが紅潮した頬を膨らませて、そんな不満を心中で吐露したその時、木造の立派な門を、強く叩く音が響いた。




「――スヨウ第五軍、ヨシゾウであります!」

門の前で、ヨシゾウは声高に叫び、来訪を中に伝えた。


「――勝手に入っておくれ!、迎えも出さんで悪いが!」

――という、返ってきた、オリエの声に安堵し、ヨシゾウは――

「――構いません!、ではっ!」

――自分の後ろに控えている、サスケへも目配せをして、ゆっくりと門を開ける。


「隊長――凄い、屋敷ですよね……」

――と、サスケは門が開く様子を見て、溜め息を漏らす様にそう呟いた。


「ああ、流石は、天下に轟くヨクセ商会頭領の屋敷――極端に広いワケでもないのに、ヤグリのお城に匹敵した威厳を感じる」

ヨシゾウも、ぐるりと周りの庭を見渡しながら、ゴクリと生唾を呑んで気を引き締めた。


「――でも、何故、レンはこの様な重鎮の所で、世話に?」

サスケは、大きく首を傾げ、レンがココに居る経緯を疑う。


「先程――この街に潜んでいる、ウチの暗衆に、娘が無事だったという報告しらせの渡りをつけた際、尋ねてみたが――娘が、屋敷を定宿としているという流者に連れられ、ここを訪れたのは――"先の占報の翌日"らしい。

我らを例にしても、ヤマカキからココまでには、馬を使っても悠に5日は掛かる道程――事件の前に、何らかの事情で、村を離れていた――そう思うのが、恐らく妥当であろう」

「――ですが、接点が見えません……何よりも、"ヨクセの頭領との繋がり持つ流者"、という、奇妙な一点が」

サスケは、さらに悩む仕草を見せ、見えてきた玄関の暖簾を眺める。

「――なぁに、これから、娘本人に聞けば良いコトだ。

さっ、行こう――」

ヨシゾウが玄関の引き戸を開け、二人は屋敷の中に足を踏み入れた。

――

――――


二人が屋敷の門に入った後――その門の前に、通りすがりに見える町人風情が数人居る。

日が落ち、すっかり辺りが夜闇に包まれているのに、その町人たちは、ギョロギョロと眼を輝かせ、辺りを警戒している素振りを見せている。


――明らかに、高級住宅街の夜には、不釣合いな光景である。


その中の一人が、ボソッと小声でこう呟いた――

「――"特調二名"、屋敷に入った――これから、更に様子を窺う――」





「――いらっしゃい、まあ、座んな」

ヨシゾウとサスケを、居間へと通したオリエは、少し、ふてぶてしい物言いで、二人に着座を促した。


「はい、では、失礼して……」

ヨシゾウは、緊張した表情でそれに従い、素直に着座する。


――そんなやり取りを、リュウジとユキは、障子を挟んで隣りにあるオリエの書斎で、息を潜める様に聞いていた。


ドスを、直ちに抜刀出来る様に、側へと置いたリュウジは、極々小さな声で――

「――嬢ちゃん、アヤしい感じがしたら、俺の……"着物の裾を、ガッチリ握れ"よ?」

――と、ユキに伝え、彼女も無言のまま頷いた。


「先に――アタシの方から、喋っても良いかい?

あの娘を、女衒の類からでも"買った"と思われてちゃあ、大店の頭領としては心外なんでね」

オリエは、先程と同様に、不敵な笑みを見せながら、同時に険しい眼差しで二人を見据えて言う。

「――どうぞ」

緊張が、ちっとも晴れない様のヨシゾウは、それだけをどうにか言ってのけ、小さく挙げた手の平を目の前のオリエに向けた。


オリエは、一度頷き、自分の横に控える、レンの肩を抱き――

「――この娘は、七日前に、知り合いが"住み込めで雇ってやれねぇか?"と、アタシのトコに連れて来た娘だ……そんな娘に、スヨウのお侍さんが、一体何の用なんだい?

アタシは、今、この娘の雇い主――公者あんたたちが、スヨウのお国から"禄を食んでる"様に、この娘は、アタシから禄を食んでる――まず、アタシに筋を通すべきじゃないかい?」

――と、彼女を庇う様な態度で、彼らに思惑を開示する意思を問うた。

「なっ?!」

著しく不遜に見える、オリエの態度と言い分に、サスケは嫌悪の表情を浮かべた。

その様を見やり、グッとヨシゾウは、サスケの袖を強く握る。

(――?!)

サスケがふと、ヨシゾウの顔を見やると、真っ直ぐに視線をオリエに向け――

「――返す返す、非礼をお詫び申す……」

――と、一礼をして詫びた。


先程のリアクションを、制止の意味だと合点したサスケは、不満そうに目の前から視線を逸らす。


(それで良い――向こうの言い分は、筋が通っておる……堂々とした、彼女頭領の態度からすれば、悠に信ずるに値する。

駆け引き無く、我等の任務内容を、詳らかに伝えるのが正道であろう)

ヨシゾウは、心中でそう決めて――

「――食堂でも、それなりには述べたが……我らは、先の当国で起きた、ヤマカキ村での虐殺事件の調査を任されており、その作業の課程で、行方が掴めない事が解った、そこのレン嬢の捜索をこのオウビで行っておりました」

「随分と、ぶっ飛んだ捜し方をするねぇ……何か、タレコミでもあったのかい?」

オリエは、呆れて嘲笑うかの様に、彼らの不自然な捜索方法を揶揄しながら、その思惑を問う。

「知ってのとおり、当国はあの事件を、コウオウが悪臣に雇われた、流者の類の仕業と視ております。

それに因り、レン嬢をその賊らが連れ去り、ココの様な歓楽街に売られた可能性を想定して、我らは動いていたのです」

「――なるほど、なかなか鋭い読みだぁ。

そう言われりゃあ、ぶっ飛んでるとも言えないねぇ」

オリエは合点が行った表情で、微笑を浮べながらヨシゾウを見詰める。


(――これなら、生きていたと知っただけで、大人しく帰るのがフツーだけど……)

――と、オリエは警戒を緩めずに、今度はヨシゾウたちを見据えて――

「――それで?、この娘に何を望むんだい?」

「はい。

事が事件コトゆえ、もし虐殺から逃れ、生存者がいたならば――調査を任とする者としては、事件の仔細を知りたいのと、民への吉報となればと思い、探していたのですが……七日前から、コチラに居るというお話からすれば、我等の早合点だったようですなぁ」

ヨシゾウは、恥ずかしそうに後頭部を掻き、申し訳なさそうにオリエに頭を下げる。


(――よし!、コレで切り抜けられる!)

レンの奇跡の生還劇が、調査隊の勘違いに終わりそうな雰囲気に、オリエは心中で大きくガッツポーズをする。


無駄骨にはなってしまうが、ヨシゾウも、取り越し苦労で終わりそうなこの雰囲気には、正直言って歓迎して――

(任務――終了だな)

――という意味の目配せを、サスケに送る。


「――でも、何故キミは急に……その"頭領の知り合い"に、連れて来られたんだ?」

――が、サスケはそれを見ずに、直接、オリエの側で黙っているレンに尋ねた。

「!?、えっ――そっ!、それは……」

レンは、その返答に困り、狼狽する。


(――ちぃっ!、この若造ガキ!、丸く収まりそうな時に、余計な!)

――と、オリエは心中で頭を抱えながら、見た目ではサスケを無意識に睨み付ける。


「――確かに、ちょっと、妙ではあるな……良ければ、聞かせて貰えないかな?」

ヨシゾウも、それに便乗する様な恰好で、レンに答えを促す。


(このっ!、"終わりだ"って、顔をしてたクセにぃ~!)

オリエは、グッと拳を握り締め、ヨシゾウの心変わりに心中で憎らしい表情を浮かべる。


レンは――目の前の二人の視線に耐えかねたのか、下を向いて黙り込む。


(――レン!、頑張って!、アンタの返答次第で、この事態は穏便に終われるのよぉ!」

――と、オリエは心中でレンを応援していたが、当のレンの心中では――

(――イヤッ!、嘘を吐いて、誤魔化したくない……私の目の前で死んで逝った、父さんや母さん――村のみんなの事を、思ったらっ!!)

――と、覚悟を決めて口を開く。


「――私は、あの時、村に居て……国境警備隊のお侍さんたちに、襲われましたっ!」



「――!!!!!?!」

「――!!!!!?!」

「――あちゃぁ~っ!」

「?!、……!」

――その居間に居合わせた、ヨシゾウとサスケは、声も出ないほどに驚き、懸命にこの捜索をやり過ごそうとしていたオリエは、実際にも頭を抱え、大きく嘆いた。


「――っ!?」

隣りの書斎で状況を窺っていたユキは、レンの告白に反応した"4人目の誰か"の界気が、乱れるのを感じ取り、リュウジの着物の裾を強く握った。
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