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緒戦
緒戦(後編)
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「――飛翔部隊四十五名、全員配置に着きました」
鬱蒼と生い茂る、背の高い草が犇めき合う草むらの中に、身を潜めている甲冑を纏った若い男が、声も潜めてそう言った。
"甲冑"、とは表したが、その鎧の背の部分には、左右に大きなスペースが2つ開いており、それを纏った男の背には、大きな天使の羽根の様な翼が生えている。
明らかに、亜人種の類ではあるが――狼族の様に獣の顔ではなく、顔は完全にヒトだ。
これが、スヨウ建国の昔語りにもある亜人種――鳳族の姿である。
「――よし、後は手筈どおり、身を潜めたまま、ここで夜を明かす。
本陣からの狼煙に合わせて飛翔し、丘上の敵陣に突貫――良いな?」
「はっ!」
飛翔部隊の隊長らしき鳳族は、そう下知をして、付き従う他の鳳族も力強く頷いて身を屈めた。
「――お~!、居るよ居るよぉ~!、沢山の鳳族が!」
その、鳳族が潜む草むらから、少し離れた別の場所で、タマはニヤニヤと笑いながら、極々小さな声でそう言った。
「これが、野鳥の群れだったら、明日は朝から焼き鳥パーティーなのになぁ」
ついでに、タマは残念そうに、そんな軽口を叩く。
「――タマさん、外見的特性を揶揄するのは、御法度ですよ?
タマさんだって、猫に例えられるのは、イヤでしょう?」
そう、タマの発言に釘を刺したのはカオリ――ではなく、"自称"マタザである。
"自称"マタザの言うとおり――亜人種の外見的特性を卑下したりするのは、ツクモでは重大なマナー違反として知られている。
それらを認め合う事こそが、民族和解の第一歩であると、スヨウを建国したノブヨリが演説の中で語った事は、ツクモの民の常識となっている。
「そんなの解ってるよう!、ホント、カオリには冗談が通じないなぁ」
タマは頬を膨らませながら、草むらを改めて凝視する。
「でっ!、ですから、私はマタザ――ぐすっ、もう、良いですよぉ……」
"自称"マタザは少し涙ぐみ、不満気に頬を膨らます。
「おふざけは良いから、タマ――何人居る?、それが知りたいんだよ」
ソウタは、ちょっと苛立つ素振りをして、夜目が効くタマに見える敵の人数を尋ねる。
「う~ん……三十?、四十――五十人、居るかなぁ?、ざっとは、そんぐらいだね」
タマがそう答えると、ギンは得心した表情で――
「――やはり、少ないな。
セイクに住んでいても、鳳族とはあまり出会わなくなっていたし、鳳族の減少は、セイクの様な田舎でも、ウワサになっていたぐらいだからな」
――と、以前聞いたという、集落内での話題を持ち出す。
「ええ、去年――でしたね。
クリ社の中でも、鳳族の減少が問題となったのは」
"自称"マタザも、ギンに応じる様に、話へ割って入る。
「まっ、だからって――俺たちも、アイツらも、これからやろうとしているのは、戦っていう"殺し合い"だ……絶滅の危惧さえ囁かれている鳳族だって、それに足を踏み入れた以上は、敵となったら殺るしかねぇよ」
――と、ソウタは冷たく、ドライにそう言い放った。
「――で?、どんな武装を提げてた?」
「ほとんどが長槍だったね。
あと、弓と矢――空から突いたり、射たりするのを見越してるんだと思う」
ソウタの問いに、タマは私見も含めて、的確に返答する。
「どれも、草むらで立ち回るには不向きな武器――気付かれて、襲撃される想定はしていないな……好都合だ」
ギンは、また得心した表情で相槌を入れる。
「――だな、これなら――」
ソウタが、何かを言おうとした、その時――
「――ですが、タマさんの見立てだけでも、敵の数は単純に我らの十倍。
ソウタ殿、やはり、この数での夜襲には、無理が――」
――と、"自称"マタザは、真一文字に口を結んで、怪訝な声を挙げた。
「――いや、地形に不向きな武装と、夜襲を喰らう事を想定はしていない油断。
これなら、"俺たちだけで全滅させられる"と思うよ」
ソウタは、"自称"マタザの意見を、一刀両断に斬り捨てる様な、かなり強気な発言をする!
「――?!、なっ……」
"自称"マタザは、そのソウタの意見の衝撃に、一旦、言葉を失う。
「――タマ、何人、相手に出来る?」
ソウタは、すっかり呆けてしまった"自称"マタザを無視して、タマへ相談を始める。
「う~ん……あんなにナメた様子なら、兵士相手だとしても、十五人はイケるかなぁ?」
「!!!、じゅっ!、十五ぉ?!」
タマが、サラッと言ってのけた数に、"自称"マタザは口を開け放って驚く。
「悪いが、俺は二~三人が限度だな。
その"地形に向かない"、弓矢が主だからな」
――と、ギンは前口を打って、自分の想定を吐露する。
「ああ、ギンに関しては、元々そのつもり――牽制とか、援護を頼みたくて選んだしな」
ソウタは、ポリポリと自分のこめかみを掻きながら、ギンに自分の考えを伝える。
「あっ、ギンの援護付きなら――二十でも余裕かも!」
タマは、これまでの会話を聞き、想定を訂正した。
「……」
"自称"マタザは、口を開けたまま――
(――ソッ、ソウタ殿だけではない……のか?、傑出した武勇を誇る流者とは!
単身で、数十名の兵と渡り合えるというのは、大武会十六傑級――それに匹敵、いや!、凌ぐ程の猛者が、ココに幾人も?
それも、大武会不参加のまま居るだなんて……ましてや、コケツの出とはいえ、タマさんはまだ、十六の少女なのだぞ?!)
――今度は、驚きではなく、歓喜の笑みを浮かべ、カオリは思わず、深く被った帽子を外す。
(すごい!、凄い経験をしているのだ!、私は!)
カオリは、カタカタと武者震いをして、熱く高揚してみせる。
「カオリさんも……慣れない太刀でも、五~六人ならイケるでしょ?」
ソウタは到って軽く、カオリに戦果の想定を尋ねる。
「はっ、はい!、もちろん、大丈夫です!」
カオリは、呼び名の訂正を言う事も忘れ、両手でガッツポースまで造って、ソウタの問いに明朗に応じた。
「――よし、後の二十を、俺がなんとかすりゃあ……敵の戦意を、ガタ落ちさせそうな結果が出せるな。
じゃあ、夜目が効くタマを先頭に、皆で付いて行って――ギンは、手頃なトコで立ち止まって束ね矢を射って、敵を散らせてくれ。
俺とカオリさんは、そのままタマに付いて行って、タマの目を頼りに集団突貫して、叩けるだけ叩く――良いな?」
ソウタの策の説明に、3人は強く頷いた。
「――!?」
草むらが揺れる音を聞いて、すっかり待機モードだった鳳族たちの間に、否応無しの緊張が奔った!
「なんだ?、獣――か?」
鳳族の一人は、野生の獣が走り抜ける音かと思ったが、矢が宙を奔る音と、それがバラける音を聞いて、表情を一変させる!
「?!、敵襲だ!」
鳳族たちは、その怒号に一斉に反応し、屈む体性を止めて慌てて散開する。
放たれた矢の殆どは、背の高い草に当たって落ちてしまったが、数人の腕や肩、足に命中して、その痛みが散開を阻害する。
「くっ!、敵は――どこだっ!?」
――と、長槍を構え、本格的な襲撃に備える者の前の草むらが大きく揺れ、ソコからタマが、ニヤッと笑いながら飛び出す!
「?!」
――ドゴッォ!
「ぐはあぁっ!!!」
強烈な正拳突きが、甲冑の繋ぎ目を鋭く捉え、その鳳族の瞳は一気に白目だけに替わり、完全にその者は失神た。
側で同じく、槍を構えていた鳳族は、タマの姿を見つけて、一斉に攻撃を仕掛けようとするが――
「――くっ!、槍が、振るえん!」
――背の高い草が、槍の柄に絡み、上手く振るえない!
「――バカ!、太刀に替えろ!、槍では――」
――と、一人の兵が、一応は皆、腰に提げている刀に替える様に、高々と言わ張るが――
「――ぎゃあっ?!」
――そこまで言って、ソウタの斬撃を喰らって倒れ込む。
「――やあやあっ!、我こそは!、皇様の意思に参じ、暴国に鉄槌を下さんとする――モガッ?!」
高らかと、言上を叫んでから突貫しようとしている、"自称"マタザ(※帽子を被り直したので)は、草むらから刀を振り上げたトコロで、ソウタに口を抑えられ、半ば羽交い絞めにされてしまう。
「はいはい、そーいうのは、また今度にしてくださいねぇ……奇襲ってのは、モタモタ出来ないから――あっ、来た」
"自称"マタザに斬りかかる、槍を放った鳳族に気付き、ソウタがスッと彼(?)を解放すると――
「――ぐぅっ!」
――素早い太刀筋で、敵の胴を捉え、彼(?)は息も乱さずに斬り捨てて見せた。
「へぇ、太刀を使っても、流石だねぇ」
ソウタは、"自称"マタザの鋭い太刀筋に感心して、褒め言葉を贈る。
「そっ、そのお言葉は、ありがたいですが……むっ!、胸を――ガッチリと掴まれては、既に一介の武人として、女を捨てた、私とて……」
――と、"自称"マタザは頬を赤らめて、照れながらソウタに抗議する。
「!!!!!!!、あっ……そういや、羽交い絞めにした時?!」
ソウタも、一気に顔を赤く染め、羽交い絞めをした方の掌を見やる。
「あ~あ、サトコに言いつけてやろうっと♪
じゃっ!、その前に、次へ突撃ぃ~っ!」
タマは、楽しげにそう言ってから、次に鳳族が密集した草むらを見つけて走り出した。
ギンの牽制、タマの突撃――群がる残りを、ソウタと自称マタザが片付ける。
その戦法が、3度ほど続き、鳳族の遺体や気を失った者の肢体が、20名ほど草むらに転がった所で――
「――ラッ!、ラチが開かん!、動ける者は皆、槍や弓矢を捨てて一所に密集せよ!」
――と、隊長らしき鳳族がそう叫び、それに従う様に敵が集まり始めた。
「――ちっ!」
ソウタは、舌打ちをして――
(――これだけ、数を削られちまったら、奇襲策は間違いなく頓挫。
このまま続けたら、ヘタすりゃ全滅だってのに……退かない気かよ!)
――と、心中に苛立ちを覗かせる。
『――これからやろうとしているのは、"戦"っていう"殺し合い"――敵となったら、殺るしかねぇよ』
『俺たちだけで、全滅させられる』
豪気な事を、ソウタは言っていたが――内心では、希少な種族である鳳族を皆殺しにするのは憚られたし、ある程度打撃を与え、撤退されるコトを望んでいた。
(――ホント、軍隊ってのは面倒臭い。
特に、てめぇの命が危うくても、退かずに任を全うしようとするトコがさ)
ソウタは、呆れ気味にニヤッと笑い、何かを思い出した様で――
(まっ――それは"刀聖たち"も同じで、それが、俺が刀聖の名を嫌う理由なんスよ――師匠!)
――そう、心の中で叫ぶと、一気に形相を険しく一変させる!
「じゃあ、コッチは逆に、バラバラに分かれてやろうか――行くぞ!」
「うんっ!」
「はいっ!」
ソウタたち3人は散開し、三方から鳳族の集団に襲い掛かる!
「ぎゃあっ!」
「ぐほぉっ!
「ぐはぁ……」
――ソウタたちが、鳳族を捻じ伏せる声が夜闇に響き、次々と鳳族たちは草むらの上に倒れていく。
「――うおぉぉぉぉっ!」
それも残り一人となり、その"自称"マタザの前に立つ、一人の鳳族が、鬼気迫る形相で、彼(?)に太刀を振り上げた!
(――っ?!)
それは、"自称"マタザの腕ならば、悠々とあしらう事が出来た、陳腐な斬撃のはずだったが――
「――うっわぁっ!」
――と、彼(?)は思わず、脅えた様な態度で、それを避けた。
ソウタは、そんな"自称"マタザを見やりながら、背後からその鳳族の背中に突きを喰らわす。
「――ぐっ!、おおおおぉぉっ…!」
その鳳族は――"自称"マタザの顔を、ジッと睨んだまま、絶命した。
「どうしたんスか?、疲れました?」
どうにも冴えない動きだった"自称"マタザを心配して、ソウタはそう声を掛ける。
「――いえ、そんな、つもりでは、なかったのです……」
"自称"マタザは、そう言い訳をして、徐に帽子を外して、カオリへと戻る。
(最後の一人は、凄まじい気迫だった……これが、"戦という殺し合い"……)
カオリは、ワナワナと太刀を持つ手を震わせ、ゴクリと大きく唾を呑む。
そして、自分の周りを見渡し、自分が斬り伏せた鳳族たちの姿を見やる。
まだ、息がある者は、斬撃や打撃の痛みに咽び続け、既に絶命した者は、苦悶の表情のまま、目線をジッと自分に向けながら果てていた。
それを、改めて見たカオリの掌には――その者の肉を切った時の刃の感触、耳には――その者の骨を割った時の音が脳裏に甦り、彼女の背には氷の様に冷たく感じる汗が流れた。
(思えば――私は今、"初めて"人を斬った。
そして――"初めて"、人を殺した!)
それを、実感したカオリは、身震いをしながら、もう一度大きく唾を呑む。
「……」
そんなカオリの様子を、ソウタは渋い表情をして眺めていた。
鬱蒼と生い茂る、背の高い草が犇めき合う草むらの中に、身を潜めている甲冑を纏った若い男が、声も潜めてそう言った。
"甲冑"、とは表したが、その鎧の背の部分には、左右に大きなスペースが2つ開いており、それを纏った男の背には、大きな天使の羽根の様な翼が生えている。
明らかに、亜人種の類ではあるが――狼族の様に獣の顔ではなく、顔は完全にヒトだ。
これが、スヨウ建国の昔語りにもある亜人種――鳳族の姿である。
「――よし、後は手筈どおり、身を潜めたまま、ここで夜を明かす。
本陣からの狼煙に合わせて飛翔し、丘上の敵陣に突貫――良いな?」
「はっ!」
飛翔部隊の隊長らしき鳳族は、そう下知をして、付き従う他の鳳族も力強く頷いて身を屈めた。
「――お~!、居るよ居るよぉ~!、沢山の鳳族が!」
その、鳳族が潜む草むらから、少し離れた別の場所で、タマはニヤニヤと笑いながら、極々小さな声でそう言った。
「これが、野鳥の群れだったら、明日は朝から焼き鳥パーティーなのになぁ」
ついでに、タマは残念そうに、そんな軽口を叩く。
「――タマさん、外見的特性を揶揄するのは、御法度ですよ?
タマさんだって、猫に例えられるのは、イヤでしょう?」
そう、タマの発言に釘を刺したのはカオリ――ではなく、"自称"マタザである。
"自称"マタザの言うとおり――亜人種の外見的特性を卑下したりするのは、ツクモでは重大なマナー違反として知られている。
それらを認め合う事こそが、民族和解の第一歩であると、スヨウを建国したノブヨリが演説の中で語った事は、ツクモの民の常識となっている。
「そんなの解ってるよう!、ホント、カオリには冗談が通じないなぁ」
タマは頬を膨らませながら、草むらを改めて凝視する。
「でっ!、ですから、私はマタザ――ぐすっ、もう、良いですよぉ……」
"自称"マタザは少し涙ぐみ、不満気に頬を膨らます。
「おふざけは良いから、タマ――何人居る?、それが知りたいんだよ」
ソウタは、ちょっと苛立つ素振りをして、夜目が効くタマに見える敵の人数を尋ねる。
「う~ん……三十?、四十――五十人、居るかなぁ?、ざっとは、そんぐらいだね」
タマがそう答えると、ギンは得心した表情で――
「――やはり、少ないな。
セイクに住んでいても、鳳族とはあまり出会わなくなっていたし、鳳族の減少は、セイクの様な田舎でも、ウワサになっていたぐらいだからな」
――と、以前聞いたという、集落内での話題を持ち出す。
「ええ、去年――でしたね。
クリ社の中でも、鳳族の減少が問題となったのは」
"自称"マタザも、ギンに応じる様に、話へ割って入る。
「まっ、だからって――俺たちも、アイツらも、これからやろうとしているのは、戦っていう"殺し合い"だ……絶滅の危惧さえ囁かれている鳳族だって、それに足を踏み入れた以上は、敵となったら殺るしかねぇよ」
――と、ソウタは冷たく、ドライにそう言い放った。
「――で?、どんな武装を提げてた?」
「ほとんどが長槍だったね。
あと、弓と矢――空から突いたり、射たりするのを見越してるんだと思う」
ソウタの問いに、タマは私見も含めて、的確に返答する。
「どれも、草むらで立ち回るには不向きな武器――気付かれて、襲撃される想定はしていないな……好都合だ」
ギンは、また得心した表情で相槌を入れる。
「――だな、これなら――」
ソウタが、何かを言おうとした、その時――
「――ですが、タマさんの見立てだけでも、敵の数は単純に我らの十倍。
ソウタ殿、やはり、この数での夜襲には、無理が――」
――と、"自称"マタザは、真一文字に口を結んで、怪訝な声を挙げた。
「――いや、地形に不向きな武装と、夜襲を喰らう事を想定はしていない油断。
これなら、"俺たちだけで全滅させられる"と思うよ」
ソウタは、"自称"マタザの意見を、一刀両断に斬り捨てる様な、かなり強気な発言をする!
「――?!、なっ……」
"自称"マタザは、そのソウタの意見の衝撃に、一旦、言葉を失う。
「――タマ、何人、相手に出来る?」
ソウタは、すっかり呆けてしまった"自称"マタザを無視して、タマへ相談を始める。
「う~ん……あんなにナメた様子なら、兵士相手だとしても、十五人はイケるかなぁ?」
「!!!、じゅっ!、十五ぉ?!」
タマが、サラッと言ってのけた数に、"自称"マタザは口を開け放って驚く。
「悪いが、俺は二~三人が限度だな。
その"地形に向かない"、弓矢が主だからな」
――と、ギンは前口を打って、自分の想定を吐露する。
「ああ、ギンに関しては、元々そのつもり――牽制とか、援護を頼みたくて選んだしな」
ソウタは、ポリポリと自分のこめかみを掻きながら、ギンに自分の考えを伝える。
「あっ、ギンの援護付きなら――二十でも余裕かも!」
タマは、これまでの会話を聞き、想定を訂正した。
「……」
"自称"マタザは、口を開けたまま――
(――ソッ、ソウタ殿だけではない……のか?、傑出した武勇を誇る流者とは!
単身で、数十名の兵と渡り合えるというのは、大武会十六傑級――それに匹敵、いや!、凌ぐ程の猛者が、ココに幾人も?
それも、大武会不参加のまま居るだなんて……ましてや、コケツの出とはいえ、タマさんはまだ、十六の少女なのだぞ?!)
――今度は、驚きではなく、歓喜の笑みを浮かべ、カオリは思わず、深く被った帽子を外す。
(すごい!、凄い経験をしているのだ!、私は!)
カオリは、カタカタと武者震いをして、熱く高揚してみせる。
「カオリさんも……慣れない太刀でも、五~六人ならイケるでしょ?」
ソウタは到って軽く、カオリに戦果の想定を尋ねる。
「はっ、はい!、もちろん、大丈夫です!」
カオリは、呼び名の訂正を言う事も忘れ、両手でガッツポースまで造って、ソウタの問いに明朗に応じた。
「――よし、後の二十を、俺がなんとかすりゃあ……敵の戦意を、ガタ落ちさせそうな結果が出せるな。
じゃあ、夜目が効くタマを先頭に、皆で付いて行って――ギンは、手頃なトコで立ち止まって束ね矢を射って、敵を散らせてくれ。
俺とカオリさんは、そのままタマに付いて行って、タマの目を頼りに集団突貫して、叩けるだけ叩く――良いな?」
ソウタの策の説明に、3人は強く頷いた。
「――!?」
草むらが揺れる音を聞いて、すっかり待機モードだった鳳族たちの間に、否応無しの緊張が奔った!
「なんだ?、獣――か?」
鳳族の一人は、野生の獣が走り抜ける音かと思ったが、矢が宙を奔る音と、それがバラける音を聞いて、表情を一変させる!
「?!、敵襲だ!」
鳳族たちは、その怒号に一斉に反応し、屈む体性を止めて慌てて散開する。
放たれた矢の殆どは、背の高い草に当たって落ちてしまったが、数人の腕や肩、足に命中して、その痛みが散開を阻害する。
「くっ!、敵は――どこだっ!?」
――と、長槍を構え、本格的な襲撃に備える者の前の草むらが大きく揺れ、ソコからタマが、ニヤッと笑いながら飛び出す!
「?!」
――ドゴッォ!
「ぐはあぁっ!!!」
強烈な正拳突きが、甲冑の繋ぎ目を鋭く捉え、その鳳族の瞳は一気に白目だけに替わり、完全にその者は失神た。
側で同じく、槍を構えていた鳳族は、タマの姿を見つけて、一斉に攻撃を仕掛けようとするが――
「――くっ!、槍が、振るえん!」
――背の高い草が、槍の柄に絡み、上手く振るえない!
「――バカ!、太刀に替えろ!、槍では――」
――と、一人の兵が、一応は皆、腰に提げている刀に替える様に、高々と言わ張るが――
「――ぎゃあっ?!」
――そこまで言って、ソウタの斬撃を喰らって倒れ込む。
「――やあやあっ!、我こそは!、皇様の意思に参じ、暴国に鉄槌を下さんとする――モガッ?!」
高らかと、言上を叫んでから突貫しようとしている、"自称"マタザ(※帽子を被り直したので)は、草むらから刀を振り上げたトコロで、ソウタに口を抑えられ、半ば羽交い絞めにされてしまう。
「はいはい、そーいうのは、また今度にしてくださいねぇ……奇襲ってのは、モタモタ出来ないから――あっ、来た」
"自称"マタザに斬りかかる、槍を放った鳳族に気付き、ソウタがスッと彼(?)を解放すると――
「――ぐぅっ!」
――素早い太刀筋で、敵の胴を捉え、彼(?)は息も乱さずに斬り捨てて見せた。
「へぇ、太刀を使っても、流石だねぇ」
ソウタは、"自称"マタザの鋭い太刀筋に感心して、褒め言葉を贈る。
「そっ、そのお言葉は、ありがたいですが……むっ!、胸を――ガッチリと掴まれては、既に一介の武人として、女を捨てた、私とて……」
――と、"自称"マタザは頬を赤らめて、照れながらソウタに抗議する。
「!!!!!!!、あっ……そういや、羽交い絞めにした時?!」
ソウタも、一気に顔を赤く染め、羽交い絞めをした方の掌を見やる。
「あ~あ、サトコに言いつけてやろうっと♪
じゃっ!、その前に、次へ突撃ぃ~っ!」
タマは、楽しげにそう言ってから、次に鳳族が密集した草むらを見つけて走り出した。
ギンの牽制、タマの突撃――群がる残りを、ソウタと自称マタザが片付ける。
その戦法が、3度ほど続き、鳳族の遺体や気を失った者の肢体が、20名ほど草むらに転がった所で――
「――ラッ!、ラチが開かん!、動ける者は皆、槍や弓矢を捨てて一所に密集せよ!」
――と、隊長らしき鳳族がそう叫び、それに従う様に敵が集まり始めた。
「――ちっ!」
ソウタは、舌打ちをして――
(――これだけ、数を削られちまったら、奇襲策は間違いなく頓挫。
このまま続けたら、ヘタすりゃ全滅だってのに……退かない気かよ!)
――と、心中に苛立ちを覗かせる。
『――これからやろうとしているのは、"戦"っていう"殺し合い"――敵となったら、殺るしかねぇよ』
『俺たちだけで、全滅させられる』
豪気な事を、ソウタは言っていたが――内心では、希少な種族である鳳族を皆殺しにするのは憚られたし、ある程度打撃を与え、撤退されるコトを望んでいた。
(――ホント、軍隊ってのは面倒臭い。
特に、てめぇの命が危うくても、退かずに任を全うしようとするトコがさ)
ソウタは、呆れ気味にニヤッと笑い、何かを思い出した様で――
(まっ――それは"刀聖たち"も同じで、それが、俺が刀聖の名を嫌う理由なんスよ――師匠!)
――そう、心の中で叫ぶと、一気に形相を険しく一変させる!
「じゃあ、コッチは逆に、バラバラに分かれてやろうか――行くぞ!」
「うんっ!」
「はいっ!」
ソウタたち3人は散開し、三方から鳳族の集団に襲い掛かる!
「ぎゃあっ!」
「ぐほぉっ!
「ぐはぁ……」
――ソウタたちが、鳳族を捻じ伏せる声が夜闇に響き、次々と鳳族たちは草むらの上に倒れていく。
「――うおぉぉぉぉっ!」
それも残り一人となり、その"自称"マタザの前に立つ、一人の鳳族が、鬼気迫る形相で、彼(?)に太刀を振り上げた!
(――っ?!)
それは、"自称"マタザの腕ならば、悠々とあしらう事が出来た、陳腐な斬撃のはずだったが――
「――うっわぁっ!」
――と、彼(?)は思わず、脅えた様な態度で、それを避けた。
ソウタは、そんな"自称"マタザを見やりながら、背後からその鳳族の背中に突きを喰らわす。
「――ぐっ!、おおおおぉぉっ…!」
その鳳族は――"自称"マタザの顔を、ジッと睨んだまま、絶命した。
「どうしたんスか?、疲れました?」
どうにも冴えない動きだった"自称"マタザを心配して、ソウタはそう声を掛ける。
「――いえ、そんな、つもりでは、なかったのです……」
"自称"マタザは、そう言い訳をして、徐に帽子を外して、カオリへと戻る。
(最後の一人は、凄まじい気迫だった……これが、"戦という殺し合い"……)
カオリは、ワナワナと太刀を持つ手を震わせ、ゴクリと大きく唾を呑む。
そして、自分の周りを見渡し、自分が斬り伏せた鳳族たちの姿を見やる。
まだ、息がある者は、斬撃や打撃の痛みに咽び続け、既に絶命した者は、苦悶の表情のまま、目線をジッと自分に向けながら果てていた。
それを、改めて見たカオリの掌には――その者の肉を切った時の刃の感触、耳には――その者の骨を割った時の音が脳裏に甦り、彼女の背には氷の様に冷たく感じる汗が流れた。
(思えば――私は今、"初めて"人を斬った。
そして――"初めて"、人を殺した!)
それを、実感したカオリは、身震いをしながら、もう一度大きく唾を呑む。
「……」
そんなカオリの様子を、ソウタは渋い表情をして眺めていた。
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