流れ者のソウタ

緋野 真人

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光刃現眼

観戦者たち

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「うっ、ううっ……夜が、明けたかぁ……」

ソウタたちからの夜襲を受け、その場に倒れこんでいた一人の鳳族は、瞳に差し込んで来た陽光を感じ、苦痛に呻きながら目を開けた。


「――敵の、夜襲に会い、壊滅しせし事ぉ……三軍将様に、伝え、なければぁ……勝機を、逸する事、にぃ……」

その鳳族は、懸命に身体を起こし、微かに動く背の翼をはためかせ、マサノリの陣がある南側へと低空に飛んで行った。




「う~んっ!、今日は動き、あるかなぁ?」


ここは、ホウリ平原の西側――ここにも、小高い丘があるが、街道からは離れているため、守勢が陣を張るには、不向きな地形である。

だが、見渡しだけは実に良く、戦の動向を伺うには恰好であるため、物見にココを利用する斥候は多く、ここで両軍の斥候で出くわし、小競り合いとなるケースも多い。


そんな、ある意味"危険地帯"で、のんびりと豆茶(※コーヒーの様に豆から淹れる、ツクモの定番飲み物)を啜りながら、寝起きの眼で草原を見渡す一人の女が居た。


女は、ラフな旅装束を着ていて、その左肩には"白と青の腕章"をはめ、豆茶の茶碗の反対の手には、帳面メモが握られている。

"白の腕章"とは、ツクモの戦場においては"中立"を意味するモノで、"青の腕章"は、その中でも"報道"を意味する色である。


そう――この女は、この戦場を取材しに来た新聞記者である。


女の名はハナ――テンラクに本部を持つ、クリ社発行の新聞『ツクモ全報』の記者だ。

ハナは、"ヒト"ではなく、"卯族うぞく"という、ヒトの容姿にウサギの様な長い両耳が、頭部から生えた、外見的特性を持つ亜人種である。

卯族は亜人種ながら、コレと言った特別な能力スキルには欠けるが、その分だけ、限りなくヒトに近い人種だとも言える。

あえて挙げれば、猫族と同じく、男女比率が女性に傾いている事ぐらいで、もう一つも挙げるとすれば、猫族と同じく、愛玩感をくすぐる外見から、客商売に重宝されている。

ハナの年齢は35歳――オリエと同年代ではあるが、その人種最大の特性とも言える愛玩感に因り、レンとさほど変わらない年齢にも見える。


ちなみに――彼女はそんな外見ながら、主な取材対象は、現状の様に、重めな各国の軍事関係が多い。

ツクモ全報という新聞は、ツクモ唯一の"全国紙"(※ツクモの場合の『全国』は『全世界』と同意)であり、国や地域を問わず、発行されている――とは言っても、輸送に難のある地域には、どうしても3日~10日の発売タイムラグが発生するため、速報性には欠ける。

――だが、クリ社が発行元である事から、青の腕章がクリ社から発行されて、戦場での安全な取材が認められているのは、ツクモ全報だけなので、戦時報道はツクモ全報の独占スクープ状態なのである。


「――アタシの勘じゃ、今日は動くと思うのよね~!」

ハナはもう一口、豆茶を啜って、両陣営の本陣がある場所を凝視していると、彼女の耳に、馬の足音が聴こえた。


「ん?、どっちかの斥候かな?」

その足音に、ハナは慌てて豆茶を喉に煽り、帳面なんかを懐に仕舞う。

(――じゃっ、ちょいと隠れないとね。

小競り合いにでも巻き込まれたら、洒落にならないし)

ハナは素早く動いて、隠れ場所&寝床を構築してある茂みに身を隠した。



西の丘の頂上に至り、跨る馬の脚を止めさせたのは、若い男と奇妙な黒い面を着けた男の二人である。


「ふふ♪、どうなりますかなぁ?、シゲマル殿」

そう、ニヤけた様な声で、馬上から問い掛けたの黒い面の男だった。

「軍師殿……不謹慎ですぞ?

これから、我らがスヨウの武人たちが、命を賭して戦おうという時に」

シゲマルと呼ばれた若い男は、あからさまに顔をしかめ、緊張感に欠ける軍師と呼ばれた黒い面の男を諌める。


("我らがスヨウの武人"?、じゃあ……スヨウの斥候?

でも、二人組で馬に乗ってて、斥候……ではないのかなぁ?)

茂みに潜むハナは、怪訝とした表情を浮かべて、アヤしく思える2人組の素性を邪推しだす。


(それに――"これから"とも言った。

やっぱり!、今日は動き、あるっ!)

ハナは、興奮気味に目線を移して――

(えへへ♪、

ベテランの域に足を踏み入れたハナさんは、隠れながらでも、草原を見渡せるポジションを隠れ家にしたのよ!)

――と、誰にも聴こえるはずがない、心中での吐露を得意気に叫んで、ハナは茂みを掻き分けて絶好の見渡しをキープする。

(でも……このアヤしい二人組も気になるから、一応、聞き耳は立てておこう)

そういう結論に達したハナは、二人組の会話も気にしながらの観戦しゅざいに決め込んだ。



「――おっと、これは失礼。

しかし、"前"大戦の頃から、スヨウの名将と名高きマサノリ様と、内戦初期に、コクエが誇る智将として名を馳せたカツトシ殿との対陣が、よもや、このホウリ平原で実現するとは……軍略をかじる者とすれば、興奮が冷めないのですよ」

黒面軍師は、言葉どおりに楽しげに、まさに不謹慎極まりない態度で、両手を大きく広げて草原全体を示す。


「"先の"ではなく、"前"大戦ですか……まるで、既に、"次の大戦"が起こった様な言い方ですね」

シゲマルは、さらに怪訝とした表情を見せて、黒い面の男を見やる。

「ふふ……だって、そうではありませんか?

この『ホウリ平原の戦い』こそが、その!、"次の大戦"の幕を開く戦となるのですから♪」

黒面軍師は、本当に楽しげに、甲高い声を挙げて喜ぶ。


(――なに?、このヒト……この戦を機に、大戦乱が起こる様な言い方をして?

確かに――畏れ多くも、"皇領を侵す"っていう、歴史的な戦ではあっても、良くない言い方だけど、所詮は"星石採掘権の小競り合い"――それがどうして、他の国まで巻き込む様な、"大戦"に発展するってのよ?

笑っちゃう様な、陳腐な想像力だわ)

ハナは、黒面軍師の根拠が見えない発言に、呆れた様に笑みを浮べる。


「――では、軍師殿……この戦の勝敗は、その"次の大戦"において、後の動きに関係無いと仰っていましたが、あなたは正直、どちらを望んでいるのです?」

「もちろん!、スヨウわれらが勝った方が良いですよぉ~!、我らが皇領を抑えた方が、他国も手を出し易いでしょうしねぇ。

『畏れ多くも皇領を侵し!、それを制した稀代の暴国に鉄槌を下すため!、我らも翼域へぇ~!』――と、翼域侵攻の大義名分が付くでしょうから、コトは早く進みますし」

面で見えないはずだが、ニヤッと笑っている表情が楽に想像出来る、芝居まで付けた言い方で、黒面軍師は言う。


「それが、私が最初に御家方様から聞いた"シナリオ筋書"――その流れは、理解出来ます。

今回の義兵や物資の様に、ツクモの象徴とも言える皇様を、お救いしようとする思いは……敵方となる私も、一人のツクモの民として、その志は解りますから」


(おっ!、御家方様のシナリオぉ~?!、ホント、何を言ってんのよ!、コイツら!

まるで、スヨウの国守ノブタツ様が、ヤマカキ事変の前から、皇領への侵攻を企んでたみたいに――しかも、全ての国が、翼域侵攻を画策してるぅ~?

居るのよねぇ……こーいう、ありえない陰謀説が好きな輩って!、それとも、二人一緒に頭でも打ったのかしら?)

ハナの感想は、呆れを通り越して、2人への哀れみへと変わる。


「――ですが、翼域の覇権を餌に、この世界の"膿"を、翼域という極上の"餌"でおびき出す――という目論見は、皇軍が勝利したら、頓挫してしまうと、私は思うのですが?」

シゲマルは、明らかに嫌悪した表情を黒面軍師に向け、彼の意見を否定する体で尋ねる。


「シゲマル殿――では、解り易く、"例え話"をいたしましょう」

そんな、シゲマルの表情の意味を知ってか知らずか、黒面軍師は、少し悩む素振りを見せてから、また楽しげに話し始める。

「シゲマル殿は――幼き日に、この様な経験がありませんかな?

大人に、"食べてはいけません!"と、食べた事が無いモノを指して、言われた事は?」

黒面軍師は、右手を差し出し、掌に何かを持っているフリをする。

「――ありますね、虫歯になり易くなるからと、蜜を塗った粉餅を食べてはダメだと……」

シゲマルは、子供の頃を自戒し、懐かしそうに微笑む。

対した黒面軍師は、満足そうにうんうんと2度頷く。

「――では、その言いつけを、忠実に守っていたら、一緒に遊んでいた友が、おやつにその蜜味の粉餅を、食べている姿を見てしまった――という経験はいかがです?」

黒面軍師は、落語でも聞かせている様に、その持っているフリを見せていたモノを、大袈裟に口に入れる演技をして尋ねる。

「ええ!、ありました、ありましたぁ!

どうしても食べてみたくて、その帰りに、小遣いを叩いて、隠れて食べましたねぇ~!」

シゲマルは、何度も頷き、これも顔を綻ばせて懐かしむ。


(あ~っ!、アタシもあったなぁ)

耳をそばだてているハナも、シゲマルの経験談に納得して大きく頷く。


「――そーいうコトなんですよ、此度の思惑とは」

笑顔のシゲマルに向け、黒面軍師は含みある雰囲気を醸しながら、そう言い放った。
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