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知り過ぎた者たち
駆け引き
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「――オリエ、いってぇ何を考えていた?」
屋敷の居間に腰を下ろしたリュウジは、怪訝な表情でそうオリエに問うた。
「なんだい、藪から棒に……菓子なら今、レンが……」
「――とぼけるな、さっきの侍たちへ向けた態度……"カタギ"相手にする顔、じゃあなかったぜ?」
問いをはぐらかそうとするオリエに、リュウジは顔を険しく変貌させて、再度問い直す。
それにオリエは、苦笑いを浮かべてから、ショートカットに整えられた髪の毛を、軽く掻き上げて――
「――やっぱ、アンタは誤魔化せないかい。
解った――話すよ、アンタの腕っぷしが側にありゃ、良い抑止力にもなるだろうしね」
――と、観念した様子で言った。
「……てぇこたぁ、"キナ臭ぇ話"みてぇだな」
リュウジは、そう言いながら、気持ちを落ち着けようと、キセルに火を点けた。
――
――――
「――へぇ、あの新入り嬢ちゃんは、あの占報で言ってた事件の生き残りか」
ヤマカキ事変の真相を、オリエから伝え聞いたリュウジは、キセルの煙を吹かしながら、不敵な笑みを浮べてそう呟く。
「ああ、でも、あの娘が生きてるのは、スヨウにとっちゃ大問題――――てめぇらの仕業だと、どこぞにでも訴えられでもすりゃあ、厄介な事になっちまうからねぇ。
あの娘は、奴らにとって、邪魔者でしかねぇのさ」
オリエは、先程よりも険しい表情で、自分がこの事態において懸念している、最悪な展開を遠回しに告げた。
「――だから、あの侍たちは、新入り嬢ちゃんの命を狙って来てる――と、思ってるってぇコトだな?
しっかし、おめぇんトコのバケモノは、随分と厄介なシロモノをおめぇに預けたモンだな」
リュウジは、キセルの灰をトンっと一度落とし、またも不敵な笑みを見せて言った。
「ソウタも、こんなに早く、スヨウが、ココまで嗅ぎ付けて来るとは、思わなかっただろうさ。
それが、治外法権っていう金看板があるオウビにまで、わざわざ連れて来た理由だろうしね」
オリエは、ソウタを擁護する様に、今の状況が想定外の事態だと述べた。
「――オリエさん、あのお侍さんたちは……"違う"と思いますよ?」
そう言って、話に加わったのは、側で二人の会話を漏れ聞いていた、ユキであった。
「――えっ?、ユキ?、何を根拠に……あっ!」
不思議そうに、ユキの意見を否定しようとしたオリエは、ある事柄に気付く。
「そうか……嬢ちゃんには、侍連中の"界気"が見えるモンな」
リュウジも察し良く、ユキの、人間が放つ界気の色が見える特殊能力――"界気眼"とでも呼べそうな超能力ならば、ウソ発見機の要領で、ヨシゾウたちの思惑を図る事が出来ると気付いた。
「はい、特に――最初にレンちゃんに気付いた方は、外連味無く心底嬉しそう……いいえ、"やっと安心出来た"という感じの、とても優しい、界気の色をしていましたよ?」
「じゃあ――アタシの推測とは、別の思惑……別の命令で、動いている侍だってのかい?」
オリエは、頷くユキを横目に見ながら、顔を怪訝な表情に替えて、深く悩んで見せる。
「まあ、レンとあの若いのは、"唐突に抱き合っちまう様な仲"みてぇだったからねぇ。
アタシでも、殺す気で来たとは思なかったし、スヨウの侍だとは思いもしなかったよ」
オリエが、いっそう怪訝とした顔で、そう言った、その時――
「――どっ!、どういう仲だと思ってるんですかぁ?!」
――と、菓子が入った箱を持って来た、レンが抗議の声を挙げながら居間へとやって来た。
「あら、レン、地下の倉庫まで、ご苦労さま」
「あっ、はい、お菓子を二箱――って!、今の発言を誤魔化さないでください!」
レンはしっかり、ノリツッコミで、オリエのはぐらかしを見事に返し――
「――サスケさんとは、同じ村の出身で、子供の頃からお互いを知っている……いわゆる"幼馴染"っていうだけです!、変な勘ぐりは止めてください!」
――と、抗議の面を強めた言い方で、サスケとの接点を、端的に説明した。
「解ったわよぉ♪、ソウタには、そういう風に誤魔化しておくから――」
オリエは、そう言ってレンを茶化し、張り詰め始めていた居間の空気を、巧みに和ませそうとする。
「――!!!、"誤魔化し"ではありませんっ!、本当ですよぉ!」
――それに対して、そのための恰好の餌食となり得る性格なレンは、頬を真っ赤に染め、オリエの返答に抗議する。
恐らく――男に、抱き締められた事を思い出し、恥ずかしがってもいるのだろうが。
(ううっ……サスケさんは、軽々とあんなコトに及ぶ男性じゃなかったのにぃ……きっと、オウザンの都で"そーいうコト"を覚えちゃったんだわっ!
覚えちゃってても、紳士的な態度は崩さない……ソウタさんみたいな誠実さも、ちゃんと心得ておくべきよっ!
――と、レンが紅潮した頬を膨らませて、そんな不満を心中で吐露したその時、木造の立派な門を、強く叩く音が響いた。
「――スヨウ第五軍、ヨシゾウであります!」
門の前で、ヨシゾウは声高に叫び、来訪を中に伝えた。
「――勝手に入っておくれ!、迎えも出さんで悪いが!」
――という、返ってきた、中の声に安堵し、ヨシゾウは――
「――構いません!、ではっ!」
――自分の後ろに控えている、サスケへも目配せをして、ゆっくりと門を開ける。
「隊長――凄い、屋敷ですよね……」
――と、サスケは門が開く様子を見て、溜め息を漏らす様にそう呟いた。
「ああ、流石は、天下に轟くヨクセ商会頭領の屋敷――極端に広いワケでもないのに、ヤグリのお城に匹敵した威厳を感じる」
ヨシゾウも、ぐるりと周りの庭を見渡しながら、ゴクリと生唾を呑んで気を引き締めた。
「――でも、何故、レンはこの様な重鎮の所で、世話に?」
サスケは、大きく首を傾げ、レンがココに居る経緯を疑う。
「先程――この街に潜んでいる、ウチの暗衆に、娘が無事だったという報告の渡りをつけた際、尋ねてみたが――娘が、屋敷を定宿としているという流者に連れられ、ここを訪れたのは――"先の占報の翌日"らしい。
我らを例にしても、ヤマカキからココまでには、馬を使っても悠に5日は掛かる道程――事件の前に、何らかの事情で、村を離れていた――そう思うのが、恐らく妥当であろう」
「――ですが、接点が見えません……何よりも、"ヨクセの頭領との繋がり持つ流者"、という、奇妙な一点が」
サスケは、さらに悩む仕草を見せ、見えてきた玄関の暖簾を眺める。
「――なぁに、これから、娘本人に聞けば良いコトだ。
さっ、行こう――」
ヨシゾウが玄関の引き戸を開け、二人は屋敷の中に足を踏み入れた。
――
――――
二人が屋敷の門に入った後――その門の前に、通りすがりに見える町人風情が数人居る。
日が落ち、すっかり辺りが夜闇に包まれているのに、その町人たちは、ギョロギョロと眼を輝かせ、辺りを警戒している素振りを見せている。
――明らかに、高級住宅街の夜には、不釣合いな光景である。
その中の一人が、ボソッと小声でこう呟いた――
「――"特調二名"、屋敷に入った――これから、更に様子を窺う――」
「――いらっしゃい、まあ、座んな」
ヨシゾウとサスケを、居間へと通したオリエは、少し、ふてぶてしい物言いで、二人に着座を促した。
「はい、では、失礼して……」
ヨシゾウは、緊張した表情でそれに従い、素直に着座する。
――そんなやり取りを、リュウジとユキは、障子を挟んで隣りにあるオリエの書斎で、息を潜める様に聞いていた。
刀を、直ちに抜刀出来る様に、側へと置いたリュウジは、極々小さな声で――
「――嬢ちゃん、アヤしい感じがしたら、俺の……"着物の裾を、ガッチリ握れ"よ?」
――と、ユキに伝え、彼女も無言のまま頷いた。
「先に――アタシの方から、喋っても良いかい?
あの娘を、女衒の類からでも"買った"と思われてちゃあ、大店の頭領としては心外なんでね」
オリエは、先程と同様に、不敵な笑みを見せながら、同時に険しい眼差しで二人を見据えて言う。
「――どうぞ」
緊張が、ちっとも晴れない様のヨシゾウは、それだけをどうにか言ってのけ、小さく挙げた手の平を目の前のオリエに向けた。
オリエは、一度頷き、自分の横に控える、レンの肩を抱き――
「――この娘は、七日前に、知り合いが"住み込めで雇ってやれねぇか?"と、アタシのトコに連れて来た娘だ……そんな娘に、スヨウのお侍さんが、一体何の用なんだい?
アタシは、今、この娘の雇い主――公者が、スヨウのお国から"禄を食んでる"様に、この娘は、アタシから禄を食んでる――まず、アタシに筋を通すべきじゃないかい?」
――と、彼女を庇う様な態度で、彼らに思惑を開示する意思を問うた。
「なっ?!」
著しく不遜に見える、オリエの態度と言い分に、サスケは嫌悪の表情を浮かべた。
その様を見やり、グッとヨシゾウは、サスケの袖を強く握る。
(――?!)
サスケがふと、ヨシゾウの顔を見やると、真っ直ぐに視線をオリエに向け――
「――返す返す、非礼をお詫び申す……」
――と、一礼をして詫びた。
先程のリアクションを、制止の意味だと合点したサスケは、不満そうに目の前から視線を逸らす。
(それで良い――向こうの言い分は、筋が通っておる……堂々とした、彼女の態度からすれば、悠に信ずるに値する。
駆け引き無く、我等の任務内容を、詳らかに伝えるのが正道であろう)
ヨシゾウは、心中でそう決めて――
「――食堂でも、それなりには述べたが……我らは、先の当国で起きた、ヤマカキ村での虐殺事件の調査を任されており、その作業の課程で、行方が掴めない事が解った、そこのレン嬢の捜索をこのオウビで行っておりました」
「随分と、ぶっ飛んだ捜し方をするねぇ……何か、タレコミでもあったのかい?」
オリエは、呆れて嘲笑うかの様に、彼らの不自然な捜索方法を揶揄しながら、その思惑を問う。
「知ってのとおり、当国はあの事件を、コウオウが悪臣に雇われた、流者の類の仕業と視ております。
それに因り、レン嬢をその賊らが連れ去り、ココの様な歓楽街に売られた可能性を想定して、我らは動いていたのです」
「――なるほど、なかなか鋭い読みだぁ。
そう言われりゃあ、ぶっ飛んでるとも言えないねぇ」
オリエは合点が行った表情で、微笑を浮べながらヨシゾウを見詰める。
(――これなら、生きていたと知っただけで、大人しく帰るのがフツーだけど……)
――と、オリエは警戒を緩めずに、今度はヨシゾウたちを見据えて――
「――それで?、この娘に何を望むんだい?」
「はい。
事が事件ゆえ、もし虐殺から逃れ、生存者がいたならば――調査を任とする者としては、事件の仔細を知りたいのと、民への吉報となればと思い、探していたのですが……七日前から、コチラに居るというお話からすれば、我等の早合点だったようですなぁ」
ヨシゾウは、恥ずかしそうに後頭部を掻き、申し訳なさそうにオリエに頭を下げる。
(――よし!、コレで切り抜けられる!)
レンの奇跡の生還劇が、調査隊の勘違いに終わりそうな雰囲気に、オリエは心中で大きくガッツポーズをする。
無駄骨にはなってしまうが、ヨシゾウも、取り越し苦労で終わりそうなこの雰囲気には、正直言って歓迎して――
(任務――終了だな)
――という意味の目配せを、サスケに送る。
「――でも、何故キミは急に……その"頭領の知り合い"に、連れて来られたんだ?」
――が、サスケはそれを見ずに、直接、オリエの側で黙っているレンに尋ねた。
「!?、えっ――そっ!、それは……」
レンは、その返答に困り、狼狽する。
(――ちぃっ!、この若造!、丸く収まりそうな時に、余計な!)
――と、オリエは心中で頭を抱えながら、見た目ではサスケを無意識に睨み付ける。
「――確かに、ちょっと、妙ではあるな……良ければ、聞かせて貰えないかな?」
ヨシゾウも、それに便乗する様な恰好で、レンに答えを促す。
(このっ!、"終わりだ"って、顔をしてたクセにぃ~!)
オリエは、グッと拳を握り締め、ヨシゾウの心変わりに心中で憎らしい表情を浮かべる。
レンは――目の前の二人の視線に耐えかねたのか、下を向いて黙り込む。
(――レン!、頑張って!、アンタの返答次第で、この事態は穏便に終われるのよぉ!」
――と、オリエは心中でレンを応援していたが、当のレンの心中では――
(――イヤッ!、嘘を吐いて、誤魔化したくない……私の目の前で死んで逝った、父さんや母さん――村のみんなの事を、思ったらっ!!)
――と、覚悟を決めて口を開く。
「――私は、あの時、村に居て……国境警備隊のお侍さんたちに、襲われましたっ!」
「――!!!!!?!」
「――!!!!!?!」
「――あちゃぁ~っ!」
「?!、……!」
――その居間に居合わせた、ヨシゾウとサスケは、声も出ないほどに驚き、懸命にこの捜索をやり過ごそうとしていたオリエは、実際にも頭を抱え、大きく嘆いた。
「――っ!?」
隣りの書斎で状況を窺っていたユキは、レンの告白に反応した"4人目の誰か"の界気が、乱れるのを感じ取り、リュウジの着物の裾を強く握った。
屋敷の居間に腰を下ろしたリュウジは、怪訝な表情でそうオリエに問うた。
「なんだい、藪から棒に……菓子なら今、レンが……」
「――とぼけるな、さっきの侍たちへ向けた態度……"カタギ"相手にする顔、じゃあなかったぜ?」
問いをはぐらかそうとするオリエに、リュウジは顔を険しく変貌させて、再度問い直す。
それにオリエは、苦笑いを浮かべてから、ショートカットに整えられた髪の毛を、軽く掻き上げて――
「――やっぱ、アンタは誤魔化せないかい。
解った――話すよ、アンタの腕っぷしが側にありゃ、良い抑止力にもなるだろうしね」
――と、観念した様子で言った。
「……てぇこたぁ、"キナ臭ぇ話"みてぇだな」
リュウジは、そう言いながら、気持ちを落ち着けようと、キセルに火を点けた。
――
――――
「――へぇ、あの新入り嬢ちゃんは、あの占報で言ってた事件の生き残りか」
ヤマカキ事変の真相を、オリエから伝え聞いたリュウジは、キセルの煙を吹かしながら、不敵な笑みを浮べてそう呟く。
「ああ、でも、あの娘が生きてるのは、スヨウにとっちゃ大問題――――てめぇらの仕業だと、どこぞにでも訴えられでもすりゃあ、厄介な事になっちまうからねぇ。
あの娘は、奴らにとって、邪魔者でしかねぇのさ」
オリエは、先程よりも険しい表情で、自分がこの事態において懸念している、最悪な展開を遠回しに告げた。
「――だから、あの侍たちは、新入り嬢ちゃんの命を狙って来てる――と、思ってるってぇコトだな?
しっかし、おめぇんトコのバケモノは、随分と厄介なシロモノをおめぇに預けたモンだな」
リュウジは、キセルの灰をトンっと一度落とし、またも不敵な笑みを見せて言った。
「ソウタも、こんなに早く、スヨウが、ココまで嗅ぎ付けて来るとは、思わなかっただろうさ。
それが、治外法権っていう金看板があるオウビにまで、わざわざ連れて来た理由だろうしね」
オリエは、ソウタを擁護する様に、今の状況が想定外の事態だと述べた。
「――オリエさん、あのお侍さんたちは……"違う"と思いますよ?」
そう言って、話に加わったのは、側で二人の会話を漏れ聞いていた、ユキであった。
「――えっ?、ユキ?、何を根拠に……あっ!」
不思議そうに、ユキの意見を否定しようとしたオリエは、ある事柄に気付く。
「そうか……嬢ちゃんには、侍連中の"界気"が見えるモンな」
リュウジも察し良く、ユキの、人間が放つ界気の色が見える特殊能力――"界気眼"とでも呼べそうな超能力ならば、ウソ発見機の要領で、ヨシゾウたちの思惑を図る事が出来ると気付いた。
「はい、特に――最初にレンちゃんに気付いた方は、外連味無く心底嬉しそう……いいえ、"やっと安心出来た"という感じの、とても優しい、界気の色をしていましたよ?」
「じゃあ――アタシの推測とは、別の思惑……別の命令で、動いている侍だってのかい?」
オリエは、頷くユキを横目に見ながら、顔を怪訝な表情に替えて、深く悩んで見せる。
「まあ、レンとあの若いのは、"唐突に抱き合っちまう様な仲"みてぇだったからねぇ。
アタシでも、殺す気で来たとは思なかったし、スヨウの侍だとは思いもしなかったよ」
オリエが、いっそう怪訝とした顔で、そう言った、その時――
「――どっ!、どういう仲だと思ってるんですかぁ?!」
――と、菓子が入った箱を持って来た、レンが抗議の声を挙げながら居間へとやって来た。
「あら、レン、地下の倉庫まで、ご苦労さま」
「あっ、はい、お菓子を二箱――って!、今の発言を誤魔化さないでください!」
レンはしっかり、ノリツッコミで、オリエのはぐらかしを見事に返し――
「――サスケさんとは、同じ村の出身で、子供の頃からお互いを知っている……いわゆる"幼馴染"っていうだけです!、変な勘ぐりは止めてください!」
――と、抗議の面を強めた言い方で、サスケとの接点を、端的に説明した。
「解ったわよぉ♪、ソウタには、そういう風に誤魔化しておくから――」
オリエは、そう言ってレンを茶化し、張り詰め始めていた居間の空気を、巧みに和ませそうとする。
「――!!!、"誤魔化し"ではありませんっ!、本当ですよぉ!」
――それに対して、そのための恰好の餌食となり得る性格なレンは、頬を真っ赤に染め、オリエの返答に抗議する。
恐らく――男に、抱き締められた事を思い出し、恥ずかしがってもいるのだろうが。
(ううっ……サスケさんは、軽々とあんなコトに及ぶ男性じゃなかったのにぃ……きっと、オウザンの都で"そーいうコト"を覚えちゃったんだわっ!
覚えちゃってても、紳士的な態度は崩さない……ソウタさんみたいな誠実さも、ちゃんと心得ておくべきよっ!
――と、レンが紅潮した頬を膨らませて、そんな不満を心中で吐露したその時、木造の立派な門を、強く叩く音が響いた。
「――スヨウ第五軍、ヨシゾウであります!」
門の前で、ヨシゾウは声高に叫び、来訪を中に伝えた。
「――勝手に入っておくれ!、迎えも出さんで悪いが!」
――という、返ってきた、中の声に安堵し、ヨシゾウは――
「――構いません!、ではっ!」
――自分の後ろに控えている、サスケへも目配せをして、ゆっくりと門を開ける。
「隊長――凄い、屋敷ですよね……」
――と、サスケは門が開く様子を見て、溜め息を漏らす様にそう呟いた。
「ああ、流石は、天下に轟くヨクセ商会頭領の屋敷――極端に広いワケでもないのに、ヤグリのお城に匹敵した威厳を感じる」
ヨシゾウも、ぐるりと周りの庭を見渡しながら、ゴクリと生唾を呑んで気を引き締めた。
「――でも、何故、レンはこの様な重鎮の所で、世話に?」
サスケは、大きく首を傾げ、レンがココに居る経緯を疑う。
「先程――この街に潜んでいる、ウチの暗衆に、娘が無事だったという報告の渡りをつけた際、尋ねてみたが――娘が、屋敷を定宿としているという流者に連れられ、ここを訪れたのは――"先の占報の翌日"らしい。
我らを例にしても、ヤマカキからココまでには、馬を使っても悠に5日は掛かる道程――事件の前に、何らかの事情で、村を離れていた――そう思うのが、恐らく妥当であろう」
「――ですが、接点が見えません……何よりも、"ヨクセの頭領との繋がり持つ流者"、という、奇妙な一点が」
サスケは、さらに悩む仕草を見せ、見えてきた玄関の暖簾を眺める。
「――なぁに、これから、娘本人に聞けば良いコトだ。
さっ、行こう――」
ヨシゾウが玄関の引き戸を開け、二人は屋敷の中に足を踏み入れた。
――
――――
二人が屋敷の門に入った後――その門の前に、通りすがりに見える町人風情が数人居る。
日が落ち、すっかり辺りが夜闇に包まれているのに、その町人たちは、ギョロギョロと眼を輝かせ、辺りを警戒している素振りを見せている。
――明らかに、高級住宅街の夜には、不釣合いな光景である。
その中の一人が、ボソッと小声でこう呟いた――
「――"特調二名"、屋敷に入った――これから、更に様子を窺う――」
「――いらっしゃい、まあ、座んな」
ヨシゾウとサスケを、居間へと通したオリエは、少し、ふてぶてしい物言いで、二人に着座を促した。
「はい、では、失礼して……」
ヨシゾウは、緊張した表情でそれに従い、素直に着座する。
――そんなやり取りを、リュウジとユキは、障子を挟んで隣りにあるオリエの書斎で、息を潜める様に聞いていた。
刀を、直ちに抜刀出来る様に、側へと置いたリュウジは、極々小さな声で――
「――嬢ちゃん、アヤしい感じがしたら、俺の……"着物の裾を、ガッチリ握れ"よ?」
――と、ユキに伝え、彼女も無言のまま頷いた。
「先に――アタシの方から、喋っても良いかい?
あの娘を、女衒の類からでも"買った"と思われてちゃあ、大店の頭領としては心外なんでね」
オリエは、先程と同様に、不敵な笑みを見せながら、同時に険しい眼差しで二人を見据えて言う。
「――どうぞ」
緊張が、ちっとも晴れない様のヨシゾウは、それだけをどうにか言ってのけ、小さく挙げた手の平を目の前のオリエに向けた。
オリエは、一度頷き、自分の横に控える、レンの肩を抱き――
「――この娘は、七日前に、知り合いが"住み込めで雇ってやれねぇか?"と、アタシのトコに連れて来た娘だ……そんな娘に、スヨウのお侍さんが、一体何の用なんだい?
アタシは、今、この娘の雇い主――公者が、スヨウのお国から"禄を食んでる"様に、この娘は、アタシから禄を食んでる――まず、アタシに筋を通すべきじゃないかい?」
――と、彼女を庇う様な態度で、彼らに思惑を開示する意思を問うた。
「なっ?!」
著しく不遜に見える、オリエの態度と言い分に、サスケは嫌悪の表情を浮かべた。
その様を見やり、グッとヨシゾウは、サスケの袖を強く握る。
(――?!)
サスケがふと、ヨシゾウの顔を見やると、真っ直ぐに視線をオリエに向け――
「――返す返す、非礼をお詫び申す……」
――と、一礼をして詫びた。
先程のリアクションを、制止の意味だと合点したサスケは、不満そうに目の前から視線を逸らす。
(それで良い――向こうの言い分は、筋が通っておる……堂々とした、彼女の態度からすれば、悠に信ずるに値する。
駆け引き無く、我等の任務内容を、詳らかに伝えるのが正道であろう)
ヨシゾウは、心中でそう決めて――
「――食堂でも、それなりには述べたが……我らは、先の当国で起きた、ヤマカキ村での虐殺事件の調査を任されており、その作業の課程で、行方が掴めない事が解った、そこのレン嬢の捜索をこのオウビで行っておりました」
「随分と、ぶっ飛んだ捜し方をするねぇ……何か、タレコミでもあったのかい?」
オリエは、呆れて嘲笑うかの様に、彼らの不自然な捜索方法を揶揄しながら、その思惑を問う。
「知ってのとおり、当国はあの事件を、コウオウが悪臣に雇われた、流者の類の仕業と視ております。
それに因り、レン嬢をその賊らが連れ去り、ココの様な歓楽街に売られた可能性を想定して、我らは動いていたのです」
「――なるほど、なかなか鋭い読みだぁ。
そう言われりゃあ、ぶっ飛んでるとも言えないねぇ」
オリエは合点が行った表情で、微笑を浮べながらヨシゾウを見詰める。
(――これなら、生きていたと知っただけで、大人しく帰るのがフツーだけど……)
――と、オリエは警戒を緩めずに、今度はヨシゾウたちを見据えて――
「――それで?、この娘に何を望むんだい?」
「はい。
事が事件ゆえ、もし虐殺から逃れ、生存者がいたならば――調査を任とする者としては、事件の仔細を知りたいのと、民への吉報となればと思い、探していたのですが……七日前から、コチラに居るというお話からすれば、我等の早合点だったようですなぁ」
ヨシゾウは、恥ずかしそうに後頭部を掻き、申し訳なさそうにオリエに頭を下げる。
(――よし!、コレで切り抜けられる!)
レンの奇跡の生還劇が、調査隊の勘違いに終わりそうな雰囲気に、オリエは心中で大きくガッツポーズをする。
無駄骨にはなってしまうが、ヨシゾウも、取り越し苦労で終わりそうなこの雰囲気には、正直言って歓迎して――
(任務――終了だな)
――という意味の目配せを、サスケに送る。
「――でも、何故キミは急に……その"頭領の知り合い"に、連れて来られたんだ?」
――が、サスケはそれを見ずに、直接、オリエの側で黙っているレンに尋ねた。
「!?、えっ――そっ!、それは……」
レンは、その返答に困り、狼狽する。
(――ちぃっ!、この若造!、丸く収まりそうな時に、余計な!)
――と、オリエは心中で頭を抱えながら、見た目ではサスケを無意識に睨み付ける。
「――確かに、ちょっと、妙ではあるな……良ければ、聞かせて貰えないかな?」
ヨシゾウも、それに便乗する様な恰好で、レンに答えを促す。
(このっ!、"終わりだ"って、顔をしてたクセにぃ~!)
オリエは、グッと拳を握り締め、ヨシゾウの心変わりに心中で憎らしい表情を浮かべる。
レンは――目の前の二人の視線に耐えかねたのか、下を向いて黙り込む。
(――レン!、頑張って!、アンタの返答次第で、この事態は穏便に終われるのよぉ!」
――と、オリエは心中でレンを応援していたが、当のレンの心中では――
(――イヤッ!、嘘を吐いて、誤魔化したくない……私の目の前で死んで逝った、父さんや母さん――村のみんなの事を、思ったらっ!!)
――と、覚悟を決めて口を開く。
「――私は、あの時、村に居て……国境警備隊のお侍さんたちに、襲われましたっ!」
「――!!!!!?!」
「――!!!!!?!」
「――あちゃぁ~っ!」
「?!、……!」
――その居間に居合わせた、ヨシゾウとサスケは、声も出ないほどに驚き、懸命にこの捜索をやり過ごそうとしていたオリエは、実際にも頭を抱え、大きく嘆いた。
「――っ!?」
隣りの書斎で状況を窺っていたユキは、レンの告白に反応した"4人目の誰か"の界気が、乱れるのを感じ取り、リュウジの着物の裾を強く握った。
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